102 年末
「おりゃ!天狗のうちわ!」
熱海150階層の小ボスが吹っ飛んでいく。
飛んでいった先で目を回している敵に攻撃を加える。
本来の使い方とは違うかもしれないけどとても便利な道具だ。
これを何度か繰り返すことで小ボスを倒すことが出来た。
145で止まっていた階層更新も出来てこの先へ進めるようになった。
「エレナ、さっそく使いこなしてるね。でもおじさん、時々壊れるって言ってなかった?」
「言ってたね。でもゲームでもさ、アイテム出し惜しみして結局使わずに終わるってことあるじゃん?」
「解んない、ゲームやらないし」
ルシルはゲームやらないんだっけ。
先に使っちゃうと後で困ることになるんじゃないか?って心理が働き、結局使わない。
貧乏性と言うか、そういう事が多々あるんだよね。
「おじ様は300層くらいまでって言ってたし、じゃあ今のうちに使っとこうかなって」
「あたしは奥の手にしとこっと」
「それ、使わないやつだよ?」
「そうなんだ?あはは」
これを使えば手ごわいと思ってた敵も楽に倒せる。
ウチは今が大事、冬休みで時間もあるしレベルアップに使わせてもらう。
「でもさ、クオンちゃんが帰って来てから使った方が経験値も増えるし良いんじゃない?」
「パイセンあと1か月半は戻ってこないでしょ?待ちきれないよ~」
確かに経験値的にはそっちの方が美味しいように思える。
でも先に進むほど経験値は高くなる。今進むか後で進むかで取得経験値合計にも差が出る。
どっちが本当に得なのかな?
「考えるの嫌だから本能で進むよ」
「あはは、了解」
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「今年も終わりだなー」
楓を抱きながら窓の外を見る。
雪がぽつぽつ降ってるな。東京では珍しい。
「トモカ、正月は熱海に帰るのか?」
「はい、なので30から3日まではバイト休ませてください」
大学生は冬休み、トモカが毎日来てくれるようになった。
今日は冒険は休みでカミナは今風呂に入ってる、なんだかんだトモカが居てくれるとゆっくり出来て助かってる。
「ミルク出来ましたよ」
「ありがとう。雪降ってんのに来てもらって悪いね」
「春休みはもっと来れますよ。大学生の春休みは長いので」
2か月くらいあるもんな。また頼む事になるだろう。
もう楓はトモカを母親だと思っててもおかしくない。
「たしかに楓ちゃん、わ、私のおっぱいを探すんですよね」
「あはは、本能だろうね」
「全然無いので申し訳ないです」
「はは、は」
き、気まずい。カミナ早く出てきてくれないかな。
もう信頼してるのかトモカに対しては全然浮気を疑わなくなった。
母親の立場が危ういというのに呑気な奴だ。
「ふう、楓は渡さないよ?」
「わ!聞いてたんですか?」
「カミナ、素っ裸で出て来るなよ」
「どうせGODとトモカしか見てないでしょ?」
そうだけどさ、風邪でも引いたら…
楓の為に過剰なくらいあったかくしてるから大丈夫か。
「…やっぱりすごい体ですよね」
「まだ全然気に入らない。お腹が戻ってない」
「贅沢ですよ、私なんてこんなにチンチクリンなのに」
「そう?トモカも可愛いと思うけど」
「いえいえ、私なんて」
女の慣れあいが始まった。こういう時男は黙ってるしかない。
結局気まずいままだった。
「トモカ、ゲームやろうよ」
「い、いえ私一応バイトで来てるんで」
「カミナ、服着てからにしなさい」
ゲームしてていいよ、母親がリラックス出来るなら楓にとっても良い影響だ。
楓もミルクを飲んで寝てしまった、俺も風呂に入ってこようかな。
トモカのお陰でゆっくり湯船につかれそうだ。
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「ビキニアーマーGET!」
「やっと一つ出たわね」
由布院ダンジョン前広場
「ケイト、先にどうぞ」
「え?いいの?ナナコも欲しがっていたでしょう?」
「私は後衛だからね。でも私の分が出るまでちゃんと付き合ってよね」
防御力が格段に上がるビキニアーマー。ついに手に入れることが出来た。
問題はこれを母国に持って帰れるかどうかだけど、今考えてもしょうがないか。
着てみた、露出が多いように見えるけど肌色の部分まで透明なコーティングがされるビキニアーマー。
自分で言うのもなんだけど似合ってるわ。凄く嬉しい。
「おお、さすがケイト、男の視線を釘付けだよ」
「ありがとう、でもこうなってくるとルビーとサファイアも欲しくなってくるわね」
「欲が出ちゃうよね。ここが終わったら箱根か草津に行く?」
ステップアップとしてはもちろんそうなるだろう。
でも私、いつまでもこんな事してていいのかな。
当局から密命も受けてるし…
タワーダンジョンや別府の777を抜ける話まで出てきてるし、そっちだって気になる。
選択肢が増えすぎなのよ。日本ばっかりズルいわね!
