Side:猫2
原案:クズハ 見守り:蒼風 雨静 文;碧 銀魚
「……猫!?」
リーンはあたしを見て驚いたまま、固まってしまっている。リーンに皇太子だった頃の記憶が残っているのか知らないが、見た目が本物の黒猫になっちまったから、記憶があったとしても、あたしだとは思わないだろう。
「いいや、とりあえず入るぞ。」
あたしは部屋の中に入った。
部屋の内装も置いてあるものも、オブスタクルのものとは随分違う。布団やクッションなど、似たようなものはいくつかあるが、多分生活様式も随分違うのだろう。
でも、そのどれもから、懐かしいリーンの匂いがする。
猫になったせいか、この匂いが凄く落ち着く。
「あっ、おい!」
と、ここでリーンが後を追いかけてきた。
「お、おい、ちょっと、」
だが、リーンは生まれ変わってから猫を扱ったことがないのか、あたふたするばかりで、後をついてくるだけだ。
どうせ、あたしの言葉は「にゃー」とか「みゃー」にしか聞こえてないだろうから、状況を説明することもできない。
なので、先に落ち着ける場所を探しておく。
「よし、これだな。」
あたしが当てをつけたのは、足の短い机の前に置いてあったクッションだ。大きさといい、やわらかさといい、丸まって寝るにはちょうどいい。
あと、リーンの匂いがたっぷりしみこんでいる。
「えー……ちょっと待ってよ……」
リーンが座る場所に困ったみたいだが、これは譲れない。
まぁ、他にも同じようなクッションとかあるみたいだから、そっちを使ってくれ。
「嘘だろ、どうしよう……」
リーンがそう言いながら、こちらへ手を伸ばしてきた。
それが背中を変な風に掴んできた。
「いって!」
慌てて、前足で払いのけた。
猫の体は人間とは違って、敏感な場所と鈍感な場所が変に点在するのだ。
「うおっ!?」
魂消たリーンは、そのまま部屋の端まで飛びのいてしまった。
「どどどどど、どうしよう、どうすればいい!?」
そのまま狼狽し、リーンは掌サイズの板のようなものを操作している。
皇太子時代と違って、たかが子猫に狼狽えすぎな気がするが、どういう風に育てられてきたんだろうなぁ。
「そんなにビビるんじゃねぇよ。」
仕方がないので、あたしはリーンの足元に近寄り、母猫にしていたように頭を擦り付けてみた。
「……かわいい。」
リーンが呟いた。
ゆっくりと屈むと、こちらに手を伸ばしてくる。
その手があたしの頭を撫でた。
「うん、痛くない。」
伝わってるかわからないが、あたしはそう言ってやった。
「猫、必要なもの……」
先程から、リーンは掌サイズの板と睨めっこしながら、ずっとぶつくさつぶやいている。
クッションの上から眺めているが、何をやってるんだろう。
「まぁ、人間と一緒か。」
そう言って、板を机に置き、
「どーするかなぁ……」
また悩みだす。
多分、あたしに関することで悩んでるんだろうけど。
と思っていたら、不意に立ち上がった。
「……ちょっと買いに行ってくるから、おとなしく待ってろよ。」
それだけ言い残し、リーンは部屋から出ていった。
どうやら、お留守番らしい。
とりあえず、よく動いて疲れたので、リーンが帰ってくるまで、ここで寝よう。
あー、やっぱりこの匂いは落ち着くわ。
「ただいま。」
リーンが帰ってくる音と声で、目が覚めた。
「おっ、おかえり。」
多分「みゃー」にしか聞こえてないけど、一応言っておく。
帰ってきたリーンは、大量の荷物を持っていた。
それを袋から取り出し、次々とセッティングしていく。
「これでいいのかな。」
時々、掌サイズの板を見ながら、つぶやいている。
どうも、この国で猫を飼おうと思ったら、色々と用具が必要らしい。オブスタクルでも猫を飼っている奴はいたが、基本的に餌をやるだけで、放ったらかしだったが。
「おーい、餌だぞ。食べるかー?」
リーンがこちらに声をかけてきた。
確かに、母猫と離れてから何も食べていないので、お腹はペコペコだ。
見た目は砕いた菓子のようだけど、これがこの国の猫の食べ物なのか。
「う~ん……」
ちょっとこれは食えない。
何というか、胃がうけつけてくれない感じがする。
「マジかぁ……じゃあ、これはどうだ?」
リーンは別のものを出してきた。容器に入った具入りのスープのようなものだったが、こちらもちょっときつい。
「マジかぁ……あっ、待てよ。」
今度は牛乳らしきものを皿に入れて持ってきた。
だが、これも匂いで既にダメだとわかった。人間時代は普通に飲めたが、多分猫の体は受け付けない。
「マジかぁー……」
リーンはがっかりして、その皿に水を入れて持ってきた。
これは助かる。
とりあえず、これである程度は生きながらえることができそうだ。
せっかくリーンに再会できたのに、初日で死んでたまるかよ。
結局、水以外に何も進展がないまま、夜になってしまった。
リーンは腹が減ったのか、自分の夕食らしきものを用意しだした。
見たことない食べ物だが、お湯を入れるだけで食べれるらしい。
「どうした?」
じっと見ていたら、リーンが気付いて頭を撫でてくれた。
ようやく、頭を撫でるのにも慣れてきたらしい。
「う~ん……こいつに餌を用意できてないのに、自分だけ餌を食べるのは、罪悪感あるなぁ……」
撫でながら、そんなことを言っている。
こいつのこういうところは、生まれ変わっても変わらない。
「そういえば、名前どうしようかなぁ。」
ふと、リーンがそう言った。
そういえば、人間時代もあたしの名前を付けたのは、リーンだったな。
「名前、名前……えっ、名前ってどうやってつければいいんだ?」
戸惑い方も一緒だ。
「猫、子猫、小さい、いや、これはその内、大きくなるか……う~ん……」
そのまま悩むこと暫し。
「……クロ、とかでいい?」
「やっぱりそれかよ。」
予想はついたが、ネーミングセンスも前と変わっていない。
だが、リーンから再びクロと呼んでもらえるのが、たまらなく嬉しかった。
「そっか、それでいいか。必ず、明日は何とかするからな、クロ。」
「マジで、頼むぞ。」




