青年は暗殺者と対峙する
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荷馬車に揺られながら国へ帰還している。
「黒い竜を跡形も無く消すなんて、レヴィアさんって物凄く強いんだな」
兵士の学生に対して名乗ったのだが、この子供に覚えられたようだ。
「そんなことはどうでもいい。お前はこの盗んだ食料を持って消えろ」
「ううん、僕はレヴィアさんについて行く。といっても、帰ったら奴隷の身分になるけどそこから這い上がってレヴィアさんと面向かって話せるようになったら、僕を弟子にしてくれないかな」
「断る」
「即答ってひどいよ」
以前より話しかけてくるこの子供は面倒だ。
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王が祝勝パーティーを開催して、兵士達が傷や心を癒している時に貴族達は大喜びで踊り、食し、笑った。
その人を見てると吐き気がしてきたので早々とパーティーを切り上げ自室へと戻ろうとしたのだが、自室には思わぬ客人が窓から見える月を眺めていた。
「貴様に話がある」
無断に他人の部屋へと入った事に対しては触れず、その女性は椅子へ座るように指示して、向かい合うように座った。
「今日の黒い竜討伐時の話だが、黒い竜を殺したのは貴様でいいんだな?」
三匹目の竜を仕留めた女性兵士は最前線で戦っていたにもかかわらず疲れの表情が見れない。
「違います、なにかの間違いでしょう。しかし、百歩譲ってそうだとしたらどうするんですか?」
「貴様を竜討伐隊へ編入してもらう。貴様の力が必要なのだ。今の竜討伐隊は貴族どもの良い利益となっているが、実際は人を竜から助けている栄誉ある隊なんだ」
「栄誉や利益なんてどうでもいいし、人も竜もどうでもいい。……話はこれだけですか。なら帰ってください」
「必ず、貴様を私の隊に入れてみせる。今日はゆっくり休め」
女性の兵士はゆっくり立ち上がると一瞥して部屋から出て行った。
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気晴らしに散歩をしていたら裏庭から歌声が聞こえたので行ってみると、女王が白い小さな竜と戯れていた。
「女王様、いつそのようなものを拾われたのですか」
女王は驚きに飛び跳ねながら小さな竜を抱えて隠しているが、すでに遅い。
「みなさんはパーティーに行かれてるのでは!?」
「いいえ、パーティーは竜討伐と関係の無い人たちで盛り上がっています」
「そうなの……。ねぇ、内緒にしていただけないでしょうか? レヴィア様」
「なぜ名前を?」
「武術大会で前王者すら歯が立たない強さとその美貌をお持ちなら、忘れたくても忘れられません」
「それは光栄です。それで竜のことですが、内緒にすることはできません。すぐに報告をして処分をいたしましょう」
「なぜそのように言うのですか!? 竜だって命在る者、人は皆竜の言葉に耳を傾けるべきなのです!竜だって苦しいかもしれません、辛いのかもしれませんよ。いつかはきっと分かり合えるはずです」
「……分かりました、王女様の好きにしてください。その判断のせいでこの国が滅んでも、人類が消えても知りません。あなた様が選んだのですから」
「ずいぶんあっさりしてるのね……。でも、どういう意味……?」
「いいえ、なんでもありません。このことは誰にも口付けしません」
裏庭から立ち去り、空を見上げると満月が近かった。
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今日は護衛軍としても仕事を遂行している。
「あのさー、俺ってば護衛軍に入らなきゃ良かったー! とか思ってるんだよね」
王の自室の前で鎧を身につけ槍を持ちながら立つだけの簡単な仕事をこなしていると、反対側にいた男が飄々とした声で話し出した。
「この護衛軍っていう身分を手に入れてから周りの態度がガラリと変わっちゃってさ、前まで仲良かった幼馴染は遠巻きに見てくるだけで、俺を捨てた親は媚を売ってくるようになったんだぜ。自分の生んだ子供にだぜ? 笑っちまうだろ」
聞いてもいない事情をベラベラと喋ってくるこの男がいれば、暇では無くなるな。
隣の男が欠伸をした瞬間扉の奥から大きな物音が聞こえたので、すぐさま扉を開くと醜い巨体の四肢を動かし王が黒頭巾で顔を隠している男から逃げていた。
雄叫びを上げながら隣の男が槍を構えて向かうが相手はかなり戦い慣れしているのかすぐさま地に伏せ、袖から出した暗器で首に突き刺し切り裂いた。王がそれを見て怯えながら俺の下半身にしがみつき、醜い顔をくしゃくしゃにして懇願してくる。
男はすぐさま俺に標的を変えて暗器を構えて走ってきた。
「雷神の如く轟け」
詠唱後、男の首から上は消えていた。
「王様、勝手ながら落ちていたコインを使わして頂きました」
王は口を開けながら腰が抜けていたので、自分のポッケから同等の価値があるコインを机上の書類に乗せた。
「な、なにをしたというのだ」
「魔力を込めてコインを指で弾いただけです。すぐさま片付けの者をお呼びいたします」
二つの死体と醜く転がっている王、そして天井には直径一メートルほどの穴が開いている部屋を出て行った。
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三日後、王が緊急に全ての兵士を呼び出した。
「この度、我を暗殺しようとした国が判明した! すぐさま叩き潰さなければいけないのは明白、我が全武力を以って戦争をする。相手はインラ王国だ!」
「……ふざけるな!」
一人の兵士が王に対して叫んだ。
この国は経済が成功して豊かには見えるが、武力においては少ない方である。王が金をケチって領土を広くしないとか、他所の者を入れて内乱が起きるのを恐れていたという噂がある。
そしてインラ王国は情報の中で二番目の武力の大きさを誇る国だ。
「なんだ、文句があるのか」
玉座と身に纏う服によって人とはここまで変わるのかと思うほど、王は凄みがあったに違いない。
「いままで王に仕えてきたが、もう限界だ! どれだけ辛く苦しんでいるときも人のことを顧みず行う悪政、いつも遊んでばかりのお前は最低の豚野郎だ!」
王の部屋を見た限り遊んでいただけではなく、書類は随所に変更点や改善策を書いていたし、あの王からこの国は経済成長したといってもいい。王の表面しか見ていないのに決め付けてしまう、この兵士もただの糞野郎だ。
その兵士は捕まえられ、牢獄へと入った。
「戦争は一週間後、それまでに用意を万端にしておくのだ!」
兵士達は短く承諾の意を伝えた。




