第30話「遭遇戦」
新章開始
キュラキュラキュラキュラ!!
エルフの森を離れて2日。
言われた方角に進んでいくも行けども行けどもはやり荒野ばかり。
いい加減景色にも飽きてきて、ぼんやりと戦車を前に進めるしかなくなった藤堂であったが、
「ふんふんふ~ん、犬のふん♪」
なにが楽しいのか、ミールの奴は飽きもせずに戦車の砲塔にこしかけ、足をパタパタしていた。
「つーか、なんだその歌」
「んー?……気分??」
どんな気分だよ。
う〇こか?! うん〇したいのか!
「したいならしたいっていえよ」
「はーい!」
……いっつも返事だけはいいんだよな。
まぁ、う〇こじゃないなら、もうしばらく走るか。さすがにそろそろ腹も減ってきたし、適当なところに泊って休憩を──。
「トードー」
「……なんだ? 結局、うん〇か?」
したいならさっき言えよ。
「んーん。なんか見える」
「……なんか?」
ミールが指さす先、
その方向に視線をむけるが特に何も──。
「俺はお前ほど視力よくないんだよなー」
戦車を前進に固定したまま、砲塔から顔を出した藤堂は、首にしていた双眼鏡を構える。
そして、もどかしそうにピントをあわせるとミールの指さした方向を探る。
「どこだ?」
「あっちー」
あっちじゃわからん。
「なんか目印ないのか?」
「んー。……あ、チョコみたいな家があるとこ」
チョコみたいな家?
「どれだ」
「え~っと、コーラみたな木が合って」
だからわからん!
一々食いもんで例えるな! 方角で言え、方角で!!
「あれがコーラの木だよー。そんでそこから少し行って、チョコみたいな。あ、チョコ欲しい──」
だーかーら!
……あーもう、
「ほら、食っていいから」
この子は食い気が混じるとすーぐ気が散るんだよな。
藤堂が少し空腹を感じるということは、この食いしん坊はとっくに腹ペコなんだろう。
「ありがとー! もぐもぐ、で、その右、」
「くいながら、──あ、あれか」
「それそれ! なんかチョコっぽい。ああ、おいしーねー」
もぐもぐ、くちゃくちゃと──……って、あれは廃屋か。
たしかにチョコに見えなくもないな。
泥で作った、いかにも脆そうなレンガ造りの家は、屋根が抜け落ちで、廃屋そのもの。
ミール曰くチョコの家で、その隣に人が──……って、
「ぶほっ! お、お、お」
人が、
襲われとるやんけぇぇぇええええええ!!
※ 他者視点 ※
わーわーわー!
ぎゃぁぁあああ!
「そっちだ! 回り込ませるな!」
「こっちも手いっぱい──ぐあぁああ!」
その頃の廃屋周辺では、戦況が一気に不利に傾いていた。
休憩をいていたらしい一団に襲い掛かったのは、この辺を根城にしているゴブリンの集団だったらしい。
肉壁を兼ねる前衛を突っ込ませて、後衛を回り込ませるそれなりに頭の働く戦法で、一気に戦況を押し上げたらしい。
そこに突如して轟音が響き渡る。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ!
キュラキュラキュラキュラ!
それは大地を震わし、
廃屋を倒壊させんばかりの大音声だった。
そして、それはついにあらわれた!!
倒壊させんどころか、実際に廃屋を突き破って表れたのだ!!
ドッカーーーーーーーーーーーーン!!
※ ※ ※
「いくぞ、つっこめぇぇえ!」
「つっこめー♪」
ミールを砲塔に引きずり込むと藤堂は、そのまま全速力で駆け抜け廃屋に突っ込んだ!
その衝撃力を利用して、一気に戦況に乱入するのだ!
実際はそれはうまくいった!
襲われているであろう一団と
襲っている一団が一瞬にして硬直。
その瞬間に状況を把握する藤堂。
女、男、中年に、子供もいる武装集団。
そして、襲っている側はもれなくゴブリンだ!
「状況把握────助太刀するぞ!」
ガコンッ!
叫ぶや否や、ハッチを跳ね上げ、上部に設置されているHMGにとりつくといきなり全力射撃を貸し!
ドガガガガガガガガガガガ!
「ひぃ!」
「きゃああ!」
人間の一団がその音に驚き、身を伏せる。
そして、驚くよりも先にせん滅されていくゴブリンたち。
「よーし! 敵陣に穴をあけた。……ミールいけ!」
「はーい♪」
ここでミール投入。
彼女と数日二人っきりで過ごして分かったのだが、この子は想像以上の怪力の持ち主であり、
それでいて戦闘センスは抜群。なにより純粋に強いことが判明したので、藤堂は彼女を庇護対象として扱うのはやめた。
すなわち相棒だ!
だから、子供だろうと出撃させる。戦わせる────信頼する。
「武器ちょーだい!」
「ほらよ!」
ぶんぶんっ!
藤堂がぶん投げたのは戦車に固定されていたスレッジハンマーとシャベルの二本だった。
それも戦車を擱座などから復帰させるための器材で本来の武器ではないが、怪力の彼女の膂力を十全にいかせるのはこれしかない。
「ありがとー」
ぱしぃ!
戦車から飛び降り様、空中でそれらをキャッチすると、くるんと一回転して危なげなく着地、そしてそのまま暴風のようにかけていく。
ボン、ボンボンッ!!
『ゲギャァッァアア!』
『ゲ!』『ゴギャア!』
四肢が爆散するほど怪力による一撃!
それが連続するほど、強力なミールの攻撃はまるで竜巻だ。
そして、ゴブリンの悲鳴が上がるたびに彼らの体の一部がはじけ飛んでいき、その間をミールが駆け抜けていった。
「な、こ、子供?!」
「それに大亀か?!」「エルフだって?!」
──化け物だぁぁあ!
戦車とミールを見て驚愕しているのは、人間の集団だ。
最初はただの女・子供を含む集団に見えたがどうやら全員武装しているらしい。
……冒険者ってやつか?
とすると、あっちは商人──!
数名の冒険者に背後を守られているのは、恰幅のいい男性であった。しかも一人だけ武装しておらず、いかにも護衛対象といった感じだ。
「だれが化け物だ。こっちはただの助太刀だ──。ゴブリンを殲滅するが構わないな?!」
そう叫ぶ藤堂。
その声に敏感に反応したのは、戦闘にいた女性──いや、女戦士であった。
「ッ! あ、あぁ、助かる! こっちは負傷者だらけなんだ!」
だろうな。
見ればわかるが、危ういところで、いかにも満身創痍といった感じだった。
「任せろ! 全員、戦車……あー。俺の周りに集まってくれ!」
「……わかった! 全員いくよ!」
そういうなり、バラバラと集結する冒険者たち。
もちろん、商人風の男も護衛されてやってくる。
「ミール! 近接の敵を排除──」
「はーい♪」
ボンッ!
「──俺は遠方を排除する!」
ジャキンッ!
再装填、HMG──発射ぁぁああ!
ドガガガガガガガ!
ドガガガガガガガ!!
『『『げぎゃぁぁああああああああ!』』』
こうしてほどなくして、ゴブリンの集団は殲滅された。




