12話「朝の出来事」
翌朝、目を覚まして朝のティータイムを自室で一人楽しんでいると、誰かが扉をノックしてきた。
恐る恐る扉を開けてみる。
するとそこには花束を抱えたディアが立っていた。
淡い青のラッピング。その中には白色ややや青みがかった色の花が多数入っている。ところどころアクセント的に黄色系の花なども入ってはいるものの、全体的にはブルーを基調とした花束に仕上がっていた。
「おはようございます」
彼はそう挨拶すると。
「こちら、贈り物です」
自然な調子でそう続けた。
「え……あ、あの、これは一体?」
今日は特別な日ではない。
何かの記念日でも、誕生日でも、もちろん他の特別な日でも――ない。
なのに花束?
私にはよく分からなかった。
「何か理由が?」
「いえ」
「……特に何かの日というわけではありませんよね?」
「そうです」
人違いや勘違いによる間違いではないようだ。
「なのに花束をくださるのですか?」
「贈りたいからです」
こちらが発した問いに、彼はさらりと答えた。
「貴女に花束をお贈りしたく思い、持ってきたのです」
申し訳ないが、ますます意味が分からない。
ディアのことだから悪意はないのだろうということくらいは分かるけれど。
「もしや、あちらの国においては平常時に贈り物はしないものなのですか?」
やがてディアがそんなことを尋ねてくる。
「いえ……絶対ないということはないとは思いますけど……でも、平常時にこのような素晴らしい立派なものを贈られるというのは、珍しいことではあると思います」
簡単に説明するような答えを発すれば。
「それは! ……驚かせてしまいすみませんでした」
彼は一瞬焦ったような面持ちになり、その先で、軽く頭を下げた。
思わず「謝らないでください、ディアさんに非などないのですから」と言ってしまった。それから、失礼な言い方だったかな、と内心不安になる。が、面を持ち上げたディアは不快そうな顔はしておらず。むしろ真逆のような柔らかな表情で「文化の差に気づけずすみませんでした」と改めて軽く謝罪してから「優しいお言葉に救われます」と続けた。
とても謙虚な人だな、と思う。
王子だからと常に偉そうだったルッティオとは大違いだ。
「で、受け取ってくださいますか?」
「……あっ、そうでした」
彼が大事そうに抱えている花束からは花特有の香りがする。けれどもそれは不快な匂いではない。どちらかといえば心がほぐれるような良い香りだ。
「無理にとは言いませんが、いかがでしょうか」
「ええと……その、本当にいただいて問題ないのですか?」
「もちろんです」
厚かましいかな? なんて思いながらも。
「ではいただきます」
せっかくの好意を無駄にするのも申し訳ないと感じ、受け取るという答えを出した。
「良かった……!」
安堵したように言って、彼は花束を渡してくれる。
花束が手もとに来ると香りはさらに強まった。
脳の奥にまで響きそう。
色鮮やかな匂いがそこにはある。
「素敵な花束をありがとうございます!」
「どういたしまして」
とても優しい時間だなぁ、なんて思って、内心にっこりしていたのだが――刹那、鋭い音を立てて付近の窓が砕け散った。
そこから飛び込むようにして現れたのは二足歩行する見たことのない生物。
禍々しさをはらんだそれはこちらに対して敵意を持っている様子で。毒々しさのある眼球で睨んできたうえ、接近してくる。鋭い爪のついた大きな手を振りかぶり、攻撃を仕掛けようと動いてくる。
――が、ディアが、隠し持っていた短剣で斬った。
一度目の振りで目もとを斬る。
敵の動きが鈍っている隙にさらに振った短剣の先が敵の喉もとに見事命中。
気味の悪い敵はその場に崩れ落ちた。
見事、倒したのだった。
「ご無事で?」
「あ……はい」
床は敵の血で濡れてしまっている。
だがそれは仕方のないことだ。
あのまま抵抗しなければ私たちは殺されていただろうから。
「お騒がせしてしまいすみません」
「ディアさんはお強いのですね」
「ああいや、べつに、それほどでもないですよ」




