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一話目【パーティ追放!?そのひとを捨てるなんて勿体ない!!】

そのひとは月光を紡いだような艶やかな銀糸の髪に紫苑色の瞳。浅く焼けた檜皮色の肌。精悍というよりも柔和な。どこか女性的な美しい相貌だけれども服の下からでも分かるしなやかな肉体が男性なのだと物語る。絶世の美人だ。すごくすごーく、眼福だ。


この顔を毎日見れる権利を金貨千枚で得られると言ったら世の女性陣はこぞって金貨を差し出すだろう。

私もか?と問われたら金貨千枚もあったら田舎に引っ込んで自由気儘なスローライフ送ってると答えるけど。


絶世の美人さんはジッと私を眺め、常は表情乏しい顔に柔らかな笑みを湛え。マシロと私の名前を優しく紡ぎ私の頬を両手で柔く挟んで口付けようとしたので魔導書でガードした。


視線で不服と訴える彼。魔王を唯一殺せる聖剣に選ばれ、本当なら勇者になる筈だったのに。


異世界から召喚された高校生に勇者の称号を奪われた上に魔王を倒すその旅の最中、勇者パーティを追放された不運と不遇の化身みたいな聖剣使いのルースさんに。


そーいうことは好きな方としてくださいと訴えると不思議そうに、君が好きだから口付けたいと紫苑色の瞳に熱を燻らせて魔導書ごと腕に抱えられて戸惑うより早く。


俺の妻になってくれないかと蕩けるような笑みで言われた私はただの低級ビーストテイマーに聖剣使いの妻の称号は重すぎるとぴえぴえと叫んだ。




私、マシロはどこにでも居るごくごく普通の低級ビーストテイマーだけれども。前世と呼ぶべき記憶を持ってる。前世の私は日本という国でブラック企業なる、労働環境が凄まじく劣悪な場所で働いてたらしい。


けれどもお賃金だけは良かったのと、自分が抜けたら仕事仲間に負担が掛かると辞めるに辞めれず。日々、デスマーチを繰り広げた結果。過労死という当然の結末を迎えた。


死に際に来世は大好きな動物に囲まれ、スローライフを送りたいなぁと思いながら前世の私は死んで。気付けば異世界に転生してた。職場の同僚が異世界転生モノのアニメに嵌まってたなーって思いながら騎士団長の父と王宮魔術師の母。


そして過保護な弟に囲まれてすくすく育ち。五歳の時に誰もが受ける教会での神託という職業適正診断の結果をガン無視し適正的にあまり向いてなかったけれど夢の職業、ビーストテイマーになるべく魔法生物の専門家が居る隣国の魔術学校に入学。


三年間、魔術の基礎を学んで卒業後そのまま隣国でフリーの冒険者になった。ギルドから依頼を受けて薬草だとか。低級の魔物から素材採取しつつ魔法生物をティムしながら気儘に暮らしてた。


元の適正が低いからティム出来る魔法生物は限られていて。一角ウサギやケット・シー。サラマンダーという低レベル帯の魔法生物しか使役出来ない私をわざわざパーティに加える冒険者は少ない。


たまに駆け出しの冒険者のパーティにギルドの要請でヘルプに入ることはあれど。基本、ソロで依頼をこなしている。そんな私はただいまギルド兼酒場にてとんでもねぇ修羅場に遭遇中です。


「ルース。お前を僕たちのパーティから追放することにしたよ。ああ、その聖剣は置いていって貰おうか。この聖剣は元は勇者の持ち物。つまりこの僕のモノだからね。」


「···それは王命なのか、ハヤテ。」


「お父様にはわたくしから御伝え済みです。聖剣は勇者にと。貴方が聖剣使いであったこと自体が間違いだったのです。だから、そう。これはあるべき形に戻っただけ。」


酒場の隅で麦酒をちびちび飲みながら。最近ティム出来た翼を持った可愛い猫。ケット・シーのタマが《おっ。修羅場かにゃ。》と私の肩に前肢を掛けて眺める一団には覚えがあった。


