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自己の紹介

「マジかよ……」


 まさかの九つの魔法家カミングアウトに、エドワードは次にかける言葉を失っていた。


「へぇー、ふぅーん……クヒヒ」


 九鬼原は何か思案が終了したのか、一人で不気味に笑っている。


「では氷坂さん、でいいのかな? 僕の方針では規則で縛るようなことはしない様にしているんだけども」


「異論があります!」


 氷坂は声を荒げつつ九鬼原の方を指さす。


「このような不埒者ふらちものが学園のトップになるなど私は認めません!」


 それまでニヤニヤしていた九鬼原が、その言葉を受けた瞬間に笑みを消して受け立ち上がる。


「じゃあきみは僕より強いの? 僕より魔法が上手なの? 僕より魔力が凄いの? だったらこの場で見せてみてよ。僕がきみの全てを否定してあげるからさぁ!」


 九鬼原はエドワードと対峙したとき同様に影を伸ばし、辺りの明かりを奪って行く。


「なっ――!?」


「さぁ! さぁさぁさぁ!! 早くおいでよ! そんな悠長にしていられるほどきみは強いのかい!?」


 影は氷坂の首元にまで這いより、今にも絞め殺しかねないような勢いである。


「ケヒヒ、所詮九つの魔法家なんて甘ちゃんぞろいのゴミカスばっか――」


「ハイハイ、その辺にしておきましょうね」


 柳生が手を二回たたくと影が一気に消え去り、代わりに照明がつき窓からは光が差し込み始める。


「全く、今言ったばかりじゃないですか。争い事は厳禁だと」


「あぁーもう! せっかくクズを叩き潰せたと思ったのに!」


「思っていても口に出してはいけませんよ九鬼原君」


「もういい! 外いく!」


 駄々っ子の様にいじけながら扉を乱暴に開け、階段を降りる足音を響かせる。


「はぁ、全く困ったものだ。誰かが追って行かないと――」


「俺が行きますよ」


 エドワードがその場に立ちあがると、返事を聞く前から扉の方へと足を進める。


「待ってもらえますか!」


 氷坂はそれに対して言葉をなげかけ、自分も一緒に行くことを告げる。


「元はといえば私が引き起こしたことです。私が責任を持って――」


「ああそういうのいいから。てかむしろ邪魔」


 エドワードは無情にもそれを却下し、一人で降りて行こうとする。


「どうしてですか!? 私は――」


「いや今のお前は魔法家の面汚しでしかねぇから。てかこんな一瞬で地位下げるなんてあり得ねぇよ」


 エドワードは冷たく言い放ち、両肩を震わせ屈辱に耐える氷坂を置いてその場を後にした。




「――つかマジでバカだろあいつ。普通九つの魔法家だからって堂々と言うか?」


「それは坊っちゃんが特別だったからで、普通それは誇るべきものなのですよ」


 エドワードの祖父が再び影訊かげききでエドワードに話しかける。


「……いつから聞いてたジジイ」


「あの九鬼原とかいう少年を追いかけるおころらへんからですかのう」


「ウソつけ」


「……申し訳ないのですが坊っちゃん、影訊かげききは一度使うと常にツーツーなのでございますよ」


「クソッ、気持ちわりぃ」


「ほっほっほ、これも坊っちゃんの身を案じての仕方のないことですよ」


 この学校には中庭があり、周りを城壁が囲んでいる。その中庭に出たところでエドワードは寝転がっている九鬼原を見つける。


「おい、戻れよ」


「うーん……ヤダ」


「戻らねぇと面倒だぞ」


「知らないよ。あの子が土下座しに来たら考えてあげなくもないけど」


 九鬼原はふて寝でもするかのようにゴロゴロとするだけで、起き上がる気配も無い。


「……まあそれもいいが、どうして魔法家を目の敵にしてんだ?」


 ついで代わりにエドワードはなぜ彼が魔法家を必要以上に危害を加えようとしていたのかを問いただす。


「どうでもいいでしょ」


「よくねぇよ。お前異様にあいつらを憎んでいるようにも見えるから、その理由が知りてぇんだ」


