75 昭和の宿
「はあ、お前らレベルアップにどん欲だなぁ」
夏なのによくやるよ。おっさんは動くだけでげんなりだ。
現在はミオコ達とレベルアップ期間中。
最近は700の鵺と600のダンジョンボスをマラソン中。
黒川は遠いからやだって言ったらミオコがテレポートで運ぶから行こうって。
「ウチらもブロンズダンジョンでは役立たずだったんで」
「ブロンズダンジョンも更新止まっちゃったみたいね」
俺と綾元さんパーティで到達した100階層で更新が止まってしまった。
100の中ボスがあんなやつだからみんな抜けれないんだろう。
バハムートの火炎放射器が無ければ俺達も無理だったはずだ。
「おじさんはバハムートの火炎袋持ってるの?」
「いや、売ったな。必要になるなんて思わないもの」
火の魔法は俺も使えるけどあの火力は出せないなぁ。
まあ101のセーフティエリアまで行ったからもう戦わなくて済むんだけどね。
「ではおじさん、明日も…」
げんなりする。俺も海にでも行きたいよ。
目の前にビキニの女はいるけれど、見飽きてる奴らだ。
嫁の居ぬ間に目の保養くらいしたいなと思いながら翌日も頑張るのであった。
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8月 北海道12日目
「鹿だー-!」
「普通に道歩いてんだね」
知床半島に入った。本日は先に岩尾別ダンジョンに潜り、その後ウトロダンジョン近くのホテルで泊まる予定。
お店が無さそうだったのでレストラン併設のホテルを選んだ。
「うほほ、この辺も景色凄いっすね!」
途中、滝に寄ったり展望台に寄ったりしながら岩尾別ダンジョンへと向かう。
「わわ、道が滅茶苦茶狭い」
「この辺はもう秘境だね」
「向こうにも滝あるみたいっすよ?砂利道だけど」
砂利道は厳しいよ。あたしスクーターだし。
タイヤ小さいと石踏んだだけでよろけちゃう。
サスが固いから振動強そうだし。
「アドベンチャーなら楽だろうけどね」
「うん、行ってみたい」
ぐぬぬ、仕方ないな。我儘ばかりも言ってられない。
クオンちゃんに付き合い狭く長い砂利道へ。
「いだだだだだ」
「アメリカンが一番キツそうじゃん」
スリップしまくり、タイヤが横に滑ってしまう。。
馬力がありすぎるのだろう。あ、こけた。
「いてー、もう、重すぎるんだよこのバイク」
「起こすの手伝うよ」
冒険者なので起こすのくらいは簡単なんだけど、砂利道だと踏ん張り効かないし足もバイクも滑っていっちゃうから難しい。
よっこらせっと、ああ、おじさんみたいな声出ちゃった。
「ごめんね?私の我儘で」
「いえ、見つけたのウチっすから」
苦労して何とか到着………なんか、滝って言うより渓流?なんだろ?
