第39話 覚醒ヴァイオレット
陽二は目を覚ます。少し体がだるい。
ふと、腕に重みを感じたので右側を見てみると、陽二の腕枕でパールがすやすやとお昼寝タイムだ
ピンクの髪が日の光に反射してキラキラと輝き、天使の輪を形成している。
パールは何かをやり遂げてすっきりとした、しかし、どこか穏やかな表情で眠っている
「おっと」
ホタテをつけていない。丸見えだ! そこで気付く
目線を自分の胸から下半身へと移していく
「なんで裸やねん……」
これは…朝チュンなのか? やっちまったのか? 責任を取らなきゃいけないのか?
と思いながら、自己防衛機構が仕事を始める前の記憶を必至に思いだそうとすると
「うっ」
背筋がゾゾッとした。
人魚に唇を奪われて、エキスを注入された事を思い出した。
しかし、それ以降の記憶。どうして横にパールが眠っているのかが分からない
と、目線の先、正確にいうと陽二の周囲に、美しい金の髪と鱗を持つ妖艶で、ダイナマイツなバディを惜しげもなく晒している人魚が、満足感たっぷりな顔をして眠っている
これは夢、なのか……?
人魚との出会いが衝撃的だった事とエキス注入、という罰ゲームを受けた陽二には、ギャップが激しすぎて思考が追いつかない
取りあえず今は、この眼福な光景を楽しむことにした。
*
誰も起きる気配がないので、パールの頭を優しく持ち上げ腕を引き抜いた。
自分の服が辺りに見あたらないことは、金髪の人魚を観察していたときに分かっていた事なので、着替えを取り出してそそくさと着る。
ホタテが見あたらないので、収納スペースからTシャツを取り出し、パールの体を起こして着せてみた。
「Tシャツを着た人魚って…何かエロいな……」
パールを寝かすと、なるべくエロい事を考えないように辺りを見回す。
金髪の人魚がボインのバインで、目のやり場に大変困ってしまうのだ。
つい動きを止めては見とれてしまう。このままではスケッチを始めてしまうかもしれない。
スマホのカメラ機能が生きていなくて良かった。
『盗撮カメラマン陽二』が誕生して『おまわりさんこっちです』まであっただろう。
「ここはどこなんだろう……」
陽二がいるのは巨大な植物の上。
周囲の水面には同じ種類の小さい植物がたくさん浮かんでいる。
見た感じの景色から予想すると、湖の奥に連れて来られたようだ。だって、パトリシアたちが待っているはずの場所が見あたらないから。
この湖はそうとう広いのだろう。まだ奥にも続いているみたいだし……そんなことよりも、このエロバディ達は誰なんだ?
小声でパールを起こそうと声をかけながら体をゆする
「パール、起きて」
パールの瞳がゆっくりと開いていく
「あ、陽ちん……」
パールは陽二と目が合うと、頬を赤く染め身を縮こませながら目をそらす。
陽二は思った。
パールの望むままに対応したとはいえ、やり過ぎだ……見ろ! パールが怯えているではないか、どうする? なにかいい言葉はないか? 考えろ、考えるんだ陽二!
「ごめんな、ちょっとやり過ぎたわ」
良い言葉がなにも浮かばなかった。なので、取りあえず謝罪する
「い、いえ。こちらこそ…あ、あの、その…私こそ初めてで…ど、どうでした?」
パールがうつむきながら聞いてくる
「えっと…か、かわいかったぞ」
うん、確かに我慢している姿はゾクゾクしてかわいかった。
「そ、そうですか! ちなみに痛くなかったですか?」
なにが? 鱗は柔らかかったし胸は張りがあって、もみごごちも良かったし、痛い所なんてあった?
「いや、どこも痛くなかったけど…パールの方こそ、強く触りすぎて痛くなかったか?」
「そんなこと……さ、最初入れたときは少し痛みがありましたけど…でも、だんだんと気持ちが良くなってきて、その…3回目には気絶するほどの……」
「そ、そうか? まあ、それなら良かったよ」
3回目? 1回目で気絶したよな? もんだ回数の事かな?