「まあまあ、ベルギーの王族の留学を受け入れたって話だし、これから留学も広がっていくんじゃないかな?」
「そうなるのかしら?」
「問題が無ければそうなると思うよ?日本はすぐに妥協するから」
「ふふ、そうかもしれないわね」
そうなってくれれば私の密命も他に回せるんじゃないかな。
やっぱり抵抗あるのよね、好きでもない男とそんな…
それを期待して密命はもうしばらく無視しよう。
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「サイコロ二つ目GETです~」
「おめでとうございます、お嬢様」
道後ダンジョン前広場
「これで残りは二つですね。集まったら別府に行かれるのですか?」
「そうですね~勾玉欲しいんで~」
オロチが見えてきましたね~。
でもタワ~の方も気になりますね~。
「流星群も欲しいですし~」
「オロチに効くなら先にそちらに行かれるのも手かと」
どうなんでしょうね~。
でも凄かったですよね~。
「奥飛騨タワーは攻略進んでいるのでしょうか~?」
「いえ、おそらく100を抜けたのはあの方だけかと…」
「手伝ってもらえないですかね~?」
「お、お嬢様の好感度次第では?」
「え~ん、最近冷たいんですよ~」
「……(またやらかしたのか)」
あの人も魔法を使ってたから自分で覚えるかもしれない。
お嬢様と一緒に取りに行っても今度はもめる気がする。
そもそも超レアっぽい魔法だった。出る保証もない。
「ですが奥飛騨タワーはこちらより混んでいません。もし倒すことが出来るなら、中ボスなので連戦できますし…」
「う~ん、サイコロ中断して挑戦してみます~?こっちは順番待ちで疲れちゃいますし~」
「バハムートより強いなんて事はないかと」
900ダンジョンボスのバハムート。
奥飛騨タワー100層の中ボスは実質900階層の中ボス扱いになる。
中ボスがダンジョンボスより強いなんてことは無いと思いたいが…
「まあ、いざとなったら絶対防御張りながら逃げればいいんで~」
それがあるからこの人は強い。
討伐が無理なら仲間を守りながら逃げることが出来る。
そうしてここまで無茶とも思われる討伐を繰り返しながらレベルを上げることが出来た。
「う~ん、でも~、やっぱり情報の少ない敵は怖いですね~」
それは確かに…今我々が歩いてる道もあの人が作ったレールの上だ。
道を切り開き、日本の資源大国化への道筋を作った功績には頭が下がる。
「やっぱり慎重に行きましょう~、奥飛騨タワーはもうちょっと情報が出てからで~」
「かしこまりました」
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「はあ、眼福だわー」
熱海ダンジョン受付、葉山 加奈子。
最近熱海ダンジョンにはベルギーの王族が来るようになった。
気品漂う姿、プラチナブロンドの神々しい髪をなびかせいつも笑顔でダンジョンに潜っていく。
連れの貴族様もみんな素敵なのよね。
「でもあんなに可憐なのに危険なダンジョンに潜るだなんて、王族も良くわからないわね」
苦労知らずで生きて行ける立場でしょうに。
それとも窮屈な立場にうんざりしているのかしら?
