奇策と試作
「じじい、年を考え――」
エドワードがそう言い終わる前に目の前を光の手刀が通り過ぎる。
「……これでも劣っていると? いくらじいの本体が歳を取ったとはいえこのじい、動けぬとは一言も言っておりませぬ」
その通り、祖父の肉体は衰えたとしても、その実力まで衰えたとは言い難い。
「……だったらいつも通りでいいよな」
「はい、全力でかかってきなさい――とは言っても、制限された範囲ですがな」
老練の笑みを受けて、エドワードは昔受けた稽古を、今ひとたび受ける事になった。
その稽古相手である老人にエドワードが勝利する条件はただ一つ、その身に一撃を加えれば良しとなる。
「――天光烈火!」
エドワードはまず基本となる光の魔法、天光烈火を使っての老人の動きを牽制にかかる。
光の矢は老人の行く先々に飛び交い、まるで老人が次に動く方向を操作している様にも思えた。
しかし――
「このように見え見えの誘導をなされるとは、ぼっちゃんも上級魔法が使えないとこんなに腕が落ちるものなのですな」
「流石に分かるよなぁこれくらい。だが、ここからが腕の見せ所だ」
エドワードは更に詠唱を始め、さらなる魔法を放つ。
「――綺羅星よ、緋の瞬きよ、大空よ! 道行く愚者の、光の標となれ! ――動天乞射!」
今まで老人が歩いてきた道全てが、天光烈火によって光の荊となってその場にとどまる。
「……これは、退路を断たれましたな」
たった今エドワードが唱えた魔法は、今まで設置していた光魔法が消えずに残り続けるという特殊な魔法である。
「しかしこれでは魔法を定着させただけであって、まだ十分に回避できる余地があるように見えますが――」
「そうかよ。だったらこれを受けてみろよ」
エドワードは右手で光の荊の端を持ち、魔力をそこに集中させていく。
「――炸裂しろ――爆葬煉火!!」
その瞬間、エドワードが触れた先から光の矢が火花を散らして荊を突き進んでゆく。
火花は荊を飲み込みながらどんどん大きくなってゆき、老人の元へと光の道を通って突き進む。
「これは――」
火花が老人の目の前まで接近し、老人が目を細めた瞬間――
「――これでも逃げられるか?」
火花は今まで道を進むまでに集めてきた光のエネルギーをさく裂させ、爆発を起こした。
それは老人が瞬時に回避するには爆発があまりに巨大すぎるものであり、かつこれを避けようとするのであればエドワードの残した天光烈火が邪魔になる。加えてエドワード自身もまた妨害を加えたであろうことから、実質このコンボを回避することは不可能であった。
少なくとも、エドワードの考えとしては。
「……おいおい、あれでノーダメージってちょっとショックだぜ?」
「ふぅ、危ない所でございましたな」
どうやら老人はエドワードの攻撃を喰らっていない様で、稽古はまだ続くようである。
「一体どうやって――」
「……ぼっちゃん」
「ん?」
「ぼっちゃんは今、見ての限り上級呪文を禁じられておりますな」
「そうだが」
老人はニコニコとしながら、エドワードに語りかける。
「では、少しずるをしてみましょうか」
「はあ?」
老人はすたすたと歩いてエドワードと会話をしやすい距離まで近づくと、人差し指を立ててニコニコとする。
「その紋章の特徴は、どうやら上級以上に登録された呪文を詠唱できない様にしてあるようですな」
「ああ。動天乞射(シュートロードも、爆葬煉火も中級呪文だ)
「では、仮にぼっちゃんがそれに登録されていない協力な呪文を知っていたならば、その紋章の封印をいとも簡単に通過できますな」
「……一体何が言いたい」
エドワードはあることを考えながらも、老人の方を怪訝そうに見る。
「簡単な話です。 その強力な呪文を、今から覚えましょう」
「禁呪じゃねえだろうな?」
「まさか」
老人はそういうと、突然右手の甲から巨大な光の盾を召喚する。
「――これが、今回ぼっちゃんに覚えてもらう、対物理魔法最強の防御呪文となります」
「……それでさっきのを防いだのかよ」
「ぼっちゃんは、古代魔法を知っておりますかな?」
「あぁ――ってことは――」
「崩逆対盾。これがぼっちゃんに覚えてもらう魔法であります」




