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第38話 母娘の再会

 

 陽二がうらやましい目にあっている頃、ランスロットは目を覚まさない桜の周辺に散らばっている魔石を集めていた。


 集め終わると(ひらめ)いた。


 素材を集めてへそくりを作るのだ! 


 ランスロットは金目(かねめ)の素材や武具を片っ端から集めていく。


 火事場泥棒? 違う、これはあたり前の行為だ


 桜の寝顔を鑑賞していた唯。ランスロットの作業が落ちつくのを待ってから声をかける


「ところで、おぬしは何者じゃ?」


「名のったはずだが……むしろ貴女(あなた)の名前を聞かせて欲しい、桜とはどの様な関係なのだ?」


「ふむ、質問を質問で返すか……死にたいのか?」


 深紅の瞳がランスロットに突き刺さり危険信号が鳴り響く!


 ランスロットはすぐさま答えた


「私の名はランスロット。仲間からはランスと呼ばれています。桜とはゼラニオンというチームの仲間です」


「ふむ、お前は一人か? 他に仲間は?」


「はい! あとは先の湖に()の陽二とその連れ、パトリシアと精霊のナーナがいます。あと、所在は分かりませんがアスモという仲間がいます」


「おぬしは(たわ)けか? 敵か味方かも分からない者にペラペラと……ん? アスモ……雪乃もおるのか?」


「アスモデウスという名ですが……」


「そ、そうじゃったな。黒髪のメイドか?」


「そうです。私と桜の師匠です」


「ふむ。魔技か?」


「どうして魔技を知っているのですか?」


「創始者の一人だからじゃ!」


 驚きで棒立ちするランスロット


「よし、ちと見てやるのじゃ。アスモがどの様に教えておるのかも知りたいしの」


 流れで、稽古をつけてやるという唯に正直、困ってしまった。

 師匠の許可もなしに他人から指導を受けても良いのかと


 ランスロットが一人の師に教えを……

 間違いではないと思うが、そんなことは門下生風情が考えることではない。

 教えてくださるというのであれば、貪欲に教わりドンドン吸収すれば良いのだ。

 そして、自分に合わない分部を削り落としていけばいいだけのこと。


 理解(わかって)いる師はそんなことを気にも止めない。

 第1、教え方は違っていても理解(わかって)欲しい事は同じなのだ


 そもそも、あの流派わーとか、団体わーとか同じ競技どうしで(いが)み合う暇があるくらいなら、さっさと協力すべきなのだ。

 どの競技、どの団体でも、ほとんどの門下生はそう思っているだろう。


 唯はその事を(さと)す様にランスロットに語った。

 もちろん理解できないランスロットではない


「では、基本からやってみるのじゃ」


 まずは、その場にたったままで左右の突きだ


「1、2、3、4、………99、100!」


「ハ!」


「まぁまぁじゃ! 5…いや、6級!」


「突きだけで分かるのですか?」


(たわ)けか! 突きを出すまでに、体中を使っておるじゃろう」


「た、確かに……」


(わらわ)の名は『唯』! が、この名を口に出すことは許さん。天使()の美しい母様と呼ぶのじゃ」


 なぜ、今になって名前を……? 私の魔技を見て『認めてもらえた』という事なのだろうか? しかし…


「母様殿!」


「だれが、おぬしの母様じゃ!」


「さ、天使の美しい母様殿」


「なんじゃ?」


 ギラッと(にら)みを向ける


「もう少し短くしもらえないでしょうか? 呼びづらいです」


「ふむ…ならば力を示せ! 1発、打ち込んでくるのじゃ!」


 一瞬、戸惑ってしまうが、すぐに理解した。


「ならば! 弱体化(ディチューン)解除!」


 右手をあげ


部分強化(ブースト)!」


 そして唯の前に歩み出ると構える。


 ランスロットの拳が一歩で届く位置。左足を前に右手右足を引いて構える。

 つまり、右足で一歩踏み込み、右手で突く『追い突き』だろう。

 基本の1本組手だ


「見せてみろ」


「いきます。上段!」


 ランスロットが動く。


 右足を素早く体に引き寄せるのと同時に、膝を曲げながら腹の前まで持ち上げ、唯の鳩尾(みぞおち)を目がけて『前げり』で蹴り込んだ!


 通常の追い突きならば、素早く寄せた右足を素早く前に出して、踏み込みと同時に右手で突くのだが

 頭の片隅にパンチングマッシーンがよぎったのだ! 


 陽二、使わせてもらったぞ!


 そして罠もはった。


 わざと右腕をあげて、腕に部分強化(ブースト)使うふり(・・・・)をして右足(・・)に使った。

 さらに、動く前に『上段』と叫び、目線を唯の(あご)に注意をそらしつつ『中段』を攻撃した


 これは卑怯ではない。機転なのだ!


 ランスロットは前蹴りが入った! と思った


 が、唯はランスロットの前蹴りを下からすくい上げて、見事にかわしたのだ。


「くっ!」


 すくい上げられてしまった反動で、後方に1回転して着地したランスロット。

 素早く顔を上げると、目の前には唯の手刀が止まっていた


「ふむ。面白かったが、足に部分強化(ブースト)を使ってはバレバレじゃ。腕に部分強化(ブースト)からの『前蹴り』ならば、かすり(・・・)はしたじゃろう。うむ! 『唯姉様』と呼ぶことを許可する」