 それは九つの魔法家の天敵にもなりかねないものへの問いでもあった。


 九鬼原はまた一人でクヒッと笑うと、お茶を濁すための言葉でも無くただたんに答えたくないとの一点張りのままである。


「まあいいさ。いずれ分かるかもしれねぇしな」


「クス、きみには一生分からないだろうねぇ」


 九鬼原はもう満足したのか天井の光球を眺めるのをやめ、芝生の上に立つ。


「さて戻ろうかなー、あの子が追ってこないってことはきみも結構酷いことしてそうだし、泣き顔が見れそうで嬉しいよ」


「気持ちわりぃなお前」


 九鬼原は目の下のクマを掻きつつ、エドワードとともに寮の方へと戻っていった。




 エドワードたちが寮に戻ると、既に新入生は別の所へ行ったのかいなくなっている。


「会長、皆はどこにいったんですかね?」


「うん? 教室の方だよ。次は担任の先生と顔合わせをしなくちゃならないからね」


「そうですか」


 エドワードがきびすを返して戻ろうとしたところで、柳生は九鬼原に声を掛ける。


「九鬼原君」


「はぁ?」


「はぁじゃねぇだろアホかお前は」


「いいよいいよ、それくらい。それよりも」


 柳生はそれまでの笑顔から少しだけ真剣な表情を浮かべ、九鬼原に釘をさす。


「あんまり調子に乗らない方がいいかもよ。僕はどうでもいいけど副会長がご立腹だったからさ」


「はぁ、そうですかー」


 九鬼原はまるでどうでもいいと言わんばかりに適当に聞き流すと、エドワードを置いて先に階段を降り始める。


「すんません、あいつ普段からあんな感じですよ」


「いいよいいよ、そのくらい堂々としている方が接しやすいしね。それに――」


 ――ああいうのが後々有名になるものなんだよ。悪い意味でもいい意味でも。




 エドワードが教室についた時には既に担任が挨拶をしている途中であった。


「あー、俺がこのクラスを担任する――なんだまだ席に着いていない生徒がいるのかよ、さっさと席に着け」


 歳は四十前後であろうか、無精ひげを生やし古くなった服を着こなすその姿は大雑把な性格であろうことを予測させる。


 九鬼原は一番後ろの窓側角の席、そしてエドワードはその前の空いている席に座った。


「よーし、皆今度こそ揃ったな。俺が一年を担任する千景ちかげだ。得意属性は地。主に契約・召喚・使役の授業を担当している。一年間よろしくな」


 担任が自己紹介を終えたところで、今度はクラスのお互いを知るための事項紹介が始める。


「じゃあ窓際からいくか。一人ずつ名前と得意属性、それと抱負でも言ってもらおうか」


 そしてエドワードの列の先頭から一人ずつ自己紹介が始まる。エドワードはいざ自分の番になったら何を喋ろうかと考えていたが、そんな時間もすぐに無くなってしまい自噴の出番となる。


「じゃあ次いこうか」


「ん? あ、俺か。エドワード=ヴィクターだ。得意属性は光。抱負として……まあ特に、平和だったらいいんじゃないかなと思ってます」


「ずいぶんと控えめだな。お前さん光属性は得意属性としてはなかなか珍しいもんだから、元大きな目標を持ってもいいんだぞ」


 それはひいきになるのではないのかとエドワードは思いながらも席に着くが、次の人が経つ様子が無い。


「……おい、起きろよ」


「んぁあ、うるさいなあ」


 この時間の短い間に眠れるとはなかなかの才能の持ち主のようだが、九鬼原は無理やり起こされてはだらだらとしながら自己紹介を始める。


「九鬼原惣治郎。得意属性は闇。とりあえず強い者いじめが好きなんでヨロシクねぇ」


「おいおい、俺のクラスでいじめなんざ起こさせねぇよ」


 九鬼原は千景の注意に対しクスクスと笑う。


「そりゃ弱い者いじめは駄目でしょうけど、僕が言っているのは強い人をいじめることです。強い人は下の者を見てすぐに天狗になります。僕はその鼻っ柱をへし折ると共に満足感を満たすのが目的です。弱い人は安心してください、僕が誠心誠意守ってあげますから」


