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異通者奮闘記  作者: ラク
二章:帝都ウィンベル
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トラブル

すいません。予定よりもかなり遅くなりました(>< でも納得がいくまで仕上げましたので、どうぞ楽しんでください。それから、感想を受け付ける(制限なし)に変更しましたので、ログインしていない方でも感想を書けるようにしました。なので、気が向いた方は感想お願いします。


「っ間に合え!」


思わず声をあげて屋根から飛び出す。

一気に下に軒連ねていた露店の柱や屋根を足場にして、一気に距離を縮めようと足を懸命に動かす。

だが、そうしている間にも人混みの中にいる怪しい人物による詠唱は続いているようだ。

徐々にその人の周りが空き始める。どうやら周りの人もおかしいと気づきはじめたらしい。

それでも、ユリアはまだ気づかずに目前の喧嘩にオロオロしている。

せめて周りの人間が悲鳴でも上げてくれれば気づくだろうにと切実に思う。


詠唱内容は…距離がありすぎて未だに聞き取れない。

だが、既に頭上に手を掲げて3mほどの青白く光る槍を作り出している。

アイズが前に使っていた魔法に似ている。

系列が近いのだろうか?でも、だからと言って大丈夫とは全然思えなかった。

僕の時は学校用ローブを着ていたからこそ、あのダメージで終わったんだ。

でも、今のユリアは何も羽織っていない。ローブを身に着けていないんだ。


(まずい!このままじゃ間に合わない!)


さらに足に力を入れ、一気に露店の屋根から飛び出す。

ぐしゃりという屋根の一部が拉げる音が聞こえたが、気にしている余裕は一切無い。


怪しい詠唱をしている人物が手を振り下ろすのと、僕がユリアの後ろに着地したのはほぼ同時だった。


「え?ユキトさん…!?」


背後に着地した僕に気づいたのか、ユリアが僕のほうを振り返り、息を呑む声が聞こえる。

そりゃそうだ。目の前には攻撃魔法が迫っているんだから。

一直線に迫ってくる槍をどうしようか一瞬だけ考える。

シールドは詠唱が間に合わない、ナイフを取り出している暇もない。

だから、すぐに僕の中で答えが出る。


全身で受け止める…これ以外思い浮かばなかった。


「ぐぅ…」


魔法が直撃する、ドンッという音と体全体からミシミシという嫌な音が聞こえる。

なんとか勢いが弱まった槍を体全体で支えながら、右手首に下げておいた、先ほど買ったばかりの白い両刃直剣の形をした魔工石に魔力を流し込んで剣の形状を構築、すぐに槍に突き刺すとようやく消えてくれた。


思わずその場に肩膝をついてしまう。

倒れはしなかったが、正直なところ胸の辺りがめちゃくちゃ痛い。ついでに体を投げ出したくなるような疲れが全身を襲う。気が緩んだせいか、魔工石が形成していた剣が空中に溶けて消える。

それを見て、すぐにユリアが傍に寄ってくる。


「だ、だいじょぶですか!ユキトさんっ!」


「あはは…割と厳しいかも…な」


たぶん、胸の辺りの肋骨が何本かやられたと思う。

口の中に血の味が広がる…うえぇ、なんか気持ち悪い。

思わず咳き込み、血が地面に滴り落ちる。


「ユ、ユキ?ど、どうしたの!?」


ロナもこちらの騒ぎに気づいたのか、すぐにユリアの反対側に駆け寄ってくる。


「あちらの方に攻撃されたようです」


そう言ってユリアが魔法を放った人を睨みつける。


「え?ちょっ!だ、大丈夫なの?」


「だから、あんまり大丈夫じゃないんだってば…」


苦笑しながら口元を袖で拭い、ゆっくりと立ち上がる。

ユリアがすぐに肩を貸そうとしてくるが、片手で制して魔法を放った人を見る。


全身をフード付きの黒いローブで覆っている人だった。

男か女かは…わからない。遠目からでも口は見えていたのだが、鼻から上がフードを深く被っているせいで暗闇の中に居るみたいに顔の輪郭も把握できない。

ただ、目が仄かに赤く光っているのだけがわかる。


(人間…だよな?だったら、思考を読んでみれば…っ!?)


