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針と鎖

「えっ!? というよりここ女子寮では――」


透過スケルトン使って何とか侵入した」


「フヒヒ、女子寮女子寮」


「お前は少し黙っていろ」


 エドワードと九鬼原は目的のものを見つけ出すと、早速破壊に取り掛かる。


「気持ち悪いクモだな」


「割れた音で見回りが来るかも――てか百パー来るよね」


「じゃあささっと破壊して撤退しねぇとな」


「待ってください!」


 二人が倒す算段をつけている所で、氷坂が声を挙げる。


「どうして来たのですか!?」


「そりゃ人形ドロイドが来ているからだろ?」


「私達が処理して――」


「いやー無理だろ。多分昼間に九鬼原が破壊したのを知っているなら、強化したものを送り込むだろうしな」


「ま、僕の実力はあんなものじゃ無いんだけどね」


 九鬼原が得意げにしているのを見た人形ドロイドは狙いを定めたようで、氷坂に目を配ることも無く真っ直ぐに突き進む。


「ホラね、昼間の件で僕をマークしていたみたいだけど、それは無駄――」


 ――ではなかったようだ。九鬼原は湊川のとき同様わざと喰らったふりをしてそのまま反撃しようとしていたのだが、人形ドロイドの攻撃はそのまま九鬼原に直接ダメージを与えた。


「ぐっは!?」


「ちっ、対魔法用付呪アンチマジックエンチャントしてたのかよ!」


 エドワードはすぐに人形ドロイドの前足にかかっている付加呪文エンチャントを見ぬくと、九鬼原をさがらせ自分を前に出した。


「九鬼原が駄目なら俺が行くしかねぇか……」


「キシキシ……」


 前足を細かく素早く、本物の虫がする動きと似た動きを人ほどのスケールでするのを見ると、なんと気持ちの悪いことか。


「……やるか」


 エドワードは両手に魔力を集中させ、指と指との間に光の針を生み出し始める。


「――光よ鋭く空を切り、貫け我らが天の敵を! 集光針々バリスティックニードル!!」


 鋭い光が放たれ、蜘蛛の額に突き刺さる。


 人形ドロイドは自分に張られた対魔法用付呪アンチマジックエンチャントが効いていないことに困惑し、奇声をあげる。


「ぴ、ピギィィィ!?」


「そりゃ驚くだろうなあ。付加呪文エンチャントぶち抜いてくる魔法なんざ限られてるからよ」


「あぁ? 何だその呪文は?」


 サラはエドワードが放った貫通する魔法について疑問を持ち始める。


付加呪文エンチャントはものによるが基本的には膜のように覆うだろ。アタシの見立てじゃあれは物質に刷り込まれてて、膜の様にはなっていない。 貫通するのも剥がすのも無理だと思うんだけどよぉ」


「だからこそだ。集光針々バリスティックニードルは外部からではなく、刺さった内部から破壊する呪文だ。それに刺さるまでは魔法としてではなく物質として判定されるから、このような呪文には意外と効く。まあ普通はこんな呪文覚えてる奴は少ないけどな」