 言葉とは裏腹のいびつな気持ち悪さが教室中に広がった。九鬼原はひたすらに怪しげな笑みを浮かべたまま席へとつきなおした。


「お前本当にするなよ」


「さあ? 強い人がこのクラスにいないのならしないんじゃない?」


 九鬼原はひたすら笑っているだけで、やめるということは無かった。


 そしてその後も自己紹介は続く。


「――サラ=アナスタシア。得意属性は火」


 サラはそれだけを言うとその場に着席をしたが、抱負はどうしたのかと千景は彼女に問う。


「抱負なんざねぇよ」


「それでも何か――」


「あぁ?」


 サラからギロリと睨まれた千景はそれ以上言うのも面倒だと次の人へ自己紹介を進める。


「シエル=ヴァレンタイン=氷坂ひさかと申します……得意属性は水。抱負は……私も、今は言えません」


「そうか。そう言えばお前さんヴァレンタイン家の者か、いやぁ見てみたいもんだね、ッヴァレンタイン家秘伝の氷の秘術とやらを!」


 千景は自分のクラスに九つの魔法家の者がいることに喜んでいたが、当の本人は何故か誇ることも無く俯いているだけである。


「うん? どうした? 大丈夫か?」


「い、いえ、大丈夫ですから」


「あーあ、エドの言葉がよっぽど聞いたかなぁ?」


「黙れよ」


 九鬼原はエドワードが言い放った言葉が聞こえていたらしくわざと意地悪く言ったが、エドワードはそれを気にはしていない様であった。


 そして次の自己紹介をするのは――


「わたしはロザリィ=グリターだ! 得意属性は光! 抱負はこの学校の生徒会会長になる事だ!」


「背はちっさいのに言うことはデカいんだね」


「う、うるさいぞそこ!」


 九鬼原の独り言は以外にも聞こえていたらしく、周りからはクスクスと笑い声が漏れ始める。


「あーもー! 何なのだ!」


「やめとけ。ムキになるほど思うつぼだぞ」


 エドワードの冷静な言葉にロザリィも悔しいながらも渋々と座り込む。


 その後も自己紹介は滞りなく進むかと思われたが、最後らへんになってまたもや停止ししてしまう。


 見れば机に突っ伏してすぅすぅと寝息を立てている少女のところでとまっている。


「おい、誰か起こしてや――」


「はーい、僕が起こしますよ」


 九鬼原がすぐに手を挙げ、少女の元へと歩み寄る。


「あのバカ何しでかす気だ!?」


 少女のだらしない寝顔に、九鬼原はどこか嗜虐心しぎゃくしんをそそられたのかイタズラを始める。


「ほっぺたむにー」


 九鬼原はゆっくりと起こさない様に少女の頬を伸ばし始めた。少女は頬を伸ばされても寝息を立てたままであり、伸びた頬のせいで口の端からヨダレが垂れ始めている。


 しばらく伸ばしているとうぎゅぅ、と声を挙げて起き始めたので九鬼原は急いで自分の席へと座る。


「お前何やってんの?」


「いやぁ、なんか柔らかいほっぺって伸ばしたくなるよね」


「お前の性癖がちょっとおかしいってことは分かった」


 少女は寝ぼけ眼でありながらも起きたと同時にとりあえずは立ってみるが、現状を把握できていない様で左の頬を赤くしたままぼう然と立っている。


「何で今立たされているか分かるか?」


 千景の問いに少女はうつらうつらとしながらも首をぶんぶんと振る。しかしそれにしてもこのままでは立ったまま寝てしまいそうである。


「今から自己紹介をするんだ。名前と得意属性、そして抱負を言え」


 少女はやっと理解をしたのか、ゆっくりと口を開き言葉を発する。


「……斑鳩いかるが……です。得意属性は……地? ……………うみゅぅ」


「立ったまま寝るなよ……」


「斑鳩って……珍しい名前だね。偽名かな?」


「知るかよ」


 どうでも良さげにエドワードは答える。そしてそうこうしている内に自己紹介も終わり、学生証が配られる。


「――全員紹介が終わったな? 最期に学生証を前からまわすから一人ずつとってけ! 受け取ったら今日の授業は午前中で終わり! 部活動見学にでも行って来い!」