新聞で見たのだ。彼らは百年ごとに現れる魔王を倒すべく異世界から召喚された勇者とその旅の仲間たちだ。


私のような低級ビーストテイマーは絶対に関わることがない勇者パーティは、何故かいま冒険者ギルド兼酒場で旅の仲間の一人を追放しようとしていた。酒場のマスターでもあるギルド長と目配せして私は身体の向きを変えて勇者パーティを眺める。


黒髪黒目の勇者の名前はハヤテ。その見た目からして前世の私と同じ日本人か。勇者の傍らには美女が数人。その内一人はこの隣国の王女様。確か十番目だったか。


新聞では他にも男の戦士や魔法使いが居た筈だけど、何故かこの場には追放を言い渡された男性しか居ない。腰に佩ぶいた見事な拵えの長剣。その風貌からして聖剣使いだと察した。


聖剣。それは本来は勇者のみが扱える特別な剣。二十年前、魔王復活の予兆と共に教会に姿を顕したという聖剣は歴代の勇者に精霊王が貸し与えた宝物だ。


その聖剣は辺境に暮らしていた幼い少年を担い手に選んだという。その少年の名はルースと言って次代の勇者だと見なされて、王の命で騎士団に入れられ厳しい訓練を課せられた。


けれども彼は勇者にはならなかったのだ。異世界から召喚された少年が勇者の称号を持っていたが故に。


そして、まさにいま勇者に追放されようとしている彼が聖剣使いのルースなのだとして。何故、彼は勇者パーティを追放されようとしているのだろう。


勇者は語る。長々と勇者とは。聖剣とはと講釈を垂れているけれどもようするに。


《人間はくだらないことに拘るんだにゃー。あの若造に潰れるほどの面子があるようには思えないにゃ。みゃはー。わかったにゃ!あの若造は雌だけを周りに侍らせたいんだにゃ。ようは見目の良い雄は邪魔なのにゃ!》


タマの言葉にぷふっと噴き出す。率直過ぎるけれども勇者が言いたいことはそれなのだ。勇者にこそ聖剣は相応しい。だから聖剣を寄越せ。ついでにハーレムを作るのに邪魔だからパーティを追放するだなんてあまりにも幼稚だ。


え、こんな奴に世界の命運を任せなきゃいけないの?と目が据わるのが分かる。やだなーと未だにうだうだと聖剣使いに難癖を付ける勇者を眺める。勇者に侍る女性陣はクスクスと厭な笑いを浮かべてて。前世の職場でも見た光景だなと溜め息を飲み込む。


聖剣使いは表情乏しい顔に諦めを滲ませ、腰に佩ぶいていた長剣をテーブルに置く。酒場に居合わせた客がざわつく。心情的に私たちはとっくに聖剣使いの味方だったから。


勇者はニマニマと笑って聖剣を携え。こんな安酒場には用はないと酒場を出ていく。聖剣使いは椅子に腰深く座り込みテーブルに肘をつき、頭をだらりと垂れる。見るからに意気消沈していた。


ギルド長と酒場の皆と目を見交わせて私は二人分の麦酒を持って聖剣使いのテーブルに着く。


「お酒、奢ったげる。」


「え?」


「嫌なことがあったことは。この酒場のみんなが知ってるよ。だからこれは酒場の全員の総意。おにーさんはなんにもわるくない。ただ少しツイてなかっただけだって。」


「ツイていなかっただけか···。」


「そう。たまたま悪いことばかりが続いちゃったんだよ。でもね、悪いことばかりじゃない。良いことも必ずある筈だ。」


案外、この世は帳尻があうようになってるんだよおにーさん。例えば親切な誰かにお酒を奢って貰えたりとか。


「この可愛くてキュートな猫ちゃんの小さな前肢を触らせて貰えたりしちゃったりさ!」


《ふっ。オレさまに惚れると火傷するにゃー。》


聖剣使いのおにーさんは目をパチリと瞬かせて私とタマ。酒場の人たちに視線を向け。勇者たちに見せた無感情の凍りついたような仮面染みた無表情を崩し、眉を下げてはたはたと涙を流しながら小さく笑った。


