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三話目【今さらこんな筈じゃなかったと後悔しても遅いですよ勇者さま】

偶々、居合わせたBランクの冒険者に話し掛けられた途端にルースさんの雰囲気が冷えきり。Bランクの冒険者さんはルースさんに怯え、愛想笑いをして逃げていった。


ルースさんはにこにこと微笑んで宿に帰ろうと促す。親代わりも致し方ないと思ってたけど。


ちょーっとまずいよなと然り気無く。けれども確りと私の手を握り、歩き出すルースさんに私は悩んでいた。


なんというか。私以外の人間に排他的で。これって依存かなと思わなくもない訳で。


宿に帰って文字の読み書きの勉強を兼ねてベッドに座り本を読むルースさんの脚の間に何故か座らされてる私はたまに視線が躓く度にこれはこういう意味があってこう読むよと教える。


え、距離感バグってないかって?私もそう思ってるよ。最初は隣に座ってたんだけど。こうした方が体勢が楽だろうって純度100%の善意でこの体勢になった。


ルースさんってば脚ながーい。どうしてこうなった。


集中力が途切れたのかルースさんは本を閉じ。私を抱えたまま、ひょいと身体を横に倒す。


待った、待った。さては寝る気だね。こらこら離しなさいとジタジタするとルースさんは私を抱え込み直し、マシロと一緒に寝ると安心すると微睡みながら言うのだ。


冷たくて、四角くて。灰色の部屋にひとりではないとマシロの温もりが教えてくれるからと私の頭に頬を寄せた。


マシロの温もりに、熱に救われてるとルースさんは私を抱き締める腕に力を籠めた。


俺は此処に居ると。あの寒々しい部屋から出られたと目が覚めたときマシロが居れば分かるから。側に居てくれないかとねだられてしまったらルースさんの腕から抜け出そうとは思えなかった。


(ルースさんからたまに出る過去が闇深いというか。人怖案件が過ぎる。誰も信頼出来ないなかで。私っていう安心して甘えられる相手が出来てルースさんは嬉しいんだろうな、きっと。でも、)


雛は何時かは巣だち、その翼で空に羽ばたくもの。狭い世界しか知らなかったルースさんだからこそ知識を得て物事を自由に考えられるようになったなら、自分の意志で広い世界に出てほしいというのがルースさんの先生である私の願いだ。


私と居たままじゃルースさんは狭い世界しか知らないまま、私だけを絶対的な指針にしてしまう。誰かの指針になれるほど私は善人でも人格者でもない。


(···私から離れるのもルースさんの為だって分かってるけど。孤独に怯えるこのいとけなく無垢なひとを放り出すのはまだまだ時期尚早だよね。)


「マシロはこの果物が好きだったな。」


「魔石だ。装飾品にすると良いと聞いた。頬に付いてる血?返り血だ。」


「肌を潤わせ艶を与えると話題になっている薬草だ。いや、ギルドの依頼ではない。マシロに渡したいから採ってきた。」


「マシロ、肉が美味かった魔物を狩ってきた。」


「マシロ、マシロ。」


「·········君に触れても構わないだろうか?」


なんか距離感バグってないかな(二回目)!!


おかしいぞ。ルースさんの態度がなんだか妙に甘い。あまあまだ。何故かせっせっと貢がれてるし、自意識過剰かもだけどルースさんの視線が熱っぽい!気がする!


