逃亡と捜査
朝日が昇っても九鬼原が部屋に返ってこなかったことにエドワードは頭を抱えた。
「ったく、あいつどんだけ怒られているんだよ……」
――あるいは既に退学されたか。
後者の方の確率が高いことはエドワードも重々理解していた。
禁呪を使用するなど上層部では一発で監獄行きだ。それを学生の内から禁呪を使用したこと、ましてや余罪として魔導書を読んでいることを知られては――
「――ん? 魔導書を読んでいるということは……」
もはや一時間目から出る気が失せていく。エドワードはせっかく着替えた学生服のまま再び布団にダイブする。
「……魔導書を読んでいるということは……かの有名な犯罪者アダム=J=コーエンと同じ――」
――六百六十六年の禁固刑。
要するに、禁呪の中でも上級禁呪とされる守護縛鎖を唱えた者と刑罰が等しくなる。
「……ま、あいつが招いたことだ。大人しくしておけば魔導書を読んでいたことが学長に知られているぐらいで済んだのによ。それに学長は俺達が魔導書を読まされたということを知っているからな」
だが違反した者にきちんと罰が与えられなければ、この世界は回っていかない。
「……出るか」
エドワードはカバンを手に持って、寮の重たい扉を開いた。
「一限目は……」
この学校ではお約束という訳ではないが新入生最初の一時間目は必ず薬草学から始まる。
室内には怪しげな薬品と植物が並んでおり、時折うごめいているものも存在している。
「キモチわりぃモンばっかおいてんじゃねぇか」
「ん? お前昨日は大丈夫だったのか?」
この度の席順でエドワードの隣になったのはサラである。彼女の性格からしてこのような論理的なものは苦手の様にエドワードは思った。
「ま、最初の授業はオリエンテーションだろどうせ」
「そうかもな」
「……昨日のアイツはどうなってんだ?」
「九鬼原か? 俺も寮で待機してたが、あれから帰って来てない」
「はぁ? それ大丈夫かよ」
「知らねぇよ」
前で授業が始まるのを横目にエドワードはサラと昨日の件についてのやり取りをする。
「てか昨日のアレ見た後氷坂がずっと考え事していたぞ?」
「あれは禁呪だ。多分九鬼原は刑務所にぶち込まれるだろうな」
「あれ禁呪かよ。それにしてもおっかねぇもんだな。斑鳩は状況説明に連れ出されるし、ロザリィはビビって寝付けなくなってたしよ」
「そんななかお前は図太く寝てたのか?」
「はぁ!? ふざけんなよてめぇ! 誰が寝てたって――えぇ……と……」
無神経な言葉に対して腹を立てたサラが大声を挙げるとともに、皆の視線が一か所に集まる。
「……サラ=アナスタシアさん」
「は、はい……」
「痴話喧嘩なら外でしてもらってよろしいですか」
「だっ、誰がこんなヤツと――」
「すいません先生」
「はぁっ!? 何でてめぇは素直に謝ってんだよ! 大体お前が――」
「もういい静かにしろ」
いら立ちをなんとか抑えつつサラは席に座りなおす。
「てめぇ後で覚えてろ……!」
「もう忘れた」
「くっ……」
薬学がつつがなく終わり、次は自身が取り扱う魔導具の基本的な指導であるが――
「――なんでここにいるんですか」
「私が居てはまずかったか?」
「誰だこいつ? 知り合いか?」
とある要件から魔法省から来ていた市来は、廊下で丁度エドワードと鉢合わせすることになる。
「この子は?」
「同級生だ」
「ふむ、貴様も色を知るようになったか」
「そんなんじゃねぇよ」
「そうか。それにしても口が悪いぞ小娘」
「あぁ? 誰だてめぇ」
「魔法省刑務部の人だ」
「ッ!」
自分が口をきいていたのがまさか魔法省の人間とは知らずに、サラは黙りこくってしまう。
「良かったな。貴様が何らかの違反をしていたら私情で刑罰が重くなっていたかもしれないからな」
「それより市来さんが来たってことは――」
「禁呪の使用した跡を検証、更に九鬼原惣治郎の捜査をしている」
「九鬼原の捜査?」
エドワードは九鬼原に関する事と予測はしていたが、捜査ということはいまだに九鬼原が見つかっていないという事を示唆している。
「学校にいないんですか?」
「学長の目の前で脱走されたようだ」
「……マジかよ」
エドワードは大きくため息をつくと、市来にひとつ提案をする。
「俺も捜査に――」
「駄目だ」
「まだ最後まで言ってねぇ」
しかしエドワードが言おうとしていたことを市来は予測しており、勝つ魔導書持ちの彼がこの操作に加わることをよしとはしなかった。
「貴様、紋章をつけられているだろう」
「そうだが」
「九鬼原はそれを打ち破ったことぐらいは知っているだろう」
「……つまり紋章がある俺が行っても足手まといだと」
「そういう事だ。それと学長から言伝も預かっている」
「何すか……」
市来は手帳を確認しながらエドワードに告げる。
「第十三教室に迎えとの言伝だ」
「第十三教室……? この学校は十二までしか一般の教室が無いんじゃ――」
「探せ」
「……そうすか……つう訳で、俺次の魔導具の授業でないからそう言っておいてくれ」
「はぁ? てめぇで言えば――」
「頼むから」
珍しくエドワードが手を合わせて頼んでいるのを見て、サラは仕方がないとため息をつく。
「……今回だけだ」
「ありがとな! 後で昼飯奢ってやっから」
「ちょちょっと待て! 荷物までもつとは――」
「じゃあ行ってくるわ! サンキューな」




