第41話「カミラ」
「まずはクエスト達成おめでとうー!」
かんぱーい!
わいわい
がやがや
『鉄の乙女』たちメンバーからの陽気な声に思わず杯を合わせる藤堂。
ミールちゃんも不思議そうな顔をしつつも空気を読んでジュースの入った杯を合わせる。
そして、全員で一気に煽る。
「っかぁぁあああ!」
──まずい!!
「なんだこれ、ぬる……!」
「はっはっは! 何を当たり前のこと言ってんだい」
いや、当たり前って……。
当たり前か。
「ウチの故郷じゃ酒は大抵冷やして飲んでたんだよ」
「ありゃまぁ、そりゃ贅沢なこって」
まぁ、贅沢は贅沢だな。
冬でも冷やしてるくらいだし。
「にしても、お前さん、あそこでブチ切れるんじゃないかって冷や冷やしたよ──あ、お姉さんお代わりー」
さっそく杯をあけたカミラが、ケラケラ笑いながら懸念を漏らす。
「ふん。あのくらいで切れてたら社会でやってけねーよ」
こちとら社会人何年目だと思ってんだ。
まぁ、むかついたことはむかついたけどな。
「……それより、どういうこった? 何か事情を知ってるのか?」
ここまで連れだしたからには、ギルドマスターがいうように、冒険者のいろはを叩き込むだけが目的ではないはずだ。
そう思い、苦いエール(?)をちびちび飲む藤堂。
「うーん、それなんだよね」
「それ?」
「……いや、どういったものか──前から贔屓の多いマスターだと不評ではあったんだけど、ここまでひどいのは始めてでさ」
カミラが言うに、他種族へのあたりが強いのはいつものことで、
時にはそれを庇う冒険者には制裁的な指名クエストが与えられることもあったらしい。
「指名クエスト?」
「あぁ、別名:強制クエストって言われててさ──ギルドやその顧客から、名指しでクエストを指名されるんだよ。ちょうどアンタが例のダンジョンの駆除を命じられたみたいにね」
へー。
そんなのあるんだ。
「ん? だけど、それが何が問題なんだ?」
指名くらい普通にあるだろ?
キャバ嬢なら泣いて喜ぶぞ?
「普通なら問題じゃないね。……だけど、ここは普通じゃないんだよ。──アンタが受けたクエスト、うち等なら確実に全滅していたよ」
む。
それは確かに……。
あれはミール、米軍装備が使える藤堂だから楽にクリアできただけで、並みのパーティなら、第3階層あたりで全滅してもおかしくはない。
ましてや、あの暗闇の第4階層の突破はかなり困難をともなうだろう。そして、ラストがあのボス部屋じゃね……。
「そういうことさ。実際、そうやって消されたパーティはいくつもある」
おいおい。
穏やかじゃねーな。
「……なら断ればいいんじゃないのか?」
藤堂だって、あまりにも実現困難なクエストなら断るだろう。
「それがそう甘くもない。基本的に使命クエストは拒絶は不可能なのさ。……まぁ、やむを得ない事情があればある程度考慮されることもあるって言うけど、病欠程度じゃ這ってでも来いって言われるね」
「ひでぇな」
そんなのブラック企業なみの処置じゃないか。
「それにわざと失敗してもダメさ。ランク査定に相当響くし、一発除名や降格もありうる」
「……極悪だな。そんなの権限でやりたい放題じゃないか」
ちょっと考えただけでも、その権限を使えば冒険者を自由に操ることができるとわかる。
「実際そうさ──だから、皆にらまれないようにやってるってわけさ」
そう言い切ると、面白くもなさそうにカップをグイっと煽るカミラ。
他の面々も神妙な顔つきだ。
「……そういうのって、普通、本部というか、上部組織が注意するもんじゃないのか?」
「そうであればいいんだけどね。……アイツにはコネがあるのか──上の人間もあまり口出しできないってもっぱらの噂だ。それに金も相当ばらまいてるらしい」
あらら、腐ってるわけね。
「……ん? でも金って──そんなにギルドマスターって儲かるのか?」
見た感じ、せいぜい役場の部長って感じの仕事だ。
公務員に毛が生えたようなもんだろう。ギルドが民営だとしても、そこまで儲かるような仕事には見えない。
「そこなんだよねー。実際よその街のギルドマスターは、よくて町の衛兵隊長よりちょっと上の給料って聞くしねー」
「ふーむ。……それはなにかあるな」
考えられるのはピンハネくらいだけど、
それだって大々的にやれば冒険者だって気づくだろう。
上の人間に鼻薬を嗅がせる程度に賄賂をばらまいてるとなると……もっと別の設ける手段がありそうだ。
ま、そこまで首を突っ込む気はないけどね。
だって、別に藤堂は正義の味方じゃないし──冒険者ギルドがダメなら他に行くだけだ。
例えば商人ギルドとか────……あ、そういえば。
「商人って言えば、ゴーズさんってどうなん?」
「ん? どうとは──?」
いやほら。
「商人ギルドの登録には、後援者が必要って小耳にはさんでさ──あの人ってそういうのやってくれるかな?」
「う~ん、どうだろう。ケチはケチな人だよ。まぁ、悪人ではないし、アンタはアイツに貸しがあるようなもんだから、相談すれば後見人にくらいなってくれるんじゃない?」
ふむ。
ケチで貸しがあるっか……悪くないな。
「つーか、そんなケチな人がなんでわざわざ危険な場所を移動してたんだ?」
あのへんにゃ、エルフの森の他、グリフォンだって出る場所だぞ?