相手の目と合った瞬間。愕然とする。

思考は…確かに読めた。読めたのだが、絶対に読みたくない思考だった。


明確な殺意。それだけしかなかったのだ。


(こいつは、まずいかも…)


背中に嫌な汗が流れ始め、無意識に後ずさりしそうになる足を必死に押しとどめる。

相手は殺す気できている。

それが非常に怖かった…あの時のように。


怖がったままではまずいと、すぐに思考を切り替えたいところだが、そんなにすぐに思考を切り替えられるような頭をしてない。


だから、僕が今出来ることを考え始める。


相手はどうやら魔法使いみたいだし、接近戦に持ち込んで詠唱さえさせなければどうにかなるか?と考えるが、僕もアイズも魔法使いだが武器を使っている…楽観は出来ない。


だが、すぐに決断することになった。

背後に居るはずのアイズのほうから、ガギィンという金属音が聞こえたからだ。

首だけ少し振り返ってみるとアイズが剣でナイフを受け止めていた。

柄の悪そうな兄ちゃんのナイフで、兄ちゃんのほうの目にも明確な殺意を感じる。

まずいな…やっぱり仲間だったのか。


「ロナ、ユリア。すぐにアイズのほうに加勢して!」


「で、でもっ!」


「こっちはいいからっ!」


ユリア達の返事を待たずに、腰に挿していたナイフを取り出し、黒ローブに切りかかる。

既に魔法で攻撃されたんだ、警察には…というか警察のような機関があるのかどうかは知らないが、正当防衛としてあとで納得して貰うしかない。


対して、相手の対応も早かった。

バックステップで一旦距離を取った瞬間、手元にいきなり3mぐらいはありそうな巨大な剣が現れる。


(転送魔法ってやつか?だとしても!)


この距離、勢い、相手の武器の大きさを考えればどちらが有利かなんて考える必要も無かった。

いくら先の一撃で怪我を負っているとはいえ、あんな鈍そうな剣は簡単に避けられる。

相手の振り下ろす大剣を避け、一気に懐に飛び込み、首筋にナイフを突きつける!


「動くな。もう詰んでるのはわかるよな?」


「…………」


「…………っ」


不意に嫌な予感が強まった気がして、横に飛んで相手から距離を取る。

次の瞬間、さっきまで立っていた場所に黒ローブの持っていたはずの巨大な剣がズガァッという地面を裂く音と共に突き刺さる。


(剣が勝手に動いた…わけじゃなさそうだな…)


でも、どうやって動かしたんだ?と思いながら、注意深く相手の動きに気をつける。

だが、そんな事を考えている最中に右側からさっきまで突き刺さっていたはずの巨大な剣が飛んできた。


「なっ!」


慌てて避けようとして、一瞬踏みとどまる。

避けたら…周りにいる野次馬に当たってしまう!


右手に持っていたナイフを左手に持ち替え、さっき消えた魔工石に多目の魔力を流し込んで剣をもう一度形成。

顔に向かって飛んできた巨大な剣を屈んで少し避け、左手のナイフで剣の軌道を上にずらし、右手の両刃直剣を思いっきり振る。

バギイィンという金属音が鳴り響き、巨大な剣が真ん中辺りで見事に断ち切れ、刃が地面に突き刺さる。


「よしっ」


思わずガッツポーズ。

出来るかなぁと不安だったんだが…まさか本当に出来るとは…などと、思っていると不意に黒ローブが顎に手をやる。


「…ふむ」


「…………?」


「―我が魔力よ、顕現せよ、形状は槍、その役は貫通!―」


黒ローブが左手をこちらに向け、純正魔法を素早く詠唱、先ほどより一回り小さい槍を創り出し放ってきた。

直撃する寸前で右手の魔工石で出来た剣で無害な上に弾き飛ばす。

…って咄嗟にやったけどよく出来たな僕。


「…なかなか良い腕をしているようだな」


「そりゃどーも」


賞賛してくれるぐらいなら、こんな騒ぎ起こさないで欲しかったんだが。

まぁ、向こうにも事情があるんだろうし、無駄な考えだな。


「新しく護衛についた人間か?」


「違う、ただの友達だ」


流石に護衛と間違われるとは思わな…いや、僕の今の腕だとそう見えてもおかしくないのか?


