第12話「ハンバーガー50個分」
キュラキュラキュラ!
今日も今日とて快調快進撃のシャーマン戦車。
「なー、そろそろ機嫌なおせよー」
ハンバーガー片手に藤堂が、ふくれっ面のミールの頬をつつく。
「ぶー」
しかし、「むっすー」とした表情のミールは、口の中をベーコンサンドでパンパンにしながらそっぽを向く。……いや、食べ過ぎで頬が膨れてるだけか。
「違うもん」
「じゃーなんだよ」
もぐもぐ。ごくん!
「トードー夜中にオヤツ食べてたー!」
「く、食ってねーよ!」
オヤツじゃねーよ、夜食だよ!
(※注:詭弁である)
「でも、口の周りに食べかすついてたし」
「え? マジ?!」
……ジー。
「はっ! しまった!」
こ、コイツ誘導尋問を!
なかなかやるな、子供のくせに。
「ほらやっぱりー」
「……わかったよ。悪かったって──」
でも、そうでもしないとミール山ほど食うじゃん。
「じゃー、コーラくれたら許すー」
「なんでそうなるんだよ」
結局コーラを奢らされる羽目になった藤堂。
「おいしー。泡が出るー」
満面の笑みのミールにまんざらでもないが、これで残金はほぼゼロだ。
「はー。参ったな。……昼までになんとか稼がないと、こんどこそ、金がなくなるぞ」
「お金ないと食べれない?」
あたりめーだろ。
一応、騎士からまきあげた金貨や銀貨はあるが、人里についてから必要になる可能性もあるし、あまり使いたくない。
「ふーん。お金ってどこにあるのー?」
「えー。そりゃ、店でモノを売ったり、お城の金持ちとかが持ってるんじゃねーの?」
この世界の基準がどんなんか知らんけど、城や店には金があるのが相場だ。
まぁ、あるからってくれるわけじゃないけど──。
「じゃーあそこ?」
「……へ?」
何気なく視界の端を指さすミール。
「いや、あそこって……?」
……あそこか──ッ!
「うお! し、城じゃん!」
確かにミールが指さす先を見ると、なんと米粒大の建物が見える。
城と言われれば確かに城だ。
しかも、この距離からわかるほど結構でかい──!
「で、でかしたぞミール!」
「んふー! ハンバーガー50個分!」
いや、知らんけど。
バーガーをもぐもぐしながら、器用に軍用双眼鏡を構えると、なるほど──巨大な城塞が視界に浮かび上がっていた。
「しかし、でかいな……。しかもこんな荒野に?」
ちょっと不自然だが、ようやく見つけた文明だ。
それに、異世界で文明とくればエルフに獣人。そして、冒険者ギルド──────キランッ!
「……ん? なんだ? 今なにか見えたようなぁ……ぁああああ」
どっかーん!
──あわわわ。
「な、な、なんだぁぁ?!」
突如地面を揺るがす大音響と衝撃に腰を抜かす藤堂。
一体全体何が起こった?!
「いわー」
「い、岩ぁ?」
ミールが指さす先には、小さなクレーター。
そこには、なるほど……子犬ほどの大きなの巨大な岩石があるではない。
「お、おいおい。どっから飛んできたんだよ、これ」
「あっちー」
全然平気な顔を指さすミール。
その指の先に向かって双眼鏡を向ければ、さらにたくさんの黒いものが空を横切り、陽光を遮っていた…………って!!
「ちょ!……マジかよ!」
ひゅるるるるるるるる。
ひゅるるるるるるるる。
驚愕も束の間、耳をつんざく音ともに、岩石が次々に降り注いできた。
「──どわぁあ!」
「うきゃ~♪」
どかーん!
どっかーん!!
次々に巻きあがる土埃!
予想通り、そこには地面に突き刺さる、巨大な岩石があった。
「おいおい! あっぶねーだろ!」
驚いた拍子に双眼鏡を落としてしまいレンズが割れる。
さらには、もう片方の手にあったハンバーガーもポトリと地面に転がり、そのまま履帯によってぺしゃんこに!!
「ぎ、ぎゃぁぁああ! 俺のバーガーがー!」
一個いくらすると思ってんだ、この野郎!
バクバク食べるミールのために、藤堂さんは一個で我慢してたってのに……!
それが、それが────!!
「……だー、畜生! 誰だよいきなり────って、」
ひゅるるるるるるるる。
次弾?!
それもいっぱい?!
「やばい!」
やばいやばい!!
こ、後退!
後退ぃぃー!!
「緊急回避ぃぃい!」
「バァ~ック♪」
はしゃぐミールとは裏腹に、慌てて砲塔に潜り込み、バックギアに入れる藤堂。
戦車は、つんのめるようにして停車し──ずるずると後退する。
「……って、お前も中に入るんだよ!」
そこでのんきに空を見上げているミールを砲塔の下から引っ張り込むと、ハッチを閉塞!──ガキンッ!
そこに間一髪──がん、ががーんッ!! と、鈍い音が響きわたった。
「あっぶねー!」
「ゆれるー」
危機一髪だ。
しかも、めちゃくちゃ音が響いて頭が揺れる。
「くっそー。これじゃ、鐘の中で叩かれてるのと同じだぞ」
うげ!
しかも耐久値が──?!
