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Akeenohi -アケノヒ-  作者: 大化
第二部 『天下征伐』
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二話 決断

ーーー武田城 大広間


武田城の大広間は、いつもより静かだった。


畳の上に並ぶ座布団。

その中央に置かれた大きな地図。


その地図には、日の本の国々が細かく描かれている。


毛利。

北条。

島津。

大友。

上杉。


そして――豊臣と武田。


部屋の一方には、武田側の人間が座っていた。


武田当主、シンゲン。

その少し後ろに、控えるように立つ小柄な女性。


ユキ=ムラマサ。


さらに柱の影には、気配を消した忍び。


ヒロカ=ウィステリア。


対する反対側には、豊臣勢。


最も小柄な人物が中央に座っていた。


豊臣当主――ヒデヨシ。


その隣には銀髪の参謀。


シーメ・ウォン。


そして、少し離れた場所。


四脚機械に座るフードの男。


サー・リベロ。


その背後には腕を組んだ青年。


サコン。


空気は、重かった。


徳川との戦いが終わってから、まだ日も浅い。


それなのに、もう次の戦争の話をしている。


誰もがそれを理解していた。



沈黙を破ったのは、ヒデヨシだった。


「では、始めよう」


小柄な体だが、声には威厳があった。


「ウィステリアの報告によれば」


地図に目を落とす。


「各地で武装蜂起の兆しがある」


指で地図をなぞる。


「宗教勢力。旧徳川残党。地方の独立勢力」


顔を上げる。


「このままでは、再び戦国の世に戻る」


誰も反論しない。


ヒデヨシは静かに言った。


「改めて、武田の意見を聞こう」


その言葉に、ユキ=ムラマサがゆっくり前へ出た。


「失礼しますぅ」


相変わらず、どこかおどおどした声。


だが、その言葉は真っ直ぐだった。


「このまま放っておくと」


地図を見る。


「仰る通り、各地の勢力が好き勝手に戦争を始めますぅ」


彼女は指でいくつかの国を示す。


「毛利」


「島津」


「宗教勢力」


「徳川残党」


そして言った。


「つまりぃ」


顔を上げる。


「もう対話の段階はとっくに過ぎてるんですよぉ」


静かな言葉だった。

だが、確かな重みがあった。


「彼らは」


目を細める。


「感情と記憶を取り戻したんですよぉ?恨みも怒りも、もちろん全部」


部屋の空気がさらに重くなる。


「……武力で抑えるべきだと?」


そう言ったのは、シーメ・ウォンだった。


腕を組み、ユキをじっと見ている。


「それじゃあ徳川と同じなんじゃない?」


ユキは首を振った。


「違いますぅ」


そして、静かに言った。


「徳川は感情を奪い、悪意なき者達を蹂躙しました」


「でも私たちは」


一歩前へ出る。


「暴れる者だけを止めます。悪意ある者達を、裁くんですぅ」


その声には迷いがなかった。


「いわば、必要最低限の正義の制裁ですぅ」


シンゲンがわずかに目を伏せる。

シーメ・ウォンはしばらく黙っていた。

が、やがてふっと笑う。


「なるほど」


しかしその笑みは、軽かった。


「でもねぇ」


ユキを見ながら言う。


「その“正義”とやらは誰が決めるのかなぁ?」


静かな問いだった。


ユキは答える。


「もちろん、世界を統べる者…我々ですぅ」


シーメ・ウォンは目を細める。


「単純だねぇ」


「単純ですよぉ」


ユキはにっこり笑う。


「だからこそ、効果的なんです」


沈黙が落ちる。


その沈黙を破ったのは、低い声だった。


「私は賛成だ」


サー・リベロだった。


全員の視線が集まる。


彼は静かに続けた。


「徳川との戦いで…多くの人間が死んだ」


その声は感情を押し殺していた。


「我々は二度と、同じ過ちを繰り返すわけにはいかないんだ」


ヒデヨシが静かに聞いている。


「混乱を放置すれば戦国の再来だ」


リベロは地図を指した。

その指が止まる。


「それを止めるには、先に潰すしかない」


顔を上げる。

すると、サコンが口を開いた。


「俺も同意見だな」


腕を組む。


「暴れる奴は、ぶん殴ってでも止める。…それの何が間違ってる?単純な話じゃねぇか」


ヒデヨシは、長く黙っていた。


やがて目を閉じる。


徳川との戦い。


カズナリの死。


多くの犠牲。


それが頭をよぎる。


そして――


目を開いた。


「わかった」


その一言で、会議の空気が固まる。


「豊臣は」


ゆっくり言う。


「武田と共に、征伐を行う」


誰も動かなかった。

ヒデヨシはシンゲンを見る。


「武田当主よ、貴殿はどう思う」


シンゲンは少しだけ考えた。


そして言った。


「……それが恒久の世に必要な戦いなら」


拳を握る。


「俺は、鬼にでもなろう」


その言葉に、ユキ=ムラマサは小さく笑った。


ほんの一瞬だけ。


誰にも気づかれないほどの、微かな笑みを浮かべて。


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