第5話 ユーリの気遣い
しばらく歩いて行くと、今度はブルー・フロッグという巨大なカエルの魔物が現れた。
飛び跳ねながらこちらに近づいて来る。
「大地よ凍りつけ、アイス・バインド」
ユーリが氷の魔法を唱えた。
ジャンプして着地したフロッグの足元が凍りつく。
そして、フロッグが飛び跳ねる事ができなくなった。
魔法の氷は、魔法で生み出された氷なので、短い時間で溶ける。
しかし、ユーリは私が魔法剣を詠唱するまでのその短い時間を稼ぐためにフロッグを足止めしてくれたのだ。
「さあ、電撃の魔法剣、サンダーソードを唱えて」
「わかったわ!!稲妻よ、剣に宿れ!!」
ユーリの言葉に従い、魔法剣を発動させる。
両手にもった剣の刀身に、電流が流れる。
ピュッ。
フロッグが大口をあけ、そこからムチのように超・長い舌を伸ばした。
フロッグの舌がこちらに迫る。
「妖精よ、風のように速くなれ!!エアリエル・ウイング」
ユーリが、動きを速くする付与術を私にかけた。
妖精って、私のことよね。
そんな事を思っていると、私のからだが魔法の輝きに包まれる。
私は跳躍すると、長く伸ばした巨大カエルの舌の先端に着地した。
そして、その舌の上を走りぬける。
フロッグの大口の直前で宙を舞うと、空中で華麗に一回転して剣をフロッグの頭に突き刺した。
フロッグの身体に電流が流れ、フロッグが魔法の粒子となって消滅する。
「お見事です。ルーナ様。
たった2回の戦闘でここまで成長するとは、あなたは天才です」
「そう、魔法使いとしては落ちこぼれだったのに、それは不思議ね」
「冒険者にとって大切なのは、自分の適性にあった職業を選択する事です。
今までは、間違った職業を選択したために、本来ルーナ様が持っていた能力を生かしきれなかっただけの事です」
「なるほど。でも、魔法剣の適性に気がついたのは、ユーリ、あなただわ。
あなたがいなければ、私は弱いままだったかもしれない」
「それは、買い被りですよ」
「そうかしら?」
ユーリは顔色ひとつ変えず、黙ってうなずいた。
ユーリは冷静沈着で、謙虚で、細やかな心遣いができる人間なのだ。
それから、私たちは、50匹近い魔物を狩った。
私が前衛に立ち、後方でユーリが付与術や回復魔法、遠距離魔法で様々な支援をしてくれた。
そして、最後の巨大なヒヨコの魔物、イエローチキンをアイスソードで斬って倒した。
「もうこの森の魔物なら目をつぶってても倒せるわよ」
私は凍りついたヒヨコの前で振り返り、余裕の表情を浮かべてユーリに笑いかけた。
その時だった。
背後の木の葉の茂みのなかから、巨大なハチの魔物、ニードル・ビーストが飛び出してきた。
「危ない!!ルーナ様!!」
ユーリが私の右手首を掴むと、強く引っ張った。
「えっ?」
何が起きたかわからない私は、地面に転がされる。
「きゃっ!!」
ユーリは私の前方に飛び出すと、横薙ぎでビーストを一刀両断した。
ビーストが針ごと綺麗に真っ二つになっている。
「す、凄い」
地面に転がりながらも、それを見ていた私は驚いた。
「大丈夫ですか?ルーナ様」
剣をしまったユーリが私に手を差し出す。
私は彼の手を取ると、彼の手に引っ張られて立ち上がった。
「油断しすぎですよ?ルーナ様。今のは、とても危なかったですよ」
「ユーリ、凄い剣術の腕ね?あなた職業は付与術士でしょう?
