Side:猫4
原案:クズハ 見守り:蒼風 雨静 文;碧 銀魚
シモの話で申し訳ないが、どうにもトイレがうまくできない。
一応、リーンが用意してくれたトイレで用を足そうと試みているのだが、うまくできない。
朝からその様子を見て、リーンがちょっとだけがっかりしてから、表情を引き締めた。
「とりあえず、今日から色々やってみるぞ。」
人間の感覚が残ってるから、トイレでこれは結構恥ずかしいんだけど……
まぁ、あたしが過ごしやすくなるよう、必死になってくれるのは嬉しい。
そう思ったら、自然とリーンの横に行きたくなった。
スススと寄って、前足を膝に乗っけてみた。
「ん?どうした?」
リーンはすぐに本を手に取って、調べ始める。あの本、そんなに便利なのか?
「えっと……これは、膝に乗っていい?……なのか。」
リーンは胡坐をかく形にしてくれた。
これ幸いと、膝の上に乗っかった。
やった。
「うわっ、あったけぇ……」
途端にリーンが幸せそうな表情をした。
よしよし。
「これは、確かに猫に癒されるっていう人が多いのも頷けるなぁ。」
よしよしよし。
その日、リーンはあたしの行動パターンを徹底的に研究していた。
あたしとしては、単にリーンと二人きり戯れていただけだったので、楽しかったが、リーンは結構真剣だった。
「おまえらは、結構、癖強な生活パターンしてるんだな。」
途中、そんなことを言われた。
こちらからすると、この世界の人間達の生活パターンのほうが、よくかわらないんだけど。
それで楽しかったのはよかったが、夕方になると眠くなってきた。
まだ子猫だからというのもあるかもしれないが、どうも猫になってから眠くなるのが早くなった気がする。
「……しばらく、静かにするか。」
あたしの様子を見て、リーンはそう言った。
「しばらく出かけるから、ゆっくり寝てな。」
「そっか。いってら……」
生返事をして、あたしはお気に入りのクッションで眠りに落ちた。
「ええー……」
リーンが帰ってきたと思ったら、またビアが一緒にいた。
「私が来ると、必ずその表情なの?」
リーンと二人きりでいたかったんだよ。
「それじゃあ、クロちゃんをシャワーしますので、お風呂場を借りますね。」
「えっ?」
リーンが訊き返す間もなく、ビアは来ていた上着などを脱ぎ始めた。
あっという間に、タンクトップに短パンという、薄着になってしまった。
生まれ変わっても、こういうところは豪胆なのは変わらねぇな。
「別に気にしないで下さい。夏場だったら、これに近いくらい薄着で外を歩き回っているので。」
リーンは気にしまくっている。
「さて、クロちゃん。嫌かもしれないけど、シャンプーするよ!」
シャンプーって何だ?
と思っていたら、突然リアが掴んできて、そのまま水場に連れていかれた。
「河瀬さん、昨日クロちゃん用のバスタオルも買ってあるので、用意しておいて下さい。洗い終わったら、お渡ししますので、拭いてあげて下さい。」
やめろ!
猫になってから、水をかけられるのは、なんか嫌なんだ!
「みぎゃー!!!」
「こわかった……」
恐怖の水浴びを終えると、あたしはリーンに手渡された。そのまま体を拭かれる。
「あら、甘えちゃってますね。」
もう、ビアには近寄らん。
「そうなっちゃうと、しばらく降りないと思うので、お弁当は私が用意しますね。」
一応、睨んでやったが、ビアは全く意に介することなく、晩飯の用意をし始めた。人間の時代から、こいつにはなんか敵わない。
「なんか、すみません。何から何まで……」
「別にいいですよ。クロちゃん、かわいいし。それに、どうせいつもは、店の二階の部屋で、一人でさもしく食べるだけなので。」
「一人なんですか?」
「ええ。」
そこから、晩飯を食べながら、ビアこと御船結花の身の上話が始まった。
両親を若くして亡くして、店を受け継ぎ、苦労しているそうだ。
ヴェサルの時代といい、どうもこの姫様は気苦労が多い境遇に見舞われるらしい。
「そんな、大変な状況とは露知らず、申し訳ありません……」
リーンが申し訳なさそうに謝った。
「いえ、気にしないで下さい。独りぼっちで店を経営して、独りぼっちで生活をしていて、ちょっと気が滅入りそうになっていたので。河瀬さんやクロちゃんと、こうしてご一緒できるのは、とても嬉しいです。」
まぁ、絶対にリーンをハンティングしにきてると、あたしは踏んでるけどね。
「そういえば、河瀬さんはここで一人暮らしをして、長いのですか?」
ビアが不意に話題を変えてきた。
「えっ、まぁ……それだけ大変な人生を送っている御船さんには、言いにくいのですが……」
と言って、今度はリーンの身の上話が始まった。
こっちのほうが情けない話だったが、ビアが気を悪くした気配はない。
「そんなに卑下することはありませんよ。何がつらくて、何が楽しいかは、人それぞれ違うものです。河瀬さんにとっては、平凡な会社勤めが、難しいことだっただけです。それは甘えではありませんし、逆に河瀬さんに向いている、他の人にはあまり真似できない、何かがあるかもしれませんよ。」
むしろ、ビアが諭している。
今回はビアのほうが年下のはずなんだけどなぁ。
「そう、ですかね。」
「ええ。当面はクロちゃんの面倒をみて、自分自身を見つめ直してみればいいのではないでしょうか。自分は何が好きで、何が嫌いで、何をしたくて、どうしていきたいのか……」
「それは……」
リーンがそこで言葉に詰まった。
「そっか……俺って、そんな生きていく上で、基礎的なことも、考えたことなかったんだな……」
「あっ、でも、それって、そんな変なことじゃありませんよ?私が去年までいた大学の同級生にも、そういうことがわかってない人は、たくさんいましたから。」
「そうですか?」
「ええ。むしろ、そういうことが明確に見えている人の方が、珍しいくらいでしたよ。私も何となく大学に通っていて、父の死に際して、強制的に考えざるを得なくなっただけですし。」
「あー、なるほど。」
なんかよくわからんが、リーンが納得している。
「何がなるほどなんですか?」
「いえ、すみません、こちらのことです。」
何かを誤魔化す為に、リーンはあたしを撫でた。
便利な使い方しやがって。
それから、ちょこちょこトイレなどを確認して、ビアは帰っていった。
「久々に楽しいなぁ……」
ビアを見送った後、リーンがぽつりとつぶやいた。
「これもクロのおかげだな。出逢って三日で、凄いなおまえは。」
どう致しまして。
「んじゃ、そろそろ寝るか。」
リーンが寝床に入っていった。
さて、邪魔者がいなくなったし、イチャイチャしようぜ。
あたしはおもむろに、リーンの枕元に鎮座してやった。
「……もしかして、一緒に寝たいの?」
「寝たいー」
リーンが掛け布団をめくったので、あたしは速足で飛び込んできた。そのまま、脇と腕の間に入り込んで、丸くなる。
「布団かけるぞー」
リーンは一言断ってから、布団を戻した。
「あー……これは、幸せだ……」
あたしも幸せだ。