 学生証はカード型で、顔写真の代わりに立体のホログラムが浮かび上がるようになっている。


「……あれ?」


「何だよ」


 エドワードに学生証をまわしたところで、九鬼原はある事に気がつく。


「僕の学生証が無い!」


「知るかよ、先生に言って来いよ」


「せんせー! 僕の学生証はー!?」


 九鬼原が大声で教壇の前まで行くと、千景は首を傾げながらもカバンを探す。


「おっかしーな。確かに志垣しがき先生から全員分受け取ったはず」


「先生一日目からミスとかクビ大丈夫ですかぁ?」


「んなわけあるか! 首にはならんわ! それより学生証だが再発行という形を取るから明日か明後日には渡せるようになっているはずだ。それまでは部活動には十部できないことになるからな。すまんな」


「セキニン……とってよね?」


「気持ち悪いこと言うな!!」


 先生ですら手玉に取った九鬼原にエドワードはため息をつき、自分の学生証を見る。


「……気持ちわりぃ」


 ミニサイズの自分のホログラムに君の悪さを感じながら、エドワードは学生証をしまい込んだ。


「さて、飯でも行くか」


「僕も行くー!」


「お前はくんな」


 無視してついて来る九鬼原はさておき、エドワードは先ほど嫌味を言った氷坂の元へと向かう。


「おい」


「は、ひゃい!」


 氷坂はエドワードの声掛けに驚きのあまりに変な声を挙げるが、九鬼原以外は笑うことは無かった。


「ちょっと飯食いに行くんだけどよ、さっきの件で言っておきたいことがあるんだ」


「さっきの件で?」


「面汚しの件だ。言い方が悪かったから謝っておこうとも思ってよ」


「そうですか……」


 氷坂は席から立つと、エドワードとの食事について行くことを伝える。


「よし、後は……お前らも来るか?」


「あぁ? 誰がてめぇと飯なんざ食うかよ」


「わ、わたしは行ってやってもいいぞ!」


「そうか、ロザリィは来るとしてサラは来ねぇのか?」


「馴れ馴れしく喋りかけるな! アタシはテメェをまだ認めてねぇからな」


 サラはそう言って一人で廊下に消えていくと、エドワードはやれやれと言って様子で残りの面子で昼食を取りに行こうとした。


「ナンパ失敗だね」


「ちげぇよ。知ってる奴でとりあえず飯食おうとしているだけだ」


「そうかい? じゃあ僕も行こうかな――あれ?」


 誰かが九鬼原の袖を掴み、その進みを止めている。


「誰かな? 僕のファン?」


「んな訳ねぇだろ」


「ってあれ、君は確か――」


「斑鳩だっけか?」


 斑鳩が九鬼原の袖をしっかりと掴んだまま寝息をたてている。一体どういう事であろうか。


「とりあえず起きようよー」


 九鬼原がまた斑鳩の頬を引っ張って起こすと、斑鳩はまだ寝ぼけているのかとんちんかんなことを言い始める。


「はっ……ご、ご飯は?」


「まだ教室だけど?」


「ご飯連れて行ってくれるって――」


「僕が? えぇー、面倒だしイヤだよぉ」


「いいじゃねぇか行ってやれよ」


 エドワードはここぞとばかりに九鬼原を茶化し始めた。


「イヤに決まってるでしょ!? 何で僕がこんな見ず知らずの赤の他人を――」


「じゃあ仕方ねぇな。斑鳩は九鬼原のせいで飯が食えねぇと」


「うぅ……お願いします、連れて行ってくださいぃ」


 斑鳩の目が涙ぐみ始めたところで九鬼原の心が折れ、渋々袖を引っ張り始める。


「もう、ほら行くよ!」


「……まって、眠いの……」


 斑鳩は九鬼原の腕を取り直すと、早速しがみついて寝る体制へと移行している。


「は? 何してんの――って腕にしがみつかないでヨダレたらさないで!?」


「面白れぇ奴だな。今度から面倒になったら斑鳩けしかけるか」


 エドワードは九鬼原対処法が見つかったことを喜ぶとともに、九鬼原にも人らしい所があるのだというのを知った。



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