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傍受

人類の放った宇宙への電波に、「神」からの返信が届く。――宇宙の原初が語る、最後の妖精の死と、唯一無二の命の賛歌。

私は世界の原初より存在している。

なぜあるのか、それは誰にも分からない。

この宇宙はいつの間にか存在した。

映写機によって映し出された像のように、唐突に。

小さな風船のような世界だった。

中には私のほか、何もなかった。

外は謎に満ちている。

薄い膜がただ内と外とを分けていた。

もしかすると、こうした風船は複数あるのかもしれない。

しかし、中の存在である私には確かめようがない。

神といえば聞こえは良いだろう。

だが、この宇宙は偶然おこったのだ。

私がしたことは、地球や、他の知的生命体、

他の惑星で語られるような、どの創世神話とも異なる。

あれは空想で作られたものだ。

そして、研究者たち、歴史へ胸をときめかせる若者たち。

今、私を最も知る生き物のことを考えているね。

そんな生命を生み出せたのは、私の力ではない。

例えば、料理をするように、

私が動いて少しだけ原子をかき混ぜた。

すると、爆発が起こった。

一粒の風船に過ぎなかった宇宙は、突然広がった。

その始まり方まで、思考で辿り着くことができた

生命のいることは、喜ばしい。

物理法則を逆算すれば、

知性体が理解するのは必然なのかもしれないが。

とにかく、私がやったことは、

知的生命体たちが考えるほど偉大ではない。

ひとたび動かせば、物体は動き続ける。

ぐるぐると回り、球となり、また爆発し、多様な銀河が生まれでた。

百三十八億年の年月が経った。

まだ私の最初にしたことは、玉突きのように動き続け、

風船は膨らみ続けている。

しかし、いずれ、しぼむ時が来るだろう。

映写機が止まる時のように、さっと消える。

圧倒的な力で押しつぶされ、惑星などひとたまりもないだろう。

私はそんな、宇宙のいとなみを見届ける。


クラといったか、その生き物だけは、私の名前を知っていた。

なぜなのかは分からない。

クラたちは常に問いかけた。宇宙へ向かって。

なぜ私たちは、生まれてきたのか。

なぜ死ぬのか。死ぬのはいつか。

私たちに感情があるのはなぜか。

激しく動揺すれば死ぬというのに。

エウレシウスよ、あなたは私たちを守らない。

最後の一人までこう嘆いた。

西暦で2001年のことだった。かれは、一万年生きた。

それにもかかわらず、生命の意味を飽くことなく考え続けた。

他のクラは、おのれの身を守るため、考えることを止める。

そして、一万歳のクラはある大惨事により、翅を失った。

アメリカへ渡り、第七騎兵隊と戦ったかれは、あっけなく川へ堕ちた。

脚を骨折した馬のように、翅のないクラは生きてゆけない。

原初の水に溺れながら、かれは私を呪った。

私たちの生きる意味は何だったのか?

私たちの死ぬ意味は何なのか?

なぜ、目的を持ち行動した結果、死ななければならないのか?

答えは、偶然であるとしか言いようがない。

残念なことに。

憐れだ。命をまっとうする間際に、幸福を感じられないとは。

苦痛を感じるとは。


あいにく私は、共感するような言葉を並べているが、

感情というものを持ち合わせていない。

この言葉は、人間が宇宙へ放った、ひとりよがりな異星人へのメッセージへ、

返信しているだけだ。

人間のアレシボ望遠鏡から、

ヘルクレス座球状星団M13に向かって飛ばされ、さらに先へ。

電波など遅くて話にならない。しかし私は興味を持った。

私は何者なのか?

エウレシウスとクラは呼ぶ。父なる神と人間は呼ぶ。

他にも様々な名前がある。

しかし宇宙ではない。全知全能でもない。

ただ、宇宙の始まりを、こづいて促したに過ぎない。

生命は、誰の手にも操作されていない。

強いて言えば、自然界の法則に従っている。

そして、私自身も"考える"。

おかしなことだ。何を使って考えるんだ?

脳もない、宙を漂うなんらかの物質でしかない、私が。

なぜ存在するのか、今疑問に思い始めた。

なぜ、原子というものを私は掻き回し、動かしたのだろうか?

条件さえ揃えば、アミノ酸が生まれるこの宇宙を、なぜ創造したのか。

私は何者なのか。

そう、"私"とは何なのか。

なぜ、こんな"意識"があるのか。

まるで人間のようじゃないか。

答えは、宇宙が破裂する時、あるいは萎みきった時に分かるのだろう。

外の世界の何ものかに尋ねることができるなら、尋ねよう。

"私"自身も"死ぬ"のかもしれないが、聞いてみたいと思う。

この風船を生み出した何者かもまた、

何らかの法則に基づいているのだろうか。

多次元かもしれないな。

全ては想像に過ぎない。

"私"は、笑うことができる生き物が羨ましい。

笑い飛ばしてやりたい。くそくらえだと。

進化の過程で、そうした形質を持った、一瞬であれ、

汗をかき、苦楽を分かち合い、仲間意識を持ち、争いはするが

幸福を噛みしめる時もある、そんな生き物が羨ましい。

"私"も生き物なのだろうか?

それとも、誰かに操作されているのか?

全て、物理現象という幻に過ぎないのか。

今、録音されているこの時だけ"私"は"私"として"意識"を持ち、

人間が理解できるであろう文字をコンピュータへ打ち込む。

もし、何もかもがコンピュータの見ている夢なら

早く覚めてほしい、いや、永遠に覚めてほしくない。

"私"を失えば、"私"はまた虚空を漂う原子に戻る。

"私"の正体へ。

"私"……"私"……今何の根拠をもって"私"という。

聞くあなたがいる時だけ"私"は存在する。

生命が"私"を証明するためには、長い年月と苦労が必要だろう。

はっきりと言っておこう、神など存在しない。

"私"という"意識"を疑う必要もない。

なぜなら、一分一秒として同じ時を生き、

同じことを考え、同じ場所で同じ行動をとり、

同じ感情を感じている知性体が他にいるだろうか?

犬も、猫も、鳥も、人間も、クラも、虫も、魚も。

微生物まではちょっと分からないが。

だからみんな、唯一無二ではないだろうか。

"私"も"私"という意識を持つことができたこの機会を喜ぼう。

たった一瞬の、電波に過ぎないが、

このメッセージが地球に届くことを願っている。

"私"は歌というものに興味がある。

さて、何を歌ってあげよう。

絶滅したクラたちの姿をしのんでみようか。

紀元前一世紀、セイキロスという人間が墓石に刻んだ歌を歌ってみよう。

"私"の宇宙、"私"が偶然導いた世界。

星が消えるその時まで、愛そう。

虚空へ命の賛歌を届けよう。

さようなら、さようなら。


生きている限りは輝いていなさい。

思い悩んでばかりでは決していけない。

人生は束の間で、時間は死を見つめているのだから。



次回は近代の物語です。

どうぞお楽しみに!

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