なのに得意ではないはずの剣術でこの速度。
これなら将来は、王家専属の守護騎士団隊長か副隊長になれるわ」
「剣術は速度だけではありません。速度や威力は一時的になら付与術である程度底上げできますけど、持久力などに差がつきます。
剣の腕はシグナス様には到底及びませんよ」
「そうかしら、でも、付与術や黒魔法なら、シグナス様よりも上かもしれないわ」
「今日は、もうそろそろ遅いので、帰りましょう。今日はいい収穫でした」
「そうね、今日は本当にありがとう。ユーリ」
そう言って、私は剣を鞘にしまった。
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森の外に出て、馬車に乗ってバーミリオンの邸宅に戻ると、すでに時間は夕暮れ時になっていた。
門の前で、同行していた執事のセバスが馬車から降りる。
続いて私が馬車から降りると、ユーリも見送りのために降りてきた。
ユーリには、この後うちの馬車で自宅まで帰ってもらう。
「今度来た時は、もう少し森の深くまで潜りたいわね。
できたら、ダンジョンの地下2階くらいまでは行きたいわ」
「お辞めになられた方がいいですよ、
と言ってもあなたは行くのでしょう」
「また今度もお願いね。ユーリ」
「それは構いませんけど、条件があります」
「な〜に?」
「バーミリオン家直属の近衛兵などに頼んで、剣術の訓練を受けて下さい。
魔物と戦ってレベルをあげるのもいいですが、剣の基礎や技術を学ぶのも重要です」
「それもそうね、そうさせてもらうわ」
「不肖私めの箴言を聞き入れてくださり、感謝します」
ユーリが頭を下げた。
執事とはいえ、バーミリオン家の者がいるので、必要以上に気を使ってるのか?
そんな事を思いながら、私はぼんやり夕日を眺めた。
そうだわ、ユーリの言うとおり、魔法剣士に転職するからには、これからは魔法力を増幅する訓練だけでなく、毎日剣を振って剣術の腕も磨くのも重要になってくるわねー。
さっきのニードル・ビーストのように、突然魔物が飛び出して来た時にも咄嗟に対応できるような反射神経を身につけなければー。
それに、剣術を鍛える事のメリットはもう1つある。
それは対人戦に強くなれる事だ。
将来断罪された時、ハーディア王子を始めとする攻略対象たちやバーミリオン家の敵対勢力たちから命を狙われるかもしれない。
その時にこそ小回りの効く剣術は、非常に有効な自衛手段となる。
強力で大振りな魔法剣による攻撃は、魔物には有効だが、対人戦の場合、互いの駆け引きや敵の動きを読む事などが重要となる。
その為にも剣術はマスターしておかなければならない。
それでは、その剣術は誰から学べばいいのか?
近衛兵のうちの誰かか?
それとも、ハーディアたち攻略対象の誰かか?
何を悩んでいるの?答えは始めから決まっているじゃない?
「ユーリ、その剣術の訓練、あなたにお任せしてもいいかしら?」
「私ですか?」
「ええ」
「ですが、剣の腕だけなら、バーミリオン家の近衛兵の中にも傑出したものが何人かいるはずです。
それに学園にいるシグナスたち上級貴族に頼む事も、家庭教師らを雇うという方法もあります」
「あら、何をご謙遜なさってるの?ユーリ。
我がバーミリオン家の近衛兵でも、あなた程の剣術の腕を持つ者はそうはいないわ。
エストレリア王立学院内でも、同様よ。
しかもあなたは、剣の腕だけでなく魔法の技術も一流よ。
それにー」
将来私の命を狙ってくる相手と、剣や魔法の訓練をする訳にはいかないでしょう?
心の中で私はそう呟いた。
「それに、将来の王太子や騎士団長に、剣術の訓練をしてくれなどと恐れ多い事は言えないでしょう?」
私は本心を隠し、適当な理由を見繕った。
「わかりました。そういう事ならば、微力ながら、お力になります」
そう言って、ユーリは頭を下げる。
「今日は本当にありがとう、ユーリ。
今夜はゆっくり休んでね」
そう言って、私はバーミリオン家の邸宅の中へと入っていった。




