Episode:泥棒猫31
原案:クズハ 見守り:蒼風 雨静 文;碧 銀魚
「おい、大丈夫か!?」
クロは貧民街の中を叫びながら駆け回った。
元々ボロボロだった貧民街は見る影もなく破壊され、あちらこちらで火の手があがっている。
その中を、貧民達が大慌てで逃げ惑っていた。
「キノばあさん、ちゃんと逃げてるだろうな……」
キノばあさんは足腰がそれほどよくない上に、子供達をたくさん抱えている。恐らくクロがフォローしなければ、逃げ切るのは難しいだろう。
崩れた家の瓦礫や炎を掻い潜り、クロはようやく自分のあばら家へたどり着いた。
「あっ……!」
だが、既にそのあばら家も半壊していた。
しかも、その隣のキノばあさんの家に至っては、完全に崩れてしまっている。
「おい、キノばあさん!大丈夫か!?」
クロは瓦礫の山と化したあばら家に飛び込み、片っ端から瓦礫をどかしていった。
「あっ!」
瓦礫の隙間に、キノばあさんが面倒を見ていた子供達がいた。
全員無事そうだったが……
「……キノばあさん……」
キノばあさんは子供達を庇うような格好で、動かなくなっていた。
呼びかけても、最早反応はない。
「くそっ……」
クロは奥歯を噛み締め、頭を振ると、まだ年少の子供達を担いだ。
「とりあえず、ウェスタームのところに行く。ついて来い!」
泣いている年長の子供達にクロは叫んだ。
キノばあさんが命がけで守った子供達だ。何としても助けないわけにはいかない。
何とか医院までたどり着いたクロは、ウェスタームに子供達を引き渡した。
「これは、どういうことなんだ?」
ウェスタームが尋ねると、クロは首を横に振った。
「詳しくはまだわからねぇ。とりあえず、ヴェサル側はビアが人質に取られていると主張して、攻めてきてるのは間違いない。逃げる途中、オブスタクルの兵ともすれ違ったから、多分街の北のほうで、交戦してると―」
「そうじゃない!オブスタクル城からは、シービングキャットがリーン皇太子を誘拐し、ヴェサルへ連れ去ったという知らせがきているんだ!」
「何だって!?」
クロは予想外の話に度肝を抜かれた。
「シービングキャットは実はヴェサル側の兵で、盗人のふりをしながらオブスタクルに潜伏し、密かに皇太子を攫う機会を窺っていた。そして今日、どういうチャンスがあったかわからないが、皇太子の誘拐に成功し、ヴェサルへ連れ去ったと、城の者達は話していたぞ。」
「ふざけんな!何であたしがヴェサルの刺客にされなきゃなんねぇんだよ!」
クロは焦った。
明らかに何かがおかしい。
「それはわかっている。私はおまえさんが子供の頃から知っているから、そんなわけはない。だが、今それをオブスタクルの兵に言うわけにはいかないんだ。」
確かに、そんなことをすれば、ウェスタームも捕らえられかねない。
「……わかってる。」
クロは悔しそうに頷いた。
「それから、ビア・ヴェサルが軟禁されたそうだ。」
「ビアが!?」
「ああ。皇太子がヴェサルに誘拐されたとなると、ビア・ヴェサルは何らかの形で関与している危険性が高い。だから、皇太子の弟のバアジが軟禁を指示したそうだ。」
考えてみれば、当然の成り行きである。
「くそっ、どうなってんだ……!」
やはり、何かがおかしい。
だが、一つ確実に言えることがある。
「あたしがリーンを連れ出したから……」
恐らく、それが引き金で何かが起きた。
もしくは、利用されて何かが仕掛けられた。
それは間違いなかった。
「ウェスターム、とりあえず―」
クロが言いかけた、その時だった。
「あれは!シービングキャット!?」
不意に近くで叫び声が上がった。
見れば、武装したオブスタクルの兵が数人、こちらに走ってきている。
「とりあえず、子供達を頼む!」
クロはそれだけ言い残し、その場を駆け出した。
オブスタクルの兵達は全員鎧を着こみ、ロングソードと盾という重装備なので、動きは遅い。クロを追っては来るが、その差はどんどんと開いていく。
「あれなら、撒くのは簡単だな。」
だが、その時だった。
前方に違うデザインの鎧を着た兵が二人組で現れた。
「いたぞ!オブスタクルの兵だ!」
これは、ヴェサルの兵だ。
「くそっ!」
出会い頭に斬りかかってきたヴェサル兵の攻撃を上手く躱し、クロはその足元を掬って二人一緒に転ばせた。
だが、その間に追ってきていたオブスタクルの兵が、すぐそこまで迫っていた。
「何で両方に追われなきゃならねぇんだよ!」
クロはそう吐き捨てると、ヴェサルの兵の盾を奪った。
「貴様、リーン様をどこにやった!」
オブスタクルの兵が斬りかかってきた。
だが、クロはその刃を盾で往なし、態勢を崩したところで、思い切り顔面に盾を叩きつけた。
「がっ!」
オブスタクル兵はそのまま後ろへ倒れ、後から来た兵が慌てて介抱に入った。
「貴様、盾を返せ!」
一方のヴェサルの兵も、態勢を立て直し、クロに襲いかかろうとしている。
「ほらよ!返してやらぁ!」
そのヴェサル兵に思い切り盾を投げつけると、クロはそのまま傍らの塀によじ登り、そのまま闇夜につつまれた路地裏へ消えていった。