「今は入れないみたいだけど、温泉みたいだね」
「温泉が流れてきてるんすか?」
ふーん…これ以上の感想が出てこないな。も、戻ろうか。
岩尾別ダンジョンに到着、寄り道してたから2時間くらいかかってしまった。
途中のコンビニで買った昼食を食べてからダンジョン攻略、4時間弱で制覇。
ではウトロに向かおうか。20分ほどで到着。
「ここ、良いホテルだね。外国人もいっぱい」
「自転車の外国人が結構いたよね」
「自然が好きなんすかね。外国の人は」
リゾートホテルにチェックイン。
この後夕飯食べてまたダンジョンだけど、少しゆっくりしよう。
「よし、洗濯行ってくる!」
「洗濯がめんどいっすよね」
「エレナ、家ではやってないの?」
「うん、お母さんに頼りっぱなし」
あたし、下着見られるの嫌だから自分でやってる。
洗濯機が勝手にやってくれるからそこまで苦でもない。
「たたむの嫌じゃない?」
「うん、面倒だけど…」
「どうせまた着るのに、だからタンスにぽーいって」
「しわになっちゃうよ?」
確かに面倒、今は旅行鞄に整理して入れるのが面倒だ。
旅行鞄はアイテムボックスに入れられるから、他の旅行者よりは身軽に動けるんだけどね。
「もうパンツそのままアイテムボックスに入れようかな」
「女子としてそれはどうなの…」
一緒の事だけど、なんか違う気がする。
細かい事を気にするのは日本人の悪い所だろうか。
その後、ホテルで夕食を食べてからウトロダンジョンを制覇した。
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翌日、北海道13日目、羅臼ダンジョンへと向かう。
「昆布だー!」
「羅臼って言うとそれだよね」
峠道だけど快適だ、途中展望台に寄って一休み。
「この道、冬は通れないらしいよ」
「へえ、じゃあ滅茶苦茶遠回りになるんすね」
直通なら40~50分の道、回り道だと2時間だって、夏で良かった。
「下りは曲がりくねってるね」
「うおお!曲がり切れない!」
エレナはまた四苦八苦している。
重いから止まらないのとカーブの連続で大変そう。
この旅が終わったらあのバイク売っちゃうんじゃないかな。
「はあ、足が長くなる薬でもあれば」
「おじさんに聞いてみれば?髪生えてたし」
「おお、確かに」
「駄目だよ?エレナはちっちゃいのが可愛いんだから」
「パイセン、ウチの事好きだったんすか?」
たわいのない女子トークをしているうちに着いた。
そして羅臼ダンジョンを4時間弱で制覇。
「さらば昆布の町」
「さて、ここからなんだけどね。根室に行くなら先に中標津ダンジョン、行かないなら尾岱沼ダンジョン、どうする?」
昨日の夜、どうせなら日本の東端も見ておきたいと意見があがった。
ただ、根室にはダンジョンが無いんだよね。なので結構な寄り道になってしまう。
まあ正確にはどっかの島が最東端らしいんだけど、気軽に行ける場所ではないらしい。
なので手ごろな東端を目指そうと言う話。
「根室には久々におじ様おすすめの店があるっすよ」
「店と言うか宿だね。花咲ガニが食べられるのも確かに魅力的」
「行ってみない?この機会を逃すと次はいつ来れるか解らないし」
「ウチも賛成、エスカロップ?とかいうのも気になる」
「じゃあ今日は中標津で泊まって、明日は尾岱沼を潜って泊りは根室って事で」
と言う訳で宿を予約、根室のお宿は夏だと予約が取れない事があるらしいので早めの予約。
おお、予約取れたよ。では順番あべこべになったけど中標津のホテルも予約、こっちはレストラン併設だ。
「じゃあ行こうか。中標津まで1時間半」
「ウチらもなんか旅慣れてきてないっすか?」
「あはは、これだけ自分達でやってればねぇ」
スマホがあるからそんなに迷う事も無い。宿だってすぐに検索できる。
おじさんの時代は大変だったんだろうな。
田舎道を南下、南下、南下、休憩なしで中標津に着いた。
ホテルにチェックインして一休み。
「あれ?おじさんからRINEが来てる」
「本当だ。さてはおじ様、最近画像送ってないから寂しいのかな?」
ーお盆はどこも混むから宿の予約は早めにするんだぞー
「気遣いの人だったっす」
「確かにそうだよね。でもその頃どこにいるかまだ読めないよね」
「うん、札幌と被らなければいいんだけど」
札幌は混むよね。帰省客も旅行客も来るだろうね。
田舎なら値段は高くてもどこかしら空いてるんだろうけど。
「エレナ、何してるの?」
「おじ様にお礼の色っぽい画像を、チュ♡」
なんかキス顔送ってた。おじさんから鼻ほじってるスタンプが送られてくる。
エレナ、ご苦労様。
その後、夕食を食べてから中標津ダンジョンを制覇した。
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翌日、北海道14日目。
「………」
「エレナ、今日は叫ばないの?」
朝から読めもしない尾岱沼ダンジョンへ向かう。
バイクで40分、4時間弱で制覇、近くのコンビニで遅めの軽い昼食。
「じゃあ根室だー!花咲ガニがウチを待っている」
「ここからバイクで1時間半くらいかな」
では出発。現在13時半、15時には着くのか。
どうする?時間あるけど夕方の納沙布岬を見ておく?
