07
蛇と鬼が喧嘩をすれば
すかさず
狐がやって来て
彼らの仲を取り持つ
‐アヤトリ‐
「橘ゆうこ、今すぐここから立ち去りなさい。あなたはまだ、こちらには来ていない」
それが、どう意味なのか私にはわからないでいた。
突然言われたからではなく本当に意味がわからない。
だけど、男には意味がわかっているらしく
逃げるなよ、とでも言いそうな目で私を見ている。
そもそも、私の手は男に握られているから逃げようにも逃げれるわけがない。
私が何も答えないせいか
嫌な静寂がその場を支配し始めた。
その時、りんっと聞きなれた鈴の音が聞こえたかと思うと
「娘っこが困っているだろ。離してあげなよ」
隣にいる男でもなく、木の後ろにいる人でもない声が聞こえてきた。
声のした方に目を向ければそこに狐面をつけた黒髪の青年が立っていた。
「……琥珀」
男が呟く。
それはいろんな感情を混ぜ混んだような声音だった。
白梅さんは暫く、黙っていたが
「何しに来たんですか?琥珀」
男とは違うイライラしたような声音で突然現れた黒髪の青年に言った。
そういえば、先程から木の後ろにいる人だけは姿を見ていない。
木の後ろにいる人も彼らと同い年くらいの青年なんだろうか。
そう思いながら答えを聞くために琥珀と呼ばれた彼を見た。
表情は狐面で隠されているせいでわからない。
だが、狐面の青年は諦めたような声音でこう答えた。
「お前の嫁御が逃げ出したらしい。それを言いに来たんだ」
と。その言葉にざわりと空気が変わった気がした。