まるでお寺の鐘にでもなった気分だが、どうやら、相当数の岩石が命中したらしい。
徐にステータスを確認すると、砲塔の耐久値が一気に5%を削られているではないか。
「やってくれたな、畜生め?!」
未だ衝撃抜けきらぬ頭で、ふらつきながら前方確認。
砲塔から体を出すのは自殺行為なので、望遠機能も備えたキューポラを覗き込む、
すると、アメリカ製の高性能照準器が明るい視界を目前に提供してくれた。
……そこには果たして──。
「おいおい、あそこから砲撃されたのか?!」
照準器の先。
そこに映ったのは、城兵上にずらりと並んだ小型の投石器が今も現在進行形で岩石をぶっ放してきていた。
どうやら、あれで先制攻撃をしかけてきたらしい。
それも、警告なんて甘いものじゃない──いきなりの全力攻撃だ。
「えぇー……。なんでいきなり攻撃されてんの、おれ」
──あ!
まさか……。
「これ、俺のこと、モンスターかなにかと勘違いされてないか?!」
「かもー?」
おいおい、冗談じゃねーぞ!
こちとら正真正銘人間だっつーの!
しかし、そうは思ったものの、
客観的に見れば最高速度40Km近くて爆走する緑の鉄塊だ。
「そりゃまぁ……どう見ても不審車だけどさー!」
「不審者ー」
うるせーよ!
車だよ車! 者だと、俺が不審な奴になるだろうが!
「つーか、なんなのこの世界の人間?」
好戦的過ぎん?!
話し合いもなくいきなり攻撃とか、どこの蛮族だよ!
呆れるやら、関心するやら──。
もー。
「とりあえず、一旦射程外まで後退しよう」
このまま撃たれ続けてもいいことはない。
そう思ったが、その間も撃たれ放題のシャーマン戦車。
だんだん照準が正確になり、命中断が増えていく。
かんっごん、がーん!
どっかーん!!
「ちょ、やめ! こっちは善良なシャーマンだっつーの!!」
あー。やめろやめろー!
痛くないけど、シャーマンが凹むだろーが!
どうやら、いきなりの敵認定をくらってしまったらしい。
容赦ない攻撃で耐久地がゴリゴリ減って行く!
「くっそー。こっちが攻撃できないのをいいことにやりたい放題だな──って、あれ?」
なんだ、あれ?
撃たれるままに我慢していた藤堂であったが、ふと違和感に気づいて街をしっかりと確認した。
すると、な~んか町にしては、ずいぶんと物々しい雰囲気。
「つーか、なんだあれ? 案山子?」
城壁の上には奇妙なオブジェがずらり。
いや、オブジェというか──生首(?)が所せましと並べられており、さらには城門のトゲトゲには無数の骨がぶさ下がっていた。
そして、なんというか、そこに屯するのはいかにもなルックスの方々──。
「え? ええー……。あれって、まさか山賊か?」
「賊ぅー」
そう。
城塞に籠っているのは、毛皮の鎧にモヒカンにトゲトゲの肩パッドつき──と、どこに出しても恥ずかしい山賊スタイルだ。
そして、藤堂の方を指さし、なにか口々に叫んでいるではないか。
「お、おいおい……。城は城でも、賊都かよ!!」
さすがにこの展開は予想外。
まさかの第一村人がいきなり山賊とは!
「あ……でも、見た目で判断するのはよくないか」
ほ、ほら。
もしかして、あの恰好がこの世界のトレンドかもしれないし──。
ドッパーン!!
「ひゃっはぁぁ! 久々の獲物だぁぁ!」
「馬車だ! 珍しい馬車だぞぉ! 奪えぇぇえ!」
「小さい女もいたぞー。犯せ犯せぇぇえ! 男は焼肉、女は女体盛りだぁぁ」
……前言撤回。やっぱ山賊だわこいつ等。
どうやら、山賊どもはここで待ち伏せしていたらしい。
地中から出現した伏兵が戦車に取りつき野蛮な声を上げたのを冷めた目で見る藤堂たち。
「はー……。この世界の倫理観どーなってんだよ……」
クソ王族に
クソ騎士!!
そして、クソ山賊か!?
クソ修羅の世界かっつーの!!
「──そりゃ、こっちも戦車乗ってるけどさー!」
いきなり攻撃とか、もうちょっとコミュニケーション頑張ろうよ!!
あーもー……。
……がしがしがしっ!
頭をかきむしる藤堂は、パンツ! と、大きく頬を叩いて戦闘モードに移行する!
「ったく! いいだろう。……そっちがそれなら、こっちもその流儀にのかってやらぁ!」
──戦車の性能チェックにはちょうどいいしなっ!
「ハンバーガー?」
「……おう。ハンバーガー行き決定だわ」
コーラも買っていいぞ。
俺もビール飲むし。
「城だかなんだか知らんが、お金に換金決定ー」
「わーい♪」
この瞬間、藤堂たちの気持ちは完全に切り替わった。
キューポラに張り付いた山賊の野蛮な顔をみて、感情が消えたのだ。
だって向こうから仕掛けてきたじゃ~ん? それって正当防衛じゃーん?
ぶっ飛ばしても良さそうなので、ぶっ飛ばすことにしまーす。
……ということで、
ハンバーガー50個分になってもらおうか!!
「──砲塔旋回!」
──ウィィイイイイン!
ガコンッ!
「初弾装てんッ!」
車長席に座り直した藤堂は、ステータス画面を呼び出し、戦闘準備を開始する。
その間、ミールはじっと操縦席に座って大人しくしている。
「耳ふさいどけよ」
「こくり」
素直に頷くミールが長い笹耳を抑える。
こっちも準備オーケィ。
なら……。
「戦闘準備よし!」
さぁ、かかってこい!
戦車と山賊!
どっちが強いか真っ向勝負だ!!
──そう、この日この瞬間、M4シャーマン中戦車と異世界の山賊が真っ向から激突するのであった。




