第40話「怪しいギルド」
「ま、マスター! マァァスタァァア!」
バーン!
大きな音を響かせながら試験官がギルドに駆け込んでいく。
そのすぐ後をつけながら藤堂とミールは完全武装のまま、ギルドへの扉をそっとあける。
その様子に気づいたものは少数で、大半は息も絶え絶えに飛び込んできた試験官に釘付けになっていた。
「さわがしいな、何事だ? 今日は一体何往復している」
「はぁはぁはぁ……。し、したくてしているわけじゃ──。いや、それどころじゃない!」
「いいから落ち着け──何があった? アイツは?」
げほごほっ!
「そうだ! そいつだ! あ、あれは一体なんだ? 俺はあんな化け物だなんて聞いてないぞ、マスター!」
「は、はぁ?」
化け物??
言葉の意味が分からないのか、疑問符を浮かべているギルドマスターに試験官が、イビルグールの下あごの詰まった袋を差し出した。
「見ろこれを! イビルグールの討伐証明だ! いや、それだけじゃないぞ!」
はぁはぁ!
「あ、あの野郎! Bランクダンジョン、嘆きの墓場を攻略しやがった……!」
ざわっ!
その瞬間、明確にギルドが騒然とする。そして、そこかしこで話声が響き渡り、その中にはカミラをはじめ『鉄の乙女』の面々もいた。
「え? 嘆きの墓場ってあの──?!」
「まさか、Bランクが何度も挑んで行方不明になったところだよ!」
「ええー。そろそろAランク認定されるあの?!」「アンデッドの巣窟が……」
新人によって攻略されたぁぁあ!?
ざわざわ
ざわざわ
それだけでも大ニュースだ。
しかし、その声は次第に疑問にかわりつつあった。
だってそうだろう?
Bランクダンジョンで、じきにAランク認定されそうなダンジョンになんで新人が?
しかも、それを血相を変えて試験官が報告にくる?……それじゃあまるで──。
「まるで、不正でもあったみたいだな。えぇ、おい」
「ええーおいー」
ざわっ!
一瞬、ギルドが騒々しくなり──そして急速に静かになる。
なぜなら、そう言いながらやってきたのは、奇妙な装備を身に着けた藤堂とその相棒ミールだったから。
一度みたきりとはいえ、ギルドの面々が忘れられない風貌だ。
「ん? なんだ? えらく静かだな」
「しずかー」
のっしのっし。
堂々とギルドの真ん中を歩き、
まるで自分には関係ないといった顔で入ってくる藤堂とミール。
その様子に、周囲にいた冒険者や職員がまるで海でも割ったかのように道をあけていく。
その先には件の試験官とギルドマスターがいた。
「トードー!」
わっ!
カミラさんを始め、『鉄の乙女』の面々が取り囲むと、余裕しゃくしゃくの様子の藤堂。
「おう、さっきぶり──」
「おーう」
陽気な様子で手を上げる藤堂たち。
「いや、さっきぶりもなにも……ええ? 今の話本当かい?!」
「今の?」
今のと言われても藤堂が知るはずもない。
「いや、Bランクダンジョン──嘆きの墓場を攻略したことだよ!」
「あぁ、それか」
どんっ。
ギルドのカウンターに肘をおき、ミールちゃんもムッ! とした顔で、両手を添えて顎を載せる。……かわいい。
「──それについては、アンタに説明してもらおうか、ギルドマスターさんよぉ」
「な! せ、説明だと!」
「おーよ。ギルドの騒ぎをみるに、あり得ない事態だって?……そこんとこどうなんだ」
「ふ、ふん! それがどうした! ギルドがクエストをしろと命令したけだ。……そしてそれをお前は受けた。──なにか不都合でもあるか」
「む……」
なるほど、そう来たか。
そういう意味では確かに、不正でもなんでもない。
実際にクリアしている以上、適切だったと言われればそれまでだ。
(……コイツ、結構図太いな)
本当はもっと狼狽してボロを出すところが見たかったのだが──……まぁいいか。
「じゃあ、それでいい──それよりもこれで俺とミールは晴れてギルドに加盟ってことでいいな?」
「も、もちろんだ──ほら、認識票だ」
そう言って投げ寄越したのは、木でつくられた『ギルド認識票』というものらしい。
表面には大きく「F」裏面には氏名などの記載欄があった。
「そら! 約束通り──ギルド加盟を認める。説明はそこの女どもにでも聞け」
それだけ言うと、肩をいからせて去っていくギルドマスター。
「……ふんっ。簡単にはいかねーか」
まぁいいか。
別にこのギルドの闇を暴きに来たわけじゃないしな。
「それに当初の目的である、身分証の確定にはなったしな」
「あー、トードー。喜んでいるところ悪いけど、Fランクじゃ、ほとんど役に立たないよ?」
「……は? なんで?」
これでギルドの人間だろ?
いっぱしの冒険者……。
「い、いやー。Fランクは子供でも取れる簡単な証明なんだ。ありふれ過ぎて誰も信用してくれない──あぁ、もちろんギルド内では別だよ? 素材の買い取りもクエストも受けれる。だけど、身分証としてはつかえないんだ」
はぁぁあ?!
あんなに苦労して?!
鉄の乙女のカミラの言葉に思わず激昂しそうになる藤堂。
しかし、それを思いとどまる。……だってカミラが悪いわけじゃないからね。
「ま、まぁ、そのへんもおいおい話していこう──。予想とは違ったけど、初クエストの成功だ、一杯奢るよ」
そうして、カミラたち『鉄の乙女』に誘われて、騒然としてギルドを背に、近くの酒場に移動するのであった。