「他にも、盗賊やらゴブリンやら──あ、ゴブリンは割と普通か」
「うんにゃ。ゴブリンたって、あんなに大群で出ないさ。だから、めちゃくちゃ焦った」
ええ? そうなのか?
「うーん、俺勢いで一個だけゴブリンの巣穴潰してるんだけどなー」
「んな!? それは本当かい!」
ん?
多分ね。中入ったわけじゃないから自信ないけど。
「そうかー。証拠があればお手柄だったのに、残念だね」
「証拠? あ、魔石とかそういうのか」
「そうそう。……金一封どころじゃない褒美がでるよ。それくらい厄介なんだよ、ゴブリンの巣は」
あー。
まぁ、かなりの数がいたしな。あんなのが量産されたらそりゃアブナイ。
「それよりも、盗賊ってのは?」
「ん? 知らない? なんか、ゴブリンの巣から先──城塞があってさ。そこにたくさん盗賊がいたぞ」
武装も山盛り。
悪事も山盛り。
「そいつを成り行きで壊滅させたけど……え? 知らないのか?」
「知るもんか。ゴブリンの巣もそうだけど、盗賊なんて、いの一番の討伐対象だよ?」
う~ん?
そうはみえなかったけどなー。結構大規模に活動してたっぽいし……。
「ただの流れ者じゃないのかい? そういうのは結構いるよ」
「いんや、完全に武装した連中だったぞ。城塞も整備してたし──攻城兵器なんかももってた。……あ、地図回収してたわ」
ばさっ。
「へぇ、これが──…………んんん?」
城塞で回収した地図。
いくつか、エルフの森の書き込みがあるけど、まぁわからんだろう。それよりも、盗賊の城塞に位置を教えて、ここだと伝える。
「ちょ、ちょっと待ちな──ここは、王国が大昔に放棄した要塞だね。それに×がついてるのは開拓村……」
「そうなのか? まぁ、井戸がかなりデカかったな」
水がじゃぶじゃぶだったし。
「開拓村ってのは、近づいてないからわからないけど、城塞周辺はかなりの無人地帯だったぞ」
いたのエルフくらいだし。
「……いや、そりゃそうさ。魔物が多くて、開拓を断念したって聞くね──だけど、いや、まさか……」
「どうした?」
カミラは地図を見るなり考え込んでしまった。
どうやら、なにかに心当たりがあるようだが────……。
「藤堂、宿を教えな。ここじゃ話せないことがある。……夜にそっちにうかがってもいいかい?」
「え? 夜?」
夜って……。
「ねてるー」
「お前はな。……まぁ、連れがうるさくしてもいいなら」
「ははっ、大丈夫、変な意味じゃないさ──。だから、ちょっと邪魔させてもらうよ。あと、この地図借りていいかい?」
ん?
まぁいいか。
「返せよ」
「当たり前だ──そんじゃ、悪いけど、夜にな」
「お、おう」
女性によるに待ち合わせと言われて、不覚にもドキッっとしてしまう藤堂なのであった。
もっとも、よこでジュースをグビグビ飲んでいるミールちゃんもその場にいることを思えば色っぽいことなど皆無だというのは間違いないのだけど──。