「あ、あの! この服、陽ちんの服?」
「ああ、ちょっと目のやり場に困ったから、やるよその服」
「本当? ありがとうなの!」
「そんな服で喜んでくれるなら何よりだよ。それよりも…」
周囲に目を向けるしぐさをしつつ
「で? そこに眠っている人魚たちは誰? 知り合い? そう言えば襲ってきた人魚達は? てか、何があったの?」
「え? 何って……」
陽二が触ってくれたおかげで、分泌液が出るようになった事。
それを摂取した人魚が若返って、目の前の姿になった事。
パールが目を覚ますと、ヴァイオレット達が陽二にペロペロしていて、そこに呼ばれて儀式を交わし、子種を授けてもらった事を告げる
「なんだと……」
こちらの了承もなく儀式をやってしまった事はあとから物申すとして、元ババアと考えても周囲に眠る人魚達を目にしてしまった今、そんなことはどうでも良い
「なぜ…なぜ、起こしてくれなかった! もったいねぇ……」
陽二は天を仰ぎ悔しさを爆発させる。
そこにパールがモジモジしながら、さらに言葉を続ける
「パール。陽ちんがファーストキス…だった、の」
畜生-!
しかし、まだだ! まだ、終わらんよ。パールの言撃は続く
「儀式…子種……大切にするの」
は! そうか、俺が……パールの…
陽二の記憶には何1つ残っていない。
まだ、黙っていてもらった方が何倍もマシだっただろう。
全てが終わってから報告だけ告げられる。参加したであろう中心人物が全くの蚊帳の外。
いいようのない悔しさから力が抜けてしまう。
そのとき周りで眠る人魚、ヴァイオレットに変化が起きた。
他の人魚は、ペロペロと若返りの変化で疲れて眠っていただけなのだが、ヴァイオレットの場合だけ事情が異なる
子種というのは人魚には猛毒になる。
実際、過去に何人も死んでいる。無害なのは人魚姫だけなのだ。そのため人魚姫が子種を授かり、体の中で人魚に適した種に変化させて渡しているのだ
だがヴァイオレットは、陽二の子種を直接キャッチして飲み込んだ。
ババアの姿の自分にペロペロしてくれた相手の子種だ! 『そこら辺に飛ばしてしまったら失礼に当たる』と思ったのかもしれない、または『飛び散って仲間が誤飲するかも』との考えがあったのかもしれない。
最初、異変に気づいたのはパールだった
ちょうど目線の先にいたのも理由になる。
「ね、姉様!」
陽二はその声でパールの目線を追う。
ヴァイオレットの鱗から透明な液体が大量に出て、勝手に動き回りヴァイオレットをあっという間に包み込むと、透明な膜になった。
「陽ちん……」
その言葉で、パールがどうして欲しいか理解した陽二。
お姫様抱っこして、ヴァイオレットの元に向かう。
「コレって何か分かる?」
パールをヴァイオレットの側に置く
「ううん、全然わからないの」
とパールは首を振る。
それに気づいたのか人魚たちも目を覚まし、ヴァイオレットのもとに集まってきた
一応、パールに了承を得てから膜を触ってみる。
卵の殻みたいな感じで、強く叩けば割れそうだ
殻の中でヴァイオレットの体が少し振動している様に見える。
表情は少し苦しそうにしている
側に集まった人魚から、殻の中に居るのがヴァイオレットだと告げられた。
本当に若返ったのか……完全に別人じゃん
ヴァイオレットの表情をうかがっていると、目が開き、目が合った。口が動く
「試すようなまねをして、すまんけぇ」
なんの事だ?
陽二の困惑した顔に気づいた人魚が、陽二に補足説明をする。
子種とか気が早過ぎるだろう。そもそもパールと会ったのも偶然だし、触ったのも流れというか……
「て言うか、普通あんな場面を目撃したら怒れよ! 姫なんだろう?」
『人魚絶滅の危機が回避』と『分泌液が出たおかげで、若返りできる』と思ったら相当うれしかったらしく
陽二を怒るどころか救世主に見えたらしい……でき過ぎだ
「俺は、おいしい思いをしただけだし……気にしなくていいよ」
しばらくすると、ヴァイオレットの表情がどんどん険しくなってきたので、試しに膜の外側から水の恵を使ってみる。
魔法は膜に吸収されて、効果はないみたいだ。
そうこうしているうちに、ヴァイオレットは目を閉じて動かなくなってしまった。
「なんかさぁ……若返ってない?」
陽二は疑問を口にする。
そうなのだ! 動かなくなる少し前から変化は始まっていたのだ。
目を閉じ動きを止めた今、ハッキリと分かる。現在進行形で若返っているのだ
そしてパールと同じハタチ前後まで若返ると、突然目を開けて立ち上がった!
