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竜と人への鎮魂歌  作者: ポティト
青年編
2/12

青年は少年と出会う

「今大会優勝の褒美として、護衛軍に任命する」


 玉座に踏ん反り返っている王に跪きながら一礼して立ち上がると、身分を称する腕章を付けた。


「これにて第七十二回武術大会優勝品贈呈とする」


△▼△


 毎年身分差別の無い武術大会が行われ、優勝者は国王の護衛軍として就くことができる。護衛軍に就くことができたら一生安泰として需要が高い身分なのだ。


 そして今回初出場の俺は優勝することができ護衛軍としての任務を遂行するつもりだったのだが、新人という理由で人手不足の竜討伐に出向くことになった。


 それぞれの荷馬車に入っていく大量の奴隷や一般市民、兵士の学生を見るに今回の竜討伐はかなり苦戦してると伺える。


「おい、そこの学生」


「な、なんでしょうか?」


 拙い鎧を身に纏った男が指揮官に呼び止められた。


「学生はあっちの黒の紋章がある荷馬車と昨日説明しただろう」


「そうでした、すみません」


 身分によって乗る荷馬車は変化しており、奴隷となれば狭い荷馬車に詰め込まれ身分が高くなると一人で使うものもいる。身分が高ければ持参するものが増えるらしい。


 指揮官に案内され用意ができた一人用の荷馬車に乗り込み、指揮官にある願いを伝えた。指揮官は戸惑いながらも承諾をしてくれた。


△▼△


 乾いた土を蹴り勢いよく駆ける荷馬車に乗っている、学生に話しかけてみるが返事はない。


「隠しても無駄だ。ここに呼ばれていない子供」


 深々と被っている兜から小さく声が聞こえた。


「なんで知ってる」


「兵士の学生でも、目上の人には承諾の意は短く伝えるものだ。あんなに貧弱そうな兵士は探してもいるはずが無い。今回の指揮官はかなり慌てていたから見逃されたのだろうが」


「なんで助けた」


 兵士は指揮がスムーズに行えるように皆の顔と名前を覚えることを義務付けられており、こいつは荷馬車で小さな騒動を起こしたはずだ。


「目的地に着くまでの暇つぶし。なんで抜け出そうとしたのか話を聞かせて」


 嘘は言っていない。


「分かった、助けてくれたお礼もあるし。……僕は身分が奴隷の一歩手前で、家族には見放され周囲の人も助けてくれなかった。だから逃げた」


 あの国から逃亡を図る大多数とまったく同じ意見だった。身分は生まれたときに両親の身分を受け継がれるが後は個人実力主義の世界で、親が身分高くても子供は奴隷ということもあり、ほとんどはそこで子供を捨てている親も多い。


「つまんないな」


「護衛軍様には分からない事だよ。もう外に出ることが出来たから降りる」


「ここ一帯に町は無いし休めるところも無い、無駄死にをしたいなら降りて」


 子供が拳を振り上げてくるが軽く流して取り押さえる。


「どうかなさいましたか?」


 物音に気づいた騎手が振り向きながら言うので、遊んでいたと伝えた。


△▼△


 深い霧に包まれる隣国の砦前で荷馬車から降ろされ、裏で竜討伐が行われていることを聞いた。


 この隣国は面積だけなら国の中でも一番である。


「ここまできてしまったら、逃げる方法が無いぞ」


「道中死ぬよりはましだ。ここの国から食料を盗んで帰りに降りてやる」


「どうぞご勝手に」


 新たにここへ来た者は物資搬送が仕事のようで、裏門からでは大量の物資は運べないらしい。


 指揮官の命令で俺は物資を乗せる役割で、あの子供は物資の搬送の警護をするそうなので隙を見れば盗めるはずだ。


 送り込まれた兵士の五分の四が死にながらも竜を二体討伐したと聞いた。しかし先遣隊からの情報によればもう一体規格外の竜が現れ、こちらに向かっているらしい。


 物資搬送に慣れてきて欠伸交じりに活動していると竜の咆哮が耳に突き刺さる。


 指揮官は怯えた兵士達を鼓舞するように声をかけ、勇気付けた。


 一度は静まったが、指揮官への伝令でまた騒がしくなる。


「静まれ!! 想定外の力であったため竜討伐へ赴く兵士をここから出して欲しいということだ。兵士の学生、リック、ルドー、カインはここに残り、他の兵士は戦地へ向かえ!」


 名前を呼ばれた兵士は学校で成績トップの者達だ。


 近くにいた子供は自分を一般の兵士と見せるために、迅速な行動をしていた。


「次に学生の兵士を指揮する兵士をレヴィアに任命する」


 名前を呼ばれ短く返事をした後集まっている兵士の学生の元へ向かい名前を伝えて、すぐさま正門へと歩き出した。


 子供は身を隠すように端で兜を深く被っていた。


 学生で才ある者を残し、新人の俺を向かわせたのはこの竜討伐が失敗に終わるからだ。俺達はただの時間稼ぎであり有能な兵士を生かすための橋だということが分かる。


 そのことは学生も承知のようで皆、死にに行く表情をしていた。


△▼△


 開けた視界から目に飛び込んできたのは無残にも体の一部がそこら中に散乱して血の湖ができ、その湖で痛さで叫ぶ兵士達は滑稽だった。


 砦にある砲台にはすでに兵士は無く、自らの命を守るため逃げている。


 竜は空中を飛翔し口の中で赤黒い魔力を溜めており、それが吐き出されたときはこの国の終わりだったということが容易に想像がついた。


 そんななか竜に対し反抗する女性兵士がいた。鎧は傷つき穴が開き仲間の兵士の血が付着しながらも装飾された弓を引き絞り、弓を放つ。


 弓は一直線に飛び、大きな火を纏いながら飛翔する竜の頭を貫通した。


 その瞬間兵士達は叫びだし、互いに生きたことを確かめるように抱き合ったがその幸福な瞬間を消し去るように深い霧の奥から黒い竜が現れた。


 黒い竜は気勢が荒く希少種でもあり竜の中で最高の力を持つ、今の兵力では適うはずが無い。


「撤退だ! 早く撤退しろ!」


 女性の兵士が慌てて指示をするが、黒い竜は逃げていく兵士を砦の岩ごと喰らう。


 黒い竜は口の中で一瞬にして魔力を溜め国の中へ放射し、国の半分を壊滅させた。


 周りを喰らい、魔力を吐き出し、血の雨が降った。異様なほどここは静かで、兵士は神へ祈りを捧げている。


 黒い竜は腰が抜けて立てずにいた子供と俺に狙いを定めて魔力を溜めた。


 落ちてきた岩に潰されて死んでしまった兵士の学生から一本の矢と弓を貰い、黒い竜へ構えた。


 弓を引き絞り、狙いを定めて


「天は空に、地は我に」


 短い詠唱の後、矢は放たれた。

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