「東端だし朝日を見るべきじゃない?」
「ええ?何時起きになるのそれ」
「日の出4時とからしいっすよ?」
それは無理、宿から30分かかるとして準備も入れて3時起きじゃん。
「うーん、無理か」
「まあ明日の午前中に見て昼にエスカロップ食べて次に向かうで良くないっすか?」
「あたしそれ賛成」
クオンちゃんも納得してくれたようだ。3時は無理だよね。
朝日を見たくない訳では無いけれど、無理してまで見る物でも無いと思う。
曇ってたらそこまでだし。
途中、道の駅を見つけて少し休憩。
道中何度か見かけたけど利用するのは初めてだ。雨降った時は便利そうだね。
「大型は良いぞー」
「「「………」」」
足早に道の駅を出発し、根室市街へ。
おじさんおすすめの宿に着いてみたんだけど…
「ここ?」
「なんか……ひなびてるっすね」
旅館って書いてあるけど高級な雰囲気ではない。
かなり古そうな建物。少なくとも女子高生が選ぶような宿じゃない。
入るの勇気いるんだけど。
「う、ウチらもこの旅で成長してるはず。いざ参らん」
「おおエレナ、かっこいいよ」
がらがらがらがら
「す、すみませーん。予約した者ですけどー」
中も昭和の雰囲気だ。階段に絨毯、置物がたくさんある。
人が出てきた。物腰柔らかくて良い印象を受ける。
部屋に案内される、古い建物だなぁ。
想像通りの和室。トイレは別か。
「部屋食なんですか?あたし、初めてかも」
大体どこも今は食堂で宿泊客まとめてだよね?
昭和の接客を残した宿なんだね。
夕食まで時間がある。少し時間をつぶすか。
「最初はどきどきしたけど、入ってみると落ち着くね」
「うん、急須があるよ。お茶飲む?」
お茶淹れてくれるの?あたし淹れた事無いかも。
自分でやってみたい。お湯淹れてどれくらい待てばいいんだろう?
お茶とお菓子を頂く。ああ、一息付けた。
「夕食前にお風呂入る?」
「後が良いかな。カニって手が汚れるでしょ?」
「そっすね、ウチも後でいいや」
じゃああたしも後で。
別にみんなの裸が見たいからじゃないよ?
夕食が来た。支配人さんが料理の説明をしてくれる。
場所が場所だけに、お客さんが再び訪れるとは思ってない。
なのでその一度の為に真剣に料理を作っているとのこと。少し涙が出た。
「茶碗蒸しうっま!!なにこれ!」
「ええ?今まで食べてたのと別物じゃない?」
「出汁がすごいね!感動する」
「おじ様が茶碗蒸し好きって言ってたのこういう事か。あの人ウチらと違う茶碗蒸しを食べてたんだよ」
「あはは、ずるいよね」
最初に食べて欲しいと言われた茶碗蒸しの先制パンチ。
他のおかずもどこもこれも美味しい。
「ああ、味濃いんだね。花咲ガニ美味しい」
「濃いねえ。そして量も多い、食べきれるかな?」
「ウチが食べるよ?」
焼き魚1匹に刺身もあって、カニもたくさん。
盛りだくさんの夕食だった。ふう、堪能したー。
「あー良いもんだね、昭和の宿」
「あたし、また来たい」
「次か…いつ来れるんだろ」
なかなか来れる場所では無い。
日本の東端があるとは言え、それを何度も見る為に訪れる人は少ないだろう。
「テレポートを覚えてまた来ようよ」
「そっか、その手があったね」
すぐの話ではない。覚えるのはいつの事になるだろうか。
それまでこの宿が続きますように。
ルシルは今日この瞬間を深く胸に刻んだ。




