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街の本屋の泥棒猫  作者: 蒼碧
Episode:泥棒猫

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80/146

Episode:泥棒猫31

原案:クズハ  見守り:蒼風 雨静  文;碧 銀魚

「おい、大丈夫か!?」

 クロは貧民街の中を叫びながら駆け回った。

 元々ボロボロだった貧民街は見る影もなく破壊され、あちらこちらで火の手があがっている。

 その中を、貧民達が大慌てで逃げ惑っていた。

「キノばあさん、ちゃんと逃げてるだろうな……」

 キノばあさんは足腰がそれほどよくない上に、子供達をたくさん抱えている。恐らくクロがフォローしなければ、逃げ切るのは難しいだろう。

 崩れた家の瓦礫や炎を掻い潜り、クロはようやく自分のあばら家へたどり着いた。

「あっ……!」

 だが、既にそのあばら家も半壊していた。

 しかも、その隣のキノばあさんの家に至っては、完全に崩れてしまっている。

「おい、キノばあさん!大丈夫か!?」

 クロは瓦礫の山と化したあばら家に飛び込み、片っ端から瓦礫をどかしていった。

「あっ!」

 瓦礫の隙間に、キノばあさんが面倒を見ていた子供達がいた。

 全員無事そうだったが……

「……キノばあさん……」

 キノばあさんは子供達を庇うような格好で、動かなくなっていた。

 呼びかけても、最早反応はない。

「くそっ……」

 クロは奥歯を噛み締め、頭を振ると、まだ年少の子供達を担いだ。

「とりあえず、ウェスタームのところに行く。ついて来い!」

 泣いている年長の子供達にクロは叫んだ。

 キノばあさんが命がけで守った子供達だ。何としても助けないわけにはいかない。


 何とか医院までたどり着いたクロは、ウェスタームに子供達を引き渡した。

「これは、どういうことなんだ?」

 ウェスタームが尋ねると、クロは首を横に振った。

「詳しくはまだわからねぇ。とりあえず、ヴェサル側はビアが人質に取られていると主張して、攻めてきてるのは間違いない。逃げる途中、オブスタクルの兵ともすれ違ったから、多分街の北のほうで、交戦してると―」

「そうじゃない!オブスタクル城からは、シービングキャットがリーン皇太子を誘拐し、ヴェサルへ連れ去ったという知らせがきているんだ!」

「何だって!?」

 クロは予想外の話に度肝を抜かれた。

「シービングキャットは実はヴェサル側の兵で、盗人のふりをしながらオブスタクルに潜伏し、密かに皇太子を攫う機会を窺っていた。そして今日、どういうチャンスがあったかわからないが、皇太子の誘拐に成功し、ヴェサルへ連れ去ったと、城の者達は話していたぞ。」

「ふざけんな!何であたしがヴェサルの刺客にされなきゃなんねぇんだよ!」

 クロは焦った。

 明らかに何かがおかしい。

「それはわかっている。私はおまえさんが子供の頃から知っているから、そんなわけはない。だが、今それをオブスタクルの兵に言うわけにはいかないんだ。」

 確かに、そんなことをすれば、ウェスタームも捕らえられかねない。

「……わかってる。」

 クロは悔しそうに頷いた。

「それから、ビア・ヴェサルが軟禁されたそうだ。」

「ビアが!?」

「ああ。皇太子がヴェサルに誘拐されたとなると、ビア・ヴェサルは何らかの形で関与している危険性が高い。だから、皇太子の弟のバアジが軟禁を指示したそうだ。」

 考えてみれば、当然の成り行きである。

「くそっ、どうなってんだ……!」

 やはり、何かがおかしい。

 だが、一つ確実に言えることがある。

「あたしがリーンを連れ出したから……」

 恐らく、それが引き金で何かが起きた。

 もしくは、利用されて何かが仕掛けられた。

 それは間違いなかった。

「ウェスターム、とりあえず―」

 クロが言いかけた、その時だった。

「あれは!シービングキャット!?」

 不意に近くで叫び声が上がった。

 見れば、武装したオブスタクルの兵が数人、こちらに走ってきている。

「とりあえず、子供達を頼む!」

 クロはそれだけ言い残し、その場を駆け出した。

 オブスタクルの兵達は全員鎧を着こみ、ロングソードと盾という重装備なので、動きは遅い。クロを追っては来るが、その差はどんどんと開いていく。

「あれなら、撒くのは簡単だな。」

 だが、その時だった。

 前方に違うデザインの鎧を着た兵が二人組で現れた。

「いたぞ!オブスタクルの兵だ!」

 これは、ヴェサルの兵だ。

「くそっ!」

 出会い頭に斬りかかってきたヴェサル兵の攻撃を上手く躱し、クロはその足元を掬って二人一緒に転ばせた。

 だが、その間に追ってきていたオブスタクルの兵が、すぐそこまで迫っていた。

「何で両方に追われなきゃならねぇんだよ!」

 クロはそう吐き捨てると、ヴェサルの兵の盾を奪った。

「貴様、リーン様をどこにやった!」

 オブスタクルの兵が斬りかかってきた。

 だが、クロはその刃を盾で往なし、態勢を崩したところで、思い切り顔面に盾を叩きつけた。

「がっ!」

 オブスタクル兵はそのまま後ろへ倒れ、後から来た兵が慌てて介抱に入った。

「貴様、盾を返せ!」

 一方のヴェサルの兵も、態勢を立て直し、クロに襲いかかろうとしている。

「ほらよ!返してやらぁ!」

 そのヴェサル兵に思い切り盾を投げつけると、クロはそのまま傍らの塀によじ登り、そのまま闇夜につつまれた路地裏へ消えていった。

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