宿にてルースさんが単独でギルドの依頼を受けたので。一人、自室で実家から届いた手紙を見ながらぽそぽそ呟くとタマがふよふよ浮かびながら笑う。


《番にしたい雌に獲物を持ってくるのは良い雄の甲斐性なんだにゃー。》


「タマさん!?」


《マスターはにゃにを戸惑うんだにゃ?アレはもう雛じゃにゃーよ。番を持って。所帯を持つ年頃の大人にゃ。》


まァ、獲物を持ってくるのは種族の本能みたいなもんだけどにゃー。


《なんで精霊王の幼体が人間界に居たのかタマは知らないけどきちんと孵って本当によかったよかったにゃーん。》


「タマさん?なんか気になる単語があった気がするけど。タマさん??」


《にゃふふ。雛は成体になったんだにゃーん。番にマスターを選ぶとは慧眼にゃ。後は戴冠するだけなんだにゃん。》


精霊たちは大忙し。新たな我らが精霊王の戴冠を祝えや祝え。


《魔王なぞなにするものぞ、森羅万象司る万物の王に敵うモノなどいないのにゃーーん!!》


「戴冠?精霊王!?」


《マスターは気付いてなかったのにゃ?ルース様は純粋な人間じゃにゃーよ。父親は人間にゃろうけど。母親は精霊なんだにゃ。それもただの精霊じゃにゃいにゃ。精霊の女王様。すごくすごーく偉い御方なんだにゃ!》


「タマさん!!それが事実だとしたら私が聞いて良い話かなァーっ!?」


え、どうしよう。不敬者だーって罰せられないかな!?ルースさん不在時に明かされてしまった衝撃の事実。


ルースさんが精霊の女王の息子かー。私が公爵令嬢だって事実が霞むなと母から届いた手紙を眺める。私の母は王妹だ。国王は叔父に当たる。


そんな叔父には世継ぎが居なかった。子が出来ない体質だった叔父は甥である私の弟を世継ぎに指名したので家督が弟から私にスライドしたので、実家に戻って来て欲しいと手紙にはあった。


「それは別に構わないんだけど家を継ぐってなるといずれは結婚しなきゃだなー。あ、もう釣書とか家に届いてるのか。となると家に戻り次第お見合いして。場合によっては直ぐに結婚かなー。」


と、呟いた直後。背後から響いた破壊音に振り返ればルースさんが部屋の扉を破壊していた。ツカツカと歩み寄り。ガッと私の肩を掴んでルースさんは君は誰に嫁ぐんだと焦りを滲ませた顔で私に問う。


まだ相手は決まってないと返せば。ならば君の夫になるのは俺ではダメかとルースさんは言い出した。


私はありがたい申し出だけど私じゃルースさんに釣り合わない。

ルースさんは精霊王だからと苦笑すると同時にタマがにゃーーんと鳴くと部屋いっぱいに人ではない美しい生き物。


精霊たちが姿を現して手にした楽器を鳴らして荘厳で賑やかな音楽を紡ぎ。我らが王よ、お迎えにあがりましたとルースさんに微笑んで。ふわりとルースさんの姿が掻き消えた。


何時かは巣立つ雛であったけれども、巣立ちの時はあっさり訪れた。後はもう巣から飛び立った雛が無事に生き抜いてくれることを祈るばかりであると。持っていた万年筆を置き。ぐっと背伸びをしながらルースさんに想いを馳せる。


別れのあと直ぐに実家に帰った私は公爵令嬢としてやるべきことを淡々とこなしている。


社交の為に王宮や貴族の邸宅で催されるパーティや茶会に出たり領地の視察をしたり。合間、合間に父から引き継いだ当主としての膨大な執務をこなしたり。


正直、冒険者生活が恋しいけど叔父の養子になって正式に国王になった弟が頑張ってるので姉である私が弱音を吐く訳にはいかないと執務を頑張っていたある日。勇者一行が我が国を訪れた。


なんでも勇者が神の啓示を授かったらしい。魔王討伐の為に聖女が必要なこと。その聖女はこの国に居ると。


そんな訳で聖女の肩書きを持つ総勢十五名の乙女が王宮に集められた。うん、十五名。


この国において聖女というのは神託を受けて教会に属している女性の治癒術師のことを指す。私も五歳の時に教会で受けた神託で聖女になる筈だったし治癒術だって使えるけど。


どーしてもビーストテイマーになりたくて聖女にはならず魔術学校に入った。私の国では神託はあくまでもその人間に向いてる。適正がある職業がなにか教えるものであり、必ずしも神託通りの職業に就く必要はなかった。


私の母も教会の神託では聖女だったけど魔術師になったので私がビーストテイマーになることは別に反対されなかった。まあ、冒険者になると言った時は流石に止められたけども。


