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婚約者になった公爵令嬢は、我儘をつき通す  作者: 星見蒼


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第0話 公爵令嬢は夢を見た!?

 カーテンの隙間から届く光が目に入って、クラリッサはゆっくりと覚醒する。

 ぼんやりとしていた頭が徐々に働き始めると、昨夜のことを一気に思い出した。


(アリスさん!! アリスさんとダンスしました!!)


 クラリッサは寝る前も大興奮だった。眠れないのではないかと思ったほどだ。実際何度も寝返りを打ったし、アリスさんの手のぬくもりとか、声とか色々思い出してはゴロゴロしていたはずなのに、気づいたら今、目を覚ましたところだった。

 

(夢……ではないですわよね? わたくしアリスさんとダンスしましたよね?)


 これほど明確な記憶なのに、なんだか夢のように感じてしまう。

 夢ではないという証拠が、どこにもない。


(いえ!! お母様に訊けば分かるはず!!)


 クラリッサは呼び鈴を鳴らして侍女を呼ぶ。

 とにかくすぐに着替えてお母様の部屋へ。



 * * *



(……はぁ)

 

 アリステアは目を覚まし、ベッドの上でため息を吐いた。

 昨夜のことを思い出したのだ。


 彼女の嬉しそうな笑顔、やわらかい手のぬくもり、近くで感じた熱。

 そのどれもが今はどこにもない。

 

 ベッドから出て、アリステアは机へと向かう。

 机の上には、『身上書』が置いてある。


 昨夜のうちに、アリステア自身で書き加えた一文を見つめる。


(……震えて書いたのが、バレないといいんだが)


 少し不格好なそれに、書き直そうかとも思った。

 だが、書き直すということをしたくなかった。

 この震えた文字ごと受け止めてほしいという、愚かな想い。



 アリステアは身上書を机の上に戻し、身支度を整えた。 



 * * *



 クラリッサは着替えるとすぐにお母様の部屋に突入しようとしたのだが、途中でお母様付きの侍女に止められた。どうやらお父様がお母様を占領しているらしい。たまにこういう時がある。いつもは大人しく引き下がるが、今日はクラリッサとて譲れない。侍女が止めるのを無視してお母様の部屋へと強行突破しようとしていると、イーディスが飛んできた。


「イーディス、わたくしお母様にどうしてもお会いしたいのです」

「……ダメです。それから、奥様から伝言です」

「伝言?」

「ええ、『貴女は確かにアリステアさんと踊りました。それも何回もふたりでずっと』とのことです」

「さ……さすが、お母様ですわ!!」


 クラリッサは思わず叫んでしまう。

 そして改めて自分の手を見る。


「わ、わたくし、アリスさんとダンスしましたの!!」


 手を開いたり閉じたりを繰り返す。

 喜びが全身を駆け巡り、その勢いのままイーディスの手を取ろうとして、ハッとした。


「だ、ダメですわ! この手は誰にも触らせません」

「……左様でございますか。とりあえずはお部屋に……いえ、朝食を取りましょうか? ……マリア、いつまで眺めているのですか」

「あ、はい。浮かれ具合が凄いのと、本当にお嬢さまがアリスさん……」

「んんっ!!」

「お嬢さまがペンフォード様と踊られたとちょっと驚いているところです」

「……マリア、ペンフォード伯爵子息様の呼び方を言い直す必要はありましたが、それ以外は余計なことです」


 マリアがいつものようにイーディスに叱られているけれど、クラリッサはマリアの言う通り浮かれていたので、そんなことは気にせず、るんるんと鼻歌を歌いながら、食堂へと向かった。



 * * *



「……本当に、いいんだな?」

「はい」


 朝食を終え、父の執務室へと向かったアリステアは、『身上書』を父に渡すと、改めて意思を確認された。

 母はソファに座り、こちらの様子を見守っていたが、耐え切れなくなったのか、おそるおそる口を挟む。


「アリステア、そんなに急がなくても……」

「母上、公爵令嬢と何度もダンスをしておきながら、そのまま放置はおかしいでしょう?」

「そ……そうですわね」


 母がため息を吐いた。


「では、すぐにでもブランデルウッド公爵家へ届けてください」

「……昨日の今日だが」

「ええ。時間を置く必要もないかと」

「まぁ、そうだな」


 父は『身上書』の一番下に署名をし、家印を押す。

 そして家令を呼び、『身上書』を託した。

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