「そ、うだな。俺の人生にこんなに良いことがあるとは。微塵も思っていなかった。ずっと痛くて苦しいことばかりが死ぬまで続いていくと思っていた。だが、だが──」


そうではなかったのだなと。幼い子供のように笑う聖剣使いのおにーさんに。ルースさんに行く宛はある?と問うとルースさんは首を横にふるふると振る。


帰る場所はと言葉を重ねようとして愚問かと飲み込み、代わりに私とパーティを組みませんかと提案した。


目を微かに見開いたルースさんに私は冒険者のマシロ。あ、マシロって言うのは通り名で本名は違うけど。此処等ではマシロって呼ばれてる。ビーストテイマーをしています。ま、低級だし。ごく普通のソロ冒険者だけども。


此処等でパーティを組みたいなーって思ってたんだ。だから聖剣使いのおにーさんさえよければ一緒に冒険者をしようと誘うとルースさんはその綺麗な紫苑色の瞳に光を宿し、俺で良いのかと聞くものだから。私は貴方が良いと笑い返した。


「えへへ。ルースさんとパーティ組めて本当によかった。素材採取にしても一人じゃ限度があるからね。」


うん。スノービーの花蜜と蜜蝋。それぞれ二十樽。ギルドに持ち込めば一ヶ月分の稼ぎになるよ。銀貨にすると五百枚。


「あ、スノービーの女王蜂から魔石も採れたからこれは別枠で商会ギルドに持ち込もう。金貨五十枚で買い取って貰えるから。はい魔石。これはルースさんの取り分。」


「···魔石はとても貴重な物だとギルド長に聞いた。俺が貰ってしまっても良いのだろうか?」


「良いもなにも。スノービーを倒したのはルースさんなんだから私が貰ったらおかしいですよ。」


冒険者ギルドに正式に登録して、冒険者になった元聖剣使いのルースさんと共に採取依頼に出るようになって早くも三ヶ月目。先輩冒険者として先輩風を吹かせられたのは一ヶ月だけだった。


というのもルースさんはすごく物覚えが早い。教えたことは直ぐに習熟してしまう。今では立派に野営だって出来ちゃうし、冒険者ランクもどんどこ上げてる。あ、冒険者にはランクがあって。


このランク毎に出来る依頼と出来ない依頼がこと細かく決められてる。私の冒険者ランクはD。ルースさんの今のランクはBだけどもギルド長曰く実質的にはSランク相当なんだそうな。


ギルド長がS級になる為の昇級試験を受けないかって勧めていたけど。ルースさんは首を縦には振らずに私と地味な採取依頼や低級モンスターの討伐クエを引き受けている。


Sランクレベルの冒険者にこんな地味な依頼をさせてることに引け目が若干あるけども、採取クエで表情は乏しいけど雰囲気で楽しいと物語るルースさんに私は黙って野営でご飯を食べさせる。


うんうん。美味しいご飯をいっぱい食べさせてあげるからね。


なぜご飯を?と言われたらルースさんがろくなご飯を食べてなかったという裏事情がある。五才の時に聖剣に選ばれて次代の勇者として王都に連れてかれ騎士団に問答無用で入れられたルースさんは聖職者の括りだったらしく。


勇者よ、清貧たれと。ただ焼いただけの硬い肉、薄くてなんかぶよぶよしたものが浮いた豆のスープ、ガチガチの味がしない黒パンのみで育てられたらしい。


だから初めて会った日に奢った麦酒と骨付き肉に発光せんばかりの笑みを見せたルースさん。


言葉にせずとも美味しいと語るルースさんから食事事情を聞いた酒場の皆は思ったそうである。俺たちから取り立てた勇者税を王族の奴等は何に使いやがったんだと。


この国、勇者税なるものがあるのだ。当時の王様の小難しい言葉を意訳すると。


『王を倒す勇者を国を挙げて支援しますよ。だから税金を増やすけど。世界の命運が掛かってるから我慢出来るよね?貰った税金は勇者の育成に使うよ。国の皆で勇者を育てましょう!』だそうな。この勇者って言うのがルースさんだった訳だけど。