既にその時には私は隣国で冒険者ギルドに入っていたので両親は呆れつつ私の好きなようにさせてくれた。


それはともあれ総勢十五名の聖女が王宮に集められ、公開選別が行われることになった。


貴族も集められ、私も公爵令嬢として謁見の間で選別を見守ってたら勇者はこの中に探してる聖女が居ないと騒ぎだして何故か公爵令嬢である私を聖女に指名した。


ざわつく面々。だって私はビーストテイマー。聖女じゃない。確かに治癒術は使えるけど。


「嗚呼、麗しき聖女ブラングウェイン。僕と一緒に魔王を倒してこの世界を救おうじゃないか!」


「勇者殿。我が姉はビーストテイマー。なにかのお間違いではないか。」


弟が訝し気に問うと勇者は何故か狼狽え。ブランがビーストテイマー?そんな筈がない。原作では聖女だったんだから聖女だろ、ブランを攻略したら全キャラコンプ。


ヒロイン全員を攻略して魔王を倒せば推しの隠しヒロインである精霊の女王ティターニアたんを攻略出来るようになるんだと呟く。


おっと。勇者から不穏な単語が聞こえてきたな。


「と、とにかくブランには旅に同行して貰う。聖剣が折れた以上魔王を倒す為には聖女の聖なる力が必要なんだ。協力して貰わなきゃ困る──、」


「その必要はない。」


高らかな多種多様な楽器の音色と共に荘厳で賑やかな音楽が謁見の間に溢れ返る。


どよめく私たちに対して落ち着いていた弟はきっと音楽と共に現れた人ではない美しい生き物たちが来ることは予め承知していたのだろう。ぽふんと私の肩に現れたタマが胸を張り《精霊王のおなりだにゃーん!》と楽しげに鳴いた。


「精霊王───!?」


数多数多の精霊を従えながら謁見の間に現れたのはルースさんだった。弟が臣下の礼を取る。国王が、国を統べる王が臣下の礼を取る相手。


この場に居合わせた貴族たちも直ぐに追従すれば顔を上げてくれとルースさんは答えた。知っているのに知らない声。あまりにも重く、その壮烈な威圧感に誰もが目の前に居るのが人間を超越した存在だと理解した。


ただそこに居るだけで場を掌握する。本能的に従わずにはいられない。貴族の一人がこの御方はと私の弟に問い、弟は精霊王ルース様だと返した。


「───マシロ。いやブラングウェインと呼ぶべきか。君を妻にする為に俺は王になったと言ったら、君はあきれるか?」


カツンと靴音を響かせながら。真っ直ぐに私の許に歩いてくるルースさんに。なんだかとんでもないことを言われなかったかと狼狽える。


お前が、ルースが精霊王だって?《勇者》にそんな設定はなかった!!第一、精霊の王は女王。女の筈だとヒステリックに叫んだ勇者にルースさんはそこで初めて勇者が居ると気付き。


ああ、聖剣は折れたのかと精霊たちが勇者が腰に佩ぶいた聖剣を奪い恭しくルースさんに捧げ持つ。

鞘から抜かれた聖剣は錆びて。半ばで真っ二つになっていた。


「馬鹿な──。聖剣が折れるだなんてあり得ないことだ!!聖剣は精霊王が人間に貸し与えた宝物だぞ!!」


どよめく人々にルースさんは意に介さず手を翳すと聖剣は宙に浮かび、錆が落ち。見る間に本来の輝きを取り戻し刀身は淡く光を纏い。真っ二つに分かれていた聖剣は元の姿になる。


ルースさんは柄を握って少し首を傾げ此方の方が手に馴染むなと呟く。聖剣が炎のように波打つ剣に変わる。フランベルジュへと。


ルースさんはひとつ頷き精霊たちが新たにその場で誂えた帯剣ベルトを付け聖剣を腰に佩ぶく。どうしてと愕然と呟く勇者にタマが私の肩に乗りながら《まだわからないのにゃ?》と呆れたように勇者に語る。


