第1話 将騎マサキという人生
将騎マサキ。小説家のペンネームである。
自作のロボットヒーロー物のPV映像を数点持つ逸材。
しかし、一作もテレビやOADや映画にもされていないPRシリーズしかないという。中盤に映像に厳しいBPOに審査される表現がどの作品にもあるから、それが長編物には映像製作者サイドを悩ませるのであろう。
将騎マサキの本名、仲森与仁。二回ぐらい本名をペンネームに当てたが、佳作採用後に親にバレて殴る蹴るの大喧嘩をして勘当を受けた。それから、単身自立して、住み込みアルバイトを続けながらも、暇の時間には原稿用紙にロボットヒーロー物を書き続けてきたのである。
住み込み条件店舗の働き口から卒業すると、激安アパートの物件探しにネットカフェ、カラオケ店のハシゴを繰り返してはアルバイトを挟んで、自宅に連絡するとか帰省とかは考えやしなかった。
そう思うも束の間、実家近辺の無差別放火魔事件が後をたたなく、そうしているうちに実家にまで火の粉は降ってきた。
与仁自身はいないのは判っているが、その家族全員脱出出来ずに焼死してしまったのだった。
仲森家が焼失した日は、一本の作品が10万部売上発表した当日なので、どっと悲しみの涙が水浸しになるくらいにこぼれ落ちた。
キリスト教信者ではないが、教会脇の墓石に洋式埋葬した与仁。
親族が彼を見守る中、しっかりとした定職に落ち着くものと親の代行で厳しく諭したらしい。
そうは言うけど、小説が入選したので、定職は諦めると葬儀後に宣言して、逃げるように親族から姿を消してしまったのだ。
仲森家親族と母方の親族との因縁を絶つと、与仁は将騎マサキ名義で次々とヒット作品を飛ばしまくったという。
文庫版の出版社で知られる『恭玲社』は、将騎マサキを専属小説家に契約を交わしてからヒット数は多くなり、勇者シリーズの『豪機英雄選集』はミリオンセラーになった。
とある導入ジャンル開発部を開いた恭玲社一ツ橋本社は、その新設編集長を豪機英雄選集担当編集長に辞令してきた。
現職ヒーローアクティブ編集長の岡辺裕通は、『マルチアソシエイツ部』に異動され、首を縦に振ってOKサインを表した。つまり、ヒーローアクティブ部は新生編集長に誰かが就く事になる。
出版社ルールでは、デスク役職が編集長に昇任するが、ヒーローアクティブ内部は、デスク担当が昇任すると次のデスクに就く候補がいない事実に当面悩んでいる。
キャリアが長い者が編集長という案が発せられた。水越潔晴が一番長いキャリア編集者だった。『嫌われ者』称号で知られる『ブラック水越』が新生編集長に就任した。
いわゆる水越ブランド編集部になると、現職デスク担当の町屋辰麻は、室内環境の維持が困難になってくる。難癖つける性格の水越がボスだと、却って営業上の波が荒れ果てるから、デスク業務でも編集長の補佐は難しくなる。
もしもマルチアソシエイツ部が新設していない場合だ。
次期の昇任役職については岡辺が新生編集長の候補くらい決められたかも知れない。だが、その岡辺は異動してて水越の一件には相談相手すらいない。
新設部の現行俗称の『M.A.LITE』は、未発表で非公開状況にある。一部の業界人間しか知らない機密情報だ。
その業界人間の小川唯巴は、若干25歳だが、キャリア的には水越に並ぶ凄腕編者なのだ。
唯巴は何故か情報通でM.A.LITE情報を把握していた。
いつか、与仁が訪問してきた頃に、担当外の小川が急接近してきたのだった。
「えっ⁉ 岡辺編集長が異動? 新設部って小説編集部なのですか?」
「そうなのよ。M.A.LITEというとこ。今なら間に合うわ。プロアマ問わずの募集要項は未発表だから、応募すると良いかもよ」
「よし、やってみようかな」
「ええ、やるべきよ‼」
数日後。M.A.LITE小説大賞の募集要項が発表された。
新作を与仁は当日にスピードアップで書き下ろした。
約半年後に大賞作にならなくとも作品選考で審査員特別賞を受賞した。
新編集長の水越から、島浦祐は大目玉を食らわれた。
与仁はこの島浦の編集部担当であり、上層部から水越を通して契約ダブリの違反を犯した編集者の自宅謹慎を命じてきた。
現在契約中の作家を別編集部の複数作品の応募行為は社長の確認が取れないときに行えば、謹慎処分が下される。
島浦は、その事実は初めて聞いたというから、自宅謹慎処分のみで済まされたのだ。
後日。
ヒーローアクティブ部編集長の水越は島浦を担当する契約作家を応接室に呼び寄せた。
「今後からは、勝手に当編集部に無関係な編集班との応募行為は、社長の目を通さなくとも、この水越に報告してください。それが元に編集者スタッフが就労に支障をきたす事になりましたので、お気をつけ願いたい。ご理解いただけましたか? では、貴重なお時間を無駄にしてしまいましたが、ここらでお開きします。では、解散します。本日はご足労いたしまして誠にありがとうございました」
まるで子供の嫌味を聞かされただけの呼び出しだった。
各々作家陣は、気を悪くしながら帰宅していった。
それからというもの、審査員特別賞の掲載作品は受賞作無しで処理された。『月刊M.A.LITE』誌上に作品紹介取消という隠蔽が上層部の計らいで決定されたという。