「友か…あのお姫様にねぇ」


「…別に変じゃないだろ」


「似合わないな」


「?」


「友人という者は、あのお姫様には相応しくない、血まみれの鮮血こそお似合いだ」


「…ふざけんな」


「うん?」


「アイツに鮮血なんて絶対に似合わないね。むしろ笑顔のほうが似合う」


何が目的なのか知らないけど、碌でもないことをしようとしていることだけはわかった。

どうしようかは決まった。

そういう展開がお望みなら絶対阻止してやる。


「拒むか」


「拒むっていうか、阻むっていうか…まぁ、どっちも似たようなもんだな…」


そう言いながらナイフと魔工石の剣を改めて構える。

…さて、勝てるかがちょっと不安だ。


さっきの巨大な剣は叩き折ったけど、魔法はまだ使えるはずだし…。

どうしたもんかなぁ…と頭を悩ませる。


と、その時脇をすり抜けて、何かが黒ローブに向かって飛んでいった。


「ぐうっぅわあぁ…」


ドンッという音と共に黒ローブが悲鳴のようなものをあげ燃え上がる…って燃え上がる!?


「…いや、いくらなんでも炎系ってやばくないか?」


「あら、大丈夫ですよ~?」


燃え上がる様子を見ながら呆然と呟くと、背後からユリアの間延びした声が聞こえてきた。

振り返ってみると、笑顔のユリアが両手に細い剣(レイピア)を持って立っていた。

さらに向こう側では、アイズが剣を支えに立ち、その隣ではロナが柄の悪い兄ちゃんを魔法で縛っているのが見える。

どうやら向こうは片付いたらしい。


「これでも十分手加減してあげてますから~」


「…この惨状でか…」


勢いよく燃え上がる炎を見ながら呆れ果て、思わず構えていたナイフと魔工石をおろす。

もう必要ないかな?


「それに、この程度じゃダメみたいですから…」


「…えっと、マジで?」


次の瞬間。燃え上がっていた炎が渦を巻き、掻き消える。

掻き消えた炎は、地面まで焼いていたらしく、黒ローブの足元は真っ黒だ。

だが、黒ローブの人物からは煙1つあがっていない。


「…どうやら、全然効いてないみたいですね」


「ふむ、これでも結構効いたんだがねぇ…」


苦々しくユリアが言うと、黒ローブの人物がやれやれといった感じで呟く。

確かに、まったく効いてない…というのはおかしいだろう。

いや、待て、確かこういう事象が本に書いてあったな…え~っと…。


「…属性防御魔法エンチャントブロックマジック…ってやつだったっけ?」


「ほう、君は博識ですね。この現象をみて一目で当てるとは…当たりですよ」


「偶然見かけただけなんだけどな。でもその魔法は…」


『そうですユキトさん。その魔法は…』


ユリアがそう言って、両手に持ったレイピアを構える。


「えぇ、どうやら今では失われているらしいですね。この魔法』


面白くてたまらない…そんな感情が見えるような笑い声。

でも、その目から感じ取れる感情は殺意しかない。


「…じゃあ、なんでアンタは使えるんだろうな?」


「長く生きていると色々と知識を蓄えるのも簡単でしてね」


「長く生きて…ですか、どれぐらい長く?」


「ざっと800年ちょっとですかな?」


うん、なんか嫌な予感が一気に膨れ上がったな。

800年前っていうタイムリーな年代に心当たりがありすぎる。


「…さて、雑談はこれぐらいにして、今日のところは失礼させてもらいましょう」


ずぶり…と黒ローブの足元が不自然に歪む。

転送魔法の人間バージョンってやつか?なんにしても、ここまでされて逃がすわけにはいかない。


「逃がすかよっ!」


「逃がすものですか!―精霊よ、炎の弾丸となりて、敵を弾け、炎弾ファイアショット!―」


黒ローブの人物に向かって僕がナイフを投げつけ、ユリアが呪文を詠唱して、レイピアの先端を黒ローブに向ける。

先端に赤い光が灯り、サッカーボールほどの大きさの火炎球が放たれた。

だが、何か見えない壁のような物に阻まれたのか、黒ローブの目前でナイフも火炎球も弾かれる。


「ふふふ、中々に楽しい余興でした。次はもっと楽しませてくれることを期待しましょう。では、ごきげんよう諸君」


何事も無かったかのように言い放ち、虚空へと消えた。


お読みくださってありがとうございました^^ 連絡なのですが、もしかしたら来週は今までの小説の手直しになりそうです。詳しいことは活動報告にて、ご連絡させてもらいますので、どうかご了承くださいませ~

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