第28話「出発」
ルルの世話になって数日。
エルフの里でのしばらくの滞在を許可された藤堂は、たっぷりと休養し、体調を整えた。
案内された客間は小さかったが、森の繊維で作った寝具は心地よくゆっくりと休むことができた。
そうして三日後──。
ブォォオン!!
ドロロロロロロロロロ……!
「ほほう、これがシャーマンか!」
「あぁ、俺の相棒だ」
エルフの里の中央。
その開けた場所でシャーマン戦車を召喚した藤堂は、エルフたちの見送りを受けていた。
あの時の子供たちも親元に帰ったのか、皆幸せそうに笑っていた。
まぁ、数名──……藤堂が爆薬で吹っ飛ばした戦士たちがジト目だったけど。
「ふーむ……。異世界人は妙な技を持っておると聞いたが、これならグリフォンを退けたのも納得じゃて」
「だけど、二度と戦いたくねーよ」
戦車と、空飛ぶ魔物との相性は最悪だ。
少なくとも、一人で戦うもんじゃない。
「カッカッカッ! そりゃそうだろうて。あれでも我らの神じゃからのー」
「その神様を堪能しててよく言うぜ」
ちなみに滞在中、グリフォンの焼肉三昧だったのは言うまでもない。
味?……まぁ、おいしかったよ、鶏肉と獣肉(?)に二種類が楽しめたしね!
「うむ。そのグリフォンじゃが、この時間帯なら山のほうにおるじゃろう──平野を行くぶんは安心じゃんと思う」
「思うだけだろ? まぁ、信用するさ」
カカカッ。
「口の減らん奴じゃのー。……おぉ、そうじゃ!」
ぽいっ。
「……これは?」
「金子じゃ。多くはないが、旅の足しにせい。……昔、わしがここに居着く前に使っておったものじゃで、通貨は変わってるかもしれんがな」
ふーん。
(つまり餞別か)
受け取った革袋の中には、みたこともない金貨が数枚。……有難く貰っておこう。
「それと、ビルボアの町に行ったならば、まずは身分を確定せい」
「身分? 役所にでもいくのか?」
「はん! 役所が貧乏人を相手にするものか。……ギルドじゃよ。冒険者ギルドか、商人ギルド──他にいくつかあるが、お主の肌に合うものを選ぶがいい。……おすすめは商人ギルドかのー? コーラは売れるぞ?」
売らねーよ。
オーパーツすぎるだろ!
「まぁ、考えとく──」
「うむ。……あぁ、それと」
まだあんのかよ!
「お主──ほんとうに王国に復讐するのか? 75ミリ砲がどうのと息巻いておったが……」
うん?
「当たり前だろ」
あれだけやられて、黙ってられるかよ。
あ、もしかしてコイツ……。
「──おい。復讐はくだらんとか言うつもりか?」
「まさか、まさか! 復讐ほど良いものはない。……それを止めるなんて、とてもとても。──そうでなくてのー」
うーむ。と言いよどむルル。
止めるつもりはないが、それでも何か言いたいらしい。
「……復讐はしろ。むしろ、絶対にするがいい。……あぁ、もちろん止める自由もお主にはあるぞ。じゃが、それだけの力があって成さねば──きっと……いや、必ず後悔する。だから、復讐はやるべきじゃ。じゃが、ワシが言いたいのはそのことではなくのー。……お主の生きる上での目的じゃよ」
生きる上での目的……??
「うむ。軍隊用語では、必成目標、望成目標というんじゃが、それをどれにするかじゃ──」
「そりゃー……」
復しゅ
「──帰ることじゃろ?」
あ、あぁ。
(そういうことか……)
「うむ。……目的を間違うな? まぁ、年よりの戯言だとでも思ってくればよい──じゃが、復讐を絶対の目的にするのはおススメせん、そういうことじゃて」
「……考えとく」
ルルの言いたいことはわかる。
復讐を目的にして、それを成した後──どうするかということだろう。
(下手すりゃ、復讐後に燃え尽きるかもしれねーってことか)
……おそらく、長く生きるエルフなだけに、これまでにそう言ったこともあったのだろう。
復讐に燃え、復讐に尽きた奴が……。
それを藤堂に教えてくれたのだ。感謝はしねーとな。
「──さて、それじゃ世話になったな」
「なんの、こっちこそじゃよ──」
ルルは、そういうと男前に笑って見せた。
そして、子供たち──。
親元に帰れたのだろう。
両親に囲まれ、にこやかに笑う子供たちが8人──。
「……ん?」
8人??
(あれ、アイツは──??)
しばらく一緒にいただけに、子供たちに対して少しだけ情が沸いていた藤堂であったが、
一番見ていた顔がそこにない。
んふー♪
──そう。
そう笑っていたあのダークエルフの少女、ミールの顔が……。
「ん? どうした?」
「いや、最後に挨拶しときたかたんだけど──あ、いた」
少し離れたところにポツンと佇んでいるのはミールだった。
「あぁ、彼奴か……。そういえばお主に言っておらなんだの」
ガシガシッ。
バツの悪い顔で、頭を掻くルルは、そっと藤堂に身を寄せると囁いた。
「昨日は詳しくは話せなんだが──……アイツをこの村に置くことはできんぞ?」
「は?」
な、何をいまさら──。
昨日この村に来た時に、子供たちをすべて預けたのだ。
「あぁ、話がかみ合わんと思とったがそういうことか……」
「ど、どういうことだ?」
同じエルフだろ?
「あほう、お主の世界にもいろんな国があろう。肌や目の色だけで同じ国の人間と言われてなんとする」
「あ……」
そういうことか……。
「だ、だけど、人間の集落に行くのはまずいんだろ?」
誘拐されて、違法奴隷になるとか言ってたじゃん。
「まぁの。じゃが、それは年端もいかぬ子どもの内の話じゃ──普通の成人はそう簡単に違法奴隷なんぞにならん」
「なんだと?」
「我らは強いといったじゃろ……だから、微妙な顔をするでない」
いや。だってなー。
ホゲーが忘れられない。
「まったく……。数百年いきた戦士ぞ?──そこらの英雄も裸足で逃げる精鋭が我らエルフよ。……人間社会にもそれなりに溶け込んでおる」
「え?」
マジか?
それだとだいぶ話が変わるぞ。
「まぁ、子供が危険なのは変わりはないぞ? じゃが──」
じっ。とルルが藤堂を見つめる。
「保護者がいれば別じゃ」
「ほ、保護者って……ぉいおい」
俺はまだ独身だっつーの。
「関係あるか。だいたい、この村に置いておいても、幸せにはならんぞ──彼奴は、ダークエルフ……かつて魔族と言われた種族よ」
…………は?