なんかねぇ。ルースさんの成育環境からして税金が正しく使われてる気配がないみたい。


酒場の皆は焼いて特製のハーブ塩を揉みこみ焼き加減にも拘ったとは言え、銅貨二枚で買えてしまえる骨付き肉を美味しい美味しいと大事にちまちまと食べるルースさんを見て険しい顔をした。


ギルド長は文字の読み書きは出来るかとルースさんに問うと文字の読み書きは村に居た頃に教会の神父さんに教えて貰ったきりだと語る。酒場の皆は完全に目が据わっていた。


ギルド長はややあって頭を乱雑に掻き、算術や金の使い方。下町での暮らし方を教えてやってくれないかと私に言った。余所者の私で良いのかと聞けばこの国の人間じゃないからこそ忌憚なく物事を教えられるだろうと嘆息した。


まあ、そうだね。あることないこと吹き込んじゃうかもよと悪どく笑えば無垢なままの子供じゃ搾取されるだけだ。


構わねぇ、表も裏も教えこめとギルド長もケケケと悪どく笑い返す。そーいうことなら任せて頂こう。ルースさんを立派な冒険者にしてしんぜようと請け負ったのは良いけども。


もう冒険者としては立派どころか既にギルドの期待の星であるとルースさんの成長に感嘆しながら野営にて集めた枯れ木にサラマンダーを放つと。


ご機嫌にぐるりと回って枯れ木を燃やすので。石を組んだ簡易竈に鍋を乗せる。


バターを引いて予め切って魔術によって一定の温度に保たれた保冷袋に突っ込んでいたジャガイモに似た岩みたいな形の岩芋。紫色の煮ると甘くなることからシュガーキャロットと言われている人参。


そしてスノービーを狩るついでにゲットした鹿肉を塩胡椒で炒めて川で汲んだ水を注ぎ煮立たせて近頃出回り出した固形シチューの素を投下する。


このシチューの素はなにを隠そう母の発明品。私の発案で母が開発に乗り出し市場に出回る大ヒット商品になったのだ。母的に息抜き感覚での発明だったらしいよ。


いやー、我が母ながら天才ってすごいね。ちなみにカレーの固形ルーも開発中だよ。異世界で日本式カレーが食卓を席巻する日も近いぞ!それはともあれシチューである。寒い時期に食べたくなる料理筆頭!


野営用テントの設営をして。おまけに野性動物対策の罠を張って戻ってきたルースさんがジッと鍋から目を離さないまま。


そわっそわ。わくわくしている。相変わらず無表情だけども目が期待で輝いている!

待っててね。もうちょっと煮込まないと生煮えになっちゃうと伝えるとへちょっと悄気たのが雰囲気で分かる。ううん。早く食べさせてあげたいけど食中毒は怖い。


ということで取り出したるは焚き火の灰の中に突っ込んでた新聞紙ぐるぐる巻きの塊──!


ぺりっぺりと新聞紙を剥いでいくと現れるスイートなヤツ。そうだね。さつまいもだよ。なんで異世界にさつまいもがあるのか?


この異世界では魔王以外の要因。天災とかで存亡の危機が何度かあったんだけど。二百年前、当時は弱小国家だった我が国は食料危機に陥った。


どこの国も食料難だったけど私の国はそれが顕著だった。


選択肢は二つ。滅びるか戦うか。ようは他国を侵略して食料をぶん取るしか道はないかに思われたけれども当時の国王は英明だった。

そんなことしても弱小国家の我が国はぼろ負けするだけ。滅びを早めるだけだろうと。


そんな国王。趣味は開墾及び農作業という変わり者。元々八男で継承権は下から数えた方が早いし親戚筋の家に養子に出されて、青年期まで国の端の小さな領地で領民に混ざって農作業をしていた方。


他国に異世界から世界を救う存在を召喚する魔法があると知るや閃いた。異世界から荒れた大地でも育つ。丈夫な作物を。救荒作物を取り寄せようと。


《二話目に続く》

 

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