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街の本屋の泥棒猫  作者: 蒼碧
Episode:泥棒猫

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81/141

Episode:泥棒猫32

原案:クズハ  見守り:蒼風 雨静  文;碧 銀魚

 リーンは言われた通り、丘の上でお留守番をしながら、戦況を見て待っていた。

 壁が壊れてからしばらくして黒煙と炎があがり、オブスタクル側からも兵が出動しているのがわかった。

 だが、リーンはそれに違和感を覚えた。

「おかしい……兵の出動が早過ぎる。」

 完全に予想外の襲撃のはずなのに、オブスタクル城からの瞬時に兵が出てきている。事前に準備でもしていないと、この早さでは兵を徴収できないはずだ。

「リーン!」

 そこへ、クロが戻ってきた。

 先程とは違い、随分息を切らしている。

「クロ、無事でよかった。何かわかった?」

「それが……」

 クロは先程ヴェサルの兵から聞いた話と、ウェスタームの話を総合して説明した。

「……ってわけなんだが、もうあたしには何が何だかわかんねぇ。」

 クロが頭を抱えながらそう言うと、リーンはいつになく深刻な表情になっていた。

「情報戦を仕掛けられている。」

「情報戦?」

 クロは首を傾げた。

「多分、オブスタクルとヴェサルを争わせたい何者かが、双方に違う情報を流したんだ。」

「何者かって、誰だよ?」

 リーンはつらそうに目を閉じた。

「多分、黒幕はバアジだ。」

「バアジ……?あの、嫌味な弟か?」

 リーンは頷いた。

「恐らくバアジは、俺とクロが外に出るのをどこかで見ていて、クロが俺を誘拐したと、父上に報告したんだろう。それでビアは軟禁されて、もしもに備えて軍の準備をしていた。だから、奇襲攻撃にも拘わらず、すぐさま迎撃出来ているんだと思う。」

「じゃあ、ヴェサル側にはビアの軟禁と軍の用意の情報だけが届いて、勘違いしたってことか?」

 リーンは首を横に振った。

「いや……確証はないけど、先に知らせが届いたのは、ヴェサルのほうだと思う。今のヴェサルの軍事力から考えると、昨日辺りから準備しないと、今襲撃はできていないんじゃないかな。」

「じゃあ、始めからこの戦いを誘発するのが目的だったってことか?」

「ああ。バアジがやたらとヴェサルの軍事攻略と軍備予算の増強を言ってきていたんだけど、今にして思えば、軍事関係の業者と癒着でもしていたんだろう。それを俺とビアが、和平の方向へ舵を切ったから、こんな強硬手段に出たんだ。」

 政治を行う者にとって、癒着は諸刃の剣である。

 個人的な富を得られる代わりに、表沙汰になったり、利益循環がうまくいかなくなれば、一気に破滅に追い込まれることがある。

 バアジはそれを恐れたのだ。

「それにしても、してやられた。まさか、こんなことを利用されるなんて……」

 リーンは悔しそうに歯噛みした。

「何だ?どういうことだ?」

 クロが目を瞬かせる。

「ちょっと外へ出るくらいなら、大丈夫だと思っていたけど、それをこんな形で利用されるなんて……迂闊だった。」

 リーンの言葉を聞いて、クロはハッとした。

「やっぱり、あたしが……おまえを連れだしたから……」

 クロが呆然とつぶやいた。

「いや、クロが悪いわけじゃない!気付けなかった俺も迂闊だったし、何より悪いのは、これを仕組んだバアジだ。」

 リーンは慌ててフォローを入れたが、クロはそのまま俯いてしまった。

「あたしが勝手なことをしたせいで、街が……それに、キノばあさんも……」

「えっ!まさか、北の貧民街が!?」

 リーンは街のほうを見た。

 確かに、昼間行った辺りに火の手が見える。

「あたしのせいで、たくさんのキノばあさんも……たくさんの人が……」

 クロの目から涙が零れ落ちた。

「クロのせいじゃない!」

 次の瞬間、リーンはクロを抱きしめていた。

 クロは一瞬驚いたが、そのままリーンの胸の中で涙を流し続けた。

 ふと、リアの言葉が蘇った。

『結局、独り占めするしかないのよ。好きな人っていうのはね。』

『運命っていうのは残酷よね。もしあんたとリーンが同じ身分で生まれていれば、今頃二人は結ばれていたのかもしれないのに……』

『幸せだったはずよ。』

 このまま、何もかも投げ出して、二人だけで逃げ出したい……クロは本気でそう思った。

 誰も二人のことを知らない、どこか遠い場所まで逃げて、立場も罪も忘れて、ただの男と女になって、二人だけで幸せに暮らしていきたい。

 そうすれば、こんなつらいことは、もう二度と経験しなくて済む。

 そして、リーンを自分のものだけにできる。

 そうだ、リーンを独り占めできるのだ。

「リーン……」

 クロがつぶやいた。

「なに?」

 リーンが見ると、クロがゆっくりと顔を上げた。

「あたしはバカだから、どうすればこの状況を打開できるのか、わからねぇ……」

 その目には、まだ、涙の欠片が見える。

「でも、自分の不始末で人が死んだり、街が壊されたりするのを、黙って見てられるほど、辛抱強くもねぇんだ。」

「クロ……」

 クロは腕で涙を擦り取った。

 そうだ……リーンもビアも、こんな結末の為に頑張っていたわけではない。

 そして、クロを利用してこんなことを仕出かした連中を、放っておくなど、断じてできない。

「教えてくれ。どうすれば、この戦いを止められる?」

 涙をなくしたその目には、決意と覚悟が宿っていた。

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