「はあ……」


「ん?」


「いえ、何でもありません」


「ところで、桜の母親というのは本当なのでしょうか……? 私が聞いた話によると、桜が生まれて間もない頃に『消えた』と聞いていたのですが……」


「いろいろとあって、ある部屋に閉じ込められていたのじゃ。そのうちアスモにも聞かれるじゃろう、詳しい話はその時じゃ」


「はい」


「それよりも魔力を回復する道具を持っておらぬのか? 桜に使ってやりたいのじゃが」


「そうだ! この先で待っているパトリシアの腕輪に、魔力を供給する珠が装着されています。それをはめれば回復すると思います」


 唯は桜の様子をうかがう。


 桜の魔力を吸収していたと思われる(・・・・)『扉の結界』を破壊したので、魔力は回復してくるはず……と思っていたが、顔色は変わらず苦しそうだ。


 唯は桜を抱きかかえると


「ランス、案内するのじゃ」


「はい」


 *


「遅い!」


「は、はい」


 唯は桜を抱っこしているのにも関わらず、走るスピードは早かった。

 ランスロットも変体してスピードが上がっているはずなのに……

 拾った枝でランスロットのお尻を(たた)いて()かしてくる。しかし、加減しているのか痛みはない。


 そのせいで、湖の入口に着く頃には違う世界の入口に到達しそうになっていた。


「この先にある小高い山の中にいます」


 それを聞くと『精霊の泉じゃったか…先に行く』と言い残すと

 入口には進まず、側面の壁をカッ、カッ、カッとヒールを鳴らしながら、そのまま飛んでいってしまった。


「あの勢いなら湖を飛びこえて直接行けるな……」


 ランスロットは変体を解除して、妙な感覚を覚え始めた自分のお尻をさすりながら入口を降りていった。

 陽二に叩いて欲しいと思い始めていたのは秘密だ!


 湖の前まで坂道をおりてきたランスロットの嗅覚が、何かをキャッチした! 

 辺りを見回すが特に変わった点はない。

 強いていえば、表面が濡れている植物があるくらい


 ランスロットはピョンピョンと湖を渡りきると、山に入っていった


 中に入ると


 おいしそうな料理がたくさん並んだテーブルに、黒い膜とその前に座るパトリシアとナーナと樽

 パトリシアから奪ったのだろう、桜に腕輪を着けようとしている唯がいた


 そして、その唯を見て、驚きと親しみの混ざった声を発した人物がいた


「唯!」


 トパンの村で見つけた魔方陣で転移して、木の洞窟を抜けてちょうど顔を出したアスモデウスだ


 そう、パトリシアの母親が居た部屋の奥には、精霊の泉とトパンの森をつなぐ魔方陣があったのだ。


「アスモ……か、久しぶりだな」


 唯はアスモデウスを見上げて(つぶや)く。が、その前にやることがある。


 桜の容態を伝えようとすると、すぐに状況を理解したアスモデウス。素早く飛びおり、唯が持つ腕輪を桜にはめる。


 長い間、桜の面倒を見ているアスモデウス。何度もこの様な事態(・・・・・・)を経験していたので、状況をすぐに飲み込めた。


 腕輪からゆっくりと魔力が供給し始めると桜の顔色も良くなってきた


「珠の魔力が2つもなくなるなんて……」


 唯に『もう安心です』と伝えてから再会を喜ぶ


「いろいろとあった様ですが、桜ちゃんが目を覚ますまで話は待ちましょう」


 パトリシアとナーナは時計に集中

 唯とアスモは抱き合い何かを話している、その横に桜

 ランスロットは訳が分からずテーブルの料理に手を伸ばしていた


 その数分後、桜が目覚めた


「ん? ここはドコぢゃ?」


 突然抱きしめられ身動きが取れなくなる桜


「だ、誰ぢゃ? 離すのぢゃ!」


 ふわっとアスモの香りが桜に被さる


「お母さんです……桜ちゃん、お母さんが帰ってきたのですよ」


 桜から離れるとアスモデウスは優しくほほえむ


「は? え?」


 上を見るとポロポロと涙を流し、桜を全身で包み込む唯。

 涙は(ほほ)を伝い、桜の頬に降り注ぐ。

 温かく愛情がたくさん詰まった涙


 桜が最初に感じたのは『あたたかい』だった


 何が? という訳ではなく説明などできない。

 桜からしたら、生まれて初めて会う母親。

 とにかく『あたたかい』


 生まれてから500年


 最初の200年は、ただただ死の瀬戸際を彷徨(さまよ)

 その後の300年はアスモが隣にいて母の様に接してくれた。

 (かえで)に出会い、ダンジョンの外に出られる様になった。そしてランスロットが笑わせてくれた。


 いろいろな人が、幸せな気持ちを分けてくれた


 しかし、人しれず泣いていた事は何度もあった。


 アスモに事情を聞いていても、捨てられたと考えたこともあった。『なぜ、こんなスキルを?』と恨んだ事もあった。

 そして、ひと目でいいから会いたいと何度も願った。

 会えないと思っていても『ママ』って練習をした事もあった…

 大好きって言いたかった。大好きって言って欲しかった!


『桜』と母に呼ばれたかった


 *


「桜、今まで待たせてすまぬ、よく頑張ったのじゃ、ありがとう」


 愛情という名の雫が降り注ぐ


「お母さん……ママ!」


 抱き合う母娘(おやこ)

 桜の目からも涙があふれ、アスモデウスも(こら)えきれず2人を抱きしめる


 その3人の姿にパトリシアとナーナも涙する


 ランスロットもその光景に涙腺が緩みっぱなしだったが、手に持っている食べ物を離しはせずモグモグと口が動いていた。

 不謹慎にも『桜が泣いているところ初めて見た』と思ってしまったのは『絶対に墓場まで持って行かなければならない!』と思っていた



 そしてもう1人、この大事な場面に居合わせてない陽二の事は誰も気付いていなかった……

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