《聖剣は人間に助けてくれと懇願された精霊王が貸し与えたモノ。つまり聖剣は精霊王の所有物なんだにゃん。》


ルース様が聖剣に選ばれたのは当然のことだったにゃ。ルース様は精霊王。正統なる聖剣の使い手だにゃ。聖剣は本来の所有者の許に戻ったのにゃ。


《錆びて折れたのはおみゃーが聖剣の所有者でないにょに無理に使おうとして聖剣が怒ったからにゃ。でにゃきゃ聖剣が折れるワケがにゃーよ?みゃはは!》


「こんなのなにかの間違いですわ···!!」


勇者に侍る美女たちの一人、隣国の王女がタマに食って掛かる。ハヤテ様は勇者です!!ならば聖剣を今一度ハヤテ様に貸し与えて頂きたく。


聖剣を貸し与えてくだされたならば私と勇者ハヤテが魔王を必ず打ち倒しますと王女が言い募り、美女たちが異口同音に同じことを告げるなか。


タマは笑う。《ルース様の言葉を聞いてなかったのかにゃ。その必要はないんだにゃー。》と。


《魔王はとっくにルース様が倒したんだにゃ。》


「は──?」


《おみゃーさんらが何時まで経っても魔王を倒しにいかにゃいから仕方なくルース様が倒してくださったんだにゃー。》


勇者じゃなくても魔王は倒せるのか?当然にゃ!ルース様は精霊王、最強なんだにゃ!!


《魔王が百人束になってもルース様には敵わないんだにゃん!》


にゃにゃにゃと猫パンチを繰り出すタマに勇者が崩れ落ちる。

だって僕は勇者だぞ。異世界に。ゲームの世界に転移して主人公の立場にも成り代われたのに。


なんで、なんで!!僕の思い通りにならない!!この世界は僕の為の世界の筈なのに、なんでッ。認めない、認めないぞ。こんなの間違ってる。


こんな筈じゃない。こんな筈じゃなかったんだと拳を握りルースさんに殴りかかった勇者は。けれどもルースさんに触れることさえ出来なかった。


殴りかかった体勢のまま硬直し。汗を流す勇者にルースさんは右手を持ち上げパチンと指を鳴らした。


「────あるべき場所に戻れ。此処はお前が居るべき世界にあらず。」


その瞬間、勇者の足下に浮かんだ魔法陣は召喚陣に似ていた。刻まれた文言からそれが召喚されたモノを元の世界に戻す為のものだと当たりを付ける。魔法陣から放たれた眩い光が収まると勇者の姿はどこにもなかった。


「王女よ。ただちに国に戻り、王に伝えろ。大それた野望は持つべきではないと。魔王を討ち滅ぼしたその先で。次は他国を併合し。他国民は奴隷にか。お前は魔王となにも変わらぬ。であれば私が次にその首を跳ねるのはお前やもなと──。」


そして世界は平和になったと屋敷の中庭。その東屋で。日を改めて会いに来たルースさんは先代の精霊王で母であったティターニアから王位を譲られ、戴冠し。今代の精霊王となったこと。


魔王討伐に当たってあれこれ調べたら。隣国の王の野望が明らかになり。勇者が都合の良い傀儡にされそうだったので元の世界に帰すと決めたことを明かしてくれた。


そんな裏があったのかと私が紅茶を口に含んだところでルースさんは婚儀は何時にしようかと告げたから口に含んだ紅茶で噎せた。あの、その。婚儀とな??


「君を妻にしたい。反対する者は居ない。既に俺と君の関係者は説き伏せてある。後は君が頷いてくれるだけなんだが。」


「ルースさんの根回しが周到すぎる。」


「───君を逃がしたくないから必死なんだ。」


真っ直ぐな眼差しに絡め取られる。その危ういまでに純粋な瞳に胸が高鳴る。そうか。私はとっくにルースさんを好きだったらしい。聖剣使いの妻という肩書きも重たいけど。精霊王の妻の肩書きは更に重い。


だけど私は笑ってルースさんに答えた。ルースさんを幸せにするのは私でありたい。溢れるほどの幸せをあげたいと。


あ、でもちゃんとルースさんを幸せに出来るかなと不安を口にするとルースさんはいとけなく無邪気に笑って。君に出会えたこと。それがなによりの俺の幸福だと微笑んだ。

 

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