働かないで良いのなら私が変わってあげたいくらいだわ。
「カナコ、この人のデータを本部に送っといて」
「レベル392、36歳…また復帰?最近多いわね」
「タワーダンジョンが出来たから増えてるって話だけど…どうなのかな?王女狙いって疑ってる人もいるし」
はあ?15歳の王族狙ってんの?身の程知らずなの?
21歳も違うじゃな…あ
「33歳も下のカミナさんをGETしたおじさんがいるから夢見ちゃうのかもね」
「いやでもいくらなんでも未成年の王族よ?」
「その人は確かに怪しいのよね。独身だし加賀で潜ってた人なのにわざわざ熱海で復帰申請してるし」
転居までして来た人なの?加賀は熱海と同じ500だ。わざわざ移動してくる必要が無い。
何か他に事情があるのかもしれないけど確かに怪しい。
「こんな人、本当に復帰させていいのかしら?」
「でも確証がない以上断る訳にもいかないでしょ?」
「ねえ、留学は海外の冒険者が問題起こしそうだからって話だったけど、日本の冒険者も人の事言えないんじゃ?」
「ほんとよね、国際問題にならなければいいんだけど」
熱海はただでさえ忙しい場所なのに、問題起こすような事が無ければいいけど。
王女が嫌な思いしたら可哀そうだし、残業したくない。
あーーー残業したくない!
「ちょっと今は復帰者が殺到してて申請に時間がかかるって事にしない?」
「ええ?そんなこと勝手に…」
「まだいるんでしょ?私が話してくるわ」
「ちょ…」
後日解った事だが、歳老いた母親の為に寒くて雪の多い北陸から引っ越してきただけの人だった。
温泉が好きで地元を離れたがらなかった母親に、同じ温泉地として熱海に家を準備した優しいだけの人だった。
その後、葉山 加奈子は滅茶苦茶怒られた。
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「クオン、また勉強してるのか!」
「じいちゃん、寒いから急に開けないでよ」
ノックも無しで、この年齢だと新しい事覚えるの無理なのかな。
「ノックっつってもふすまにノックはおかしくねえか?へたすりゃ凹むぞ?」
「古い家だもんね。じゃあせめて開ける前に声かけてよ」
「なんか怪しい事してんのか?はっはっは」
「………」
デリカシーゼロの昭和生まれ。
嫌いじゃないけどね。結構気の合う方だ。
私が勉強ばかりして部屋から出てこないから寂しがってる。
「なあ、大学は良いとして冒険者はいつまで続けるんだ?」
「………」
「じいちゃんなぁ、夢を見ちまうんだよ。お前がダンジョンの奥で助けてくれーって」
「………」
「はは、おかしいよな、俺は潜った事もねえのに…でもこの年寄りよりも先に逝っちまうんじゃねえかと思うといても経ってもいられねえんだ」
そんな気はないんだけど、心配をかけてしまっている。
ダンジョンは自己責任とは言うけれど、家族には心配という迷惑をかけてしまう。
「じいちゃんごめん、心配させて悪いとは思うんだけどやめる気は無いよ」
「…どうしてだ?」
「いろいろあるけど一番はお金かな、お母さんが離婚してるんだしこの先色々物入りでしょ?」
「そんなのお前が背負う事じゃねえ。じいちゃんだって貯金はあるし」
「じいちゃんだっていつまでも健康とは限らないでしょ?自分の為に残しておきなよ」
「クオン…」
もし病気にでもなったら私が最先端の治療を受けさせるけどね。
お金が足りないようなら大学もやめて冒険者一本でお金をとにかく稼ぐ。
それでも足りないようならルシルやエレナ、師匠にまで頭を下げてお金を工面するよ。
離婚して戻ってきた私たちを受け入れてくれたんだ。
面倒を見てくれた恩を私は忘れたりはしない、当たり前だとは思わない。
恩とは恩で返すものなんだ。
「家建て替えない?私お金出すよ」
「ばかやろう、古いけど立派な家じゃねえか」
「じいちゃん長生きしてよ。私もバイクで一緒に出かけたりしたいしさ」
「小娘がじいちゃんのテクニックについて来れんのか?」
「あはは」
心配かけてごめんね、でも気持ちが嬉しいよ。
じいちゃんが私を心配するように、私だってじいちゃんを心配してるんだからね。