バリンと割れる様な音がして、膜は砕け散り煙に変わる。
モクモクと立ちのぼる煙の中、ヴァイオレットが現れた。
上半身は今までと変わらぬ姿なのだが、下半身は人と同じ2本足になっていた。
ただ、ヘソから下には、今までと同じく金色の鱗がびっしりと足の甲まで続いている。だだし内側にはないみたいだ。
そして背中には、黄金に輝く天使の様な小さい鱗の翼が生えていた
「飛人魚に進化したけぇ!」
ヴァイオレットはどや顔だ
「イヤイヤイヤ! セイレンって、顔が鳥で体は人の怪物だろ? 違うじゃん、翼が生えただけじゃんよ。それも羽じゃなくて鱗よ? 飛べんのかよ!」※あくまで陽二の知識
陽二の言葉を聞いたヴァイオレットは翼に力を込める。
すると、重なり合っていた鱗が2倍程に伸びて先が二またに開く
もともと柔らかかったのも相まって、風に揺れる翼が完成した。
ヴァイオレットの身長は2メートル前後で、陽二より頭2つ分ほど大きく翼を広げると、さらに大きく見える。
あぜんと見あげる陽二の顔を、何も身につけていない胸の谷間に押しつけ抱き上げると、植物を軽く蹴って高くジャンプ、翼を広げて空に舞った。
実はこの進化、陽二のアレがトリガーになっている。
通常は猛毒なのだが3つの偶然が重なった事によって起こった進化なのだ。
1つはパールの分泌液を陽二が飲まされたこと
1つは口移しで人魚のエキスも一緒に飲まされたこと
1つは空気に触れる前にヴァイオレットがキャッチしたこと
上記2つの出来事によって陽二が作り出すアレは、無毒+進化の促進(人魚のみ)の効果を持った。
ただし、アレが空気に触れると進化促進が弱まってしまうため、直接摂取することが望ましい。分量は不明。
空中で陽二の体を入れ替え、下を向かせて入口に向かって飛ぶ
「陽ちん殿も、何かの用事でここに来たんじゃけぇ元の場所にお送りします。用事が済んで時間ができましたら、サラデインでお待ちしとるけぇ」
「なんか、用か済んだからさっさと出て行けって感じだなぁ、まあ、助かるっちゃあ助かるんだけど」
「パールは授かったばかりじゃけぇ、下手な刺激は禁物じゃ、それに今から定着の儀式をやらねばならぬけぇ」
「そうゆう事か。まあ時間ができたら遊びに行くよ」
「来なかったら探しに行くけぇ」
「本当に来そうだなぁ、近いうちに必ず行くよ」
そんな話をしているうちに、パールと出会った場所まで戻ってきた。
ヴァイオレットは精霊の泉に浮いている植物の上に陽二を降ろすと、バインなボインを押し付けるように抱き寄せ、感謝を述べる
そして、人魚の姿に戻ると、名残を惜しむかのように水面に飛び込こんで泳いで行った。
「戻れるんだ……」
ほとんどの出来事が知らないうちに終わってしまった陽二、人魚たちとの再会を楽しみにして、自分の事を忘れられているなどと微塵も思わず、桜たちの元へ帰っていった。
*
ヴァイオレットが仲間の元に戻ると、既に定着の儀式が始まっていた。
あのタイミングで、パールと陽二を離すことは少しだけ酷だったかもしれない。
しかしパールも理解していたからこそ、行為のあと、陽二から離れずに添い寝していたのだ。
また会いたい、離れたくない、別れの言葉をかけられなかった。その気持ちが定着の儀式には大切なのである。
ヴァイオレットも人魚の姿のまま、パールを中心とした輪の中に入る。一人が中心のパールに近づきお互いにペロペロを始める、残った輪の人魚は、静かに祈りの言葉を歌う。
一人が終われば、しばらく休憩して全員が終わるまでペロペロを繰り返すのだ。陽二との再開を願って