「けっ、てめぇマジでむかつくやつだぜ」


「そりゃどうも」


 エドワードは苦痛にもがく人形ドロイドの全ての足に針を打ち込み、身動きを取れなくする。


「これで終わったな。後は見回りの奴に引き渡しといてくれ」


 それにしても中級のこの魔法が仕えたことはエドワードにとっては重要なことであった。


 本来ならこれのもう一つ上の呪文を小規模に使って破壊しようとしていたが、例の封印術式によりそれは阻害され、何とかしようとしてとりあえず出したのがこの呪文であった。


 しかしそのおかげで破壊せずに済んだどころか生け捕り(?)に成功し、このおかげで犯人の特定は大きく進むことになるだろうとエドワードは考えた。


集天裂光弾ライトニングティアーが使えない、か…………まあいいか、九鬼原を連れて帰るか。おい、生きてるか?」


「あのガラクタを粉々に破壊したい気分だよ……!」


「じゃあ大丈夫だな。てかマジで破壊はすんなよ、大事な証拠だからな」


「くっ……」


 九鬼原の肩を持ち、エドワードは出口へと振り返ろうとしたが――


「き、君達っ!」


「やべっ」


「ちょっと! まだ回復魔法使っている途中だからっってこれは――」


「これは一体どういう事かね!?」


 見回りに来た白衣を着た老人が、驚きのあまり部屋のドアの前でぼう然と立っている、


「あー、あのですね……俺達ちょっと道に迷っただけで――」


「言い訳はいらない! 女子寮に侵入など言語道断! お前達には罰を――」


「待ってください! 彼らは人形ドロイドを倒してくれたんです!」


 ナイスフォロー、とエドワードは氷坂に対して心の中でお礼を言った。


 老人は人形ドロイドと聞くと表情を変え、部屋の中の確認に入る。


「これは――」


 老人は眼鏡を上げて人形ドロイドを観察し、それが確かだということを理解する。


「これはこれは……大変な事だな」


 老人が人形を観察している間に、先ほどエドワードがかけていた呪文が解呪されているのに九鬼原が気づくのは、この数秒後の事である。


「ふーむ、どこの人形ドロイドか見当がつかんわい」


「どこのか分かるんですか?」


 エドワードが疑問を投げかけたところで、老人はハッとした顔で自己紹介を始める。


「わしの名は志垣、ここでは魔法工学といって、人間パーソンが扱う機械分野と魔法族ソーサラーの魔法を組み合わせた分野を教えておる。このような人形ドロイドも、魔法工学に含まれるから分かるんじゃよ」


「なるほど……」


「雑談している場合じゃないよ……」


 九鬼原はエドワードの手を払いのけ、人形のすぐ近くにまでフラフラと歩み寄る。


「こいつ解呪ディスペルして――ッ!?」


「キシシ、キシャー!!」


 人形は既に光の針を取り除いた後で、近くで寝ていた斑鳩を人質にとるかのように足先の鎌を向ける。


「ふひゃぁ! た、助けてくださいぃー」


「まずい! 生徒が人質にとられてしまった!」


「キシ、キシシシシシシィッ!」


 挑発するかのように、人形ドロイドは斑鳩の頬に沿って鎌を這わせる。


 それを見た志垣が慌てふためく中、九鬼原は急に冷めた様な表情となり、冷酷に喋り始める。


「……人形ドロイドって、やっていいこととダメなことの区別がつかないのかなぁ?」


 九鬼原はだらりと脱力して舌を出し、魔力を集中させる。


「お前封印されているだろ! 上級魔法は――」


「大丈夫だよ――」


 ――だって、禁呪だからね。


「――舌喰怨鎖チェインイーター


 舌の上にあった魔法陣は破壊され、代わりに新たな魔法陣が構築される。


 エドワードは九鬼原が呟いた呪文の名を、聞き逃すわけにはいかなかった。


「おい止めろ! 下手したら全員喰われるぞ!」


「大丈夫だって、僕を信じてよ」


 信じるも何も禁呪を唱える者は元魔法省執行部の経験から刑罰ものなのはわかりきっている事だ。


「牢屋にぶち込まれるぞ!」


「いいよ。だって今までも牢屋で過ごして来たようなものだし」


 九鬼原の言っている意味を、エドワードは理解できなかった。そして――


「――咀嚼そしゃくの時間だよ」


 がぱっと大きく開かれた口から舌を垂らすと、真っ黒な鎖がいくつも伸び始める。


「キシッ!?」


 まず手始めと言わんばかりに人形の手に装備された鎌に鎖が一瞬で絡み付き、覆い尽くしてしまう。


「キシシ――ギヒィ!?」


 人形の鳴き声が驚愕の色を帯びたかと思えば、鎖はすでに鎌を喰いつぶした後であった。


「ひぇんぶくっひぇいいかりゃへ(全部喰っていいからね)」


 九鬼原の合図を聞いたとたんに鎖がいくつも飛び出し、瞬く間に人形を覆い尽くしてしまう。


「ギシッ!? ギシイシシイ――」


「ひゃああ!」


 斑鳩が怯えたのは鎖にではなく、必死に自分に掴みかかり足掻こうとする人形ドロイドの姿だった。


「ギィ――……」


 人形ドロイドが断末魔を響かせる前に、鎖は全てを喰らい付くし、空間を無へと返す。


「そ、惣ちゃん?」


「大丈夫だよ。きみは喰べないから」


 九鬼原は鎖を口の中へ収納し終えると同時に、糸が切れるかのようにその場に倒れ伏せる。


「九鬼原!」


「危ない所だった……」


「が、学長!?」


 志垣が驚きの声を挙げた理由は、すぐ後ろに学長がいたからだ。


「どうされましたか!?」


「いや、ちょっとボクがかけた魔法が切れるのを確認してね……それよりも、この現状を説明してもらおうか――」



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