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街の本屋の泥棒猫  作者: 蒼碧
Episode:泥棒猫

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79/141

Episode:泥棒猫30

原案:クズハ  見守り:蒼風 雨静  文;碧 銀魚

「なんだ!?……うわ!」

 リーンが驚いている間に、クロはその手を掴み、既に走り出していた。

 そのままリーンの手を引っ張り、クロは全速力でその場を離れていく。

「く、クロ!何が起きたんだ!?」

「知るか!とにかく逃げる!状況把握はその後だ!」

 緊急時の判断の速さは、クロのほうが圧倒的に上である。リーンはそれ以上口答えせず、手を引かれるまま、足を動かすことに専念した。


 クロとリーンは西の端にある、小高い丘まで走ってきた。

 いつもは走らない距離を走らされた上、丘を駆け登ったので、リーンは息も絶え絶えだった。

 一方、クロは息一つ切らしてしない。

「どうなってんだ、あれ……」

 クロが目を凝らしながら、先程轟音と砂煙が上がった辺りを見ている。

 かなり距離は離れた上、日暮れがきてしまったので、詳細がよく見えない。

 だが、砂煙が収まってくると、その様相が辛うじて見えてきた。

「おい、壁が崩れてるぞ!」

 クロが叫んだ。

「なんだって!?」

 途端に、へたりこんでいたリーンが立ち上がった。

 ちょうど門があった位置が、その門ごと崩れていた。その壊れた門と壁の近くには、大きな岩が見える。

「投石器だ!大きな投石器で、大岩を当てて壊したんだ!」

 リーンが瞬時に状況を分析した。

「こっち側に大岩があって、投石器みたいなもんは見えねぇ……ってことは、ヴェサル側から岩を投げてきたのか。」

「そんな!今は停戦中で、しかもオブスタクル側にビアがいるのに!何でそんなことを!?」

「ビアと、ヴェサルの王に騙されたんじゃねぇのか?」

 クロが胡乱そうに言ったが、

「いや、それはない。」

 クロの仮説をリーンは即座に否定した。

「何で言い切れるんだ?」

「ビアがオブスタクルの城内にいる状況で、そんなことを仕掛ければ、ビアは城内で粛清されて終わりだ。そもそも、ビアがオブスタクルに来る必要がない。」

「そりゃ、そうか……となると、ビアが死んでもいいと思ってる喧嘩っ早い奴が、何らかの理由で攻めてきたってことか?そんな奴いるのか?」

「……恐らく、エクスプロイトの仕業だ。」

 その名前には、クロも聞き覚えがあった。

「ああ、ビアが女王になるのを阻んでた、武闘派の将軍か。」

「そうだ。だが、国王が亡くなったわけでもないし、いくらビアが邪魔だといっても、それで殺されかねない状況にまでするのか……?」

 どうにも状況が不可解だ。

 その上、事態は緊迫していて、一刻の猶予もない状態。

 これはかなりまずい。

「材料が足りねぇな。直接訊いてくるか。」

「えっ?」

 リーンが顔を上げると、クロが壊れた門のほうを指さした。

 薄暗い中、ヴェサル側から何十人もの兵が雪崩れ込んできているのが見えた。

「おまえはここで待ってろ。あの兵を一人取っ捕まえて、状況を吐かせる。」

「そんな!危険だよ!」

「大丈夫だって!」

 クロは素早く黒装束に着替えると、リーンの静止を振り切り、丘を駆け降りた。


 クロは街中に戻ると、路地裏から様子を窺った。

 ちょうど、この前のお披露目会で行進があった通りは、武装した兵に占拠され、周辺住民が逃げ惑っていた。壊された門からは、まだ何十人もの兵が入ってくる。

「急がないと、やばそうだな。」

 クロはたまたま路地裏近くを歩いていた兵に忍び寄った。

 ちょうど兵士がクロの横を通りかかったとこで、物陰から首を掴んで引き倒す。

「うおっ!?」

 クロは抵抗を許さず、そのまま兵士を路地裏の中へ引きずり込んだ。

「な、何だ貴様!」

「騒ぐな。殺すぞ。」

 クロは兵の首筋に短刀を突き付けた。

「何で急にこちらに攻めてきた?おまえらの姫様が、まだこちらにいるだろ。」

 クロが尋問すると、兵は憎々しげに顔を歪めた。

「貴様らがビア様を人質にとったから、奪還に来たのだ!白々しいことを言うな!」

「人質?どういうことだ?」

 クロからすると、寝耳に水である。

「貴様らが和平を口実にビア様を誘き出して城に軟禁し、今夜ヴェサルに軍事攻撃を仕掛けるとの知らせがあったのだ!だから、こちらも大至急で準備し、先制攻撃を仕掛けたのだ!」

「はぁ!?なんだそれ!?」

 クロは密かに城に出入りして、ビアにも直に会っていたが、とてもそんな気配はなかった。

 第一、リーンがそんなあくどいことを企てるとは思えない。

「そんな卑劣な手段をとるなど、我がヴェサルは断じて容認できぬ!」

「バカかおまえら!ふざけんな!」

 クロは兵の頭をぶん殴り、気絶させてそのままそこに捨て置いた。

 状況は思った以上に緊迫している。

「一旦、リーンの所に戻るか……あたしじゃ判断がつかねぇ。」

 クロがつぶやいた、その時だった。

 突如、爆発音が響き、近くで火花と黒煙があがった。

「火薬か!?」

 音がした方を見ると、赤い炎が立ち上ってきた。どうやら、ヴェサルの兵は、街を火薬で破壊、炎上させるつもりらしい。

 その爆発の方向を見て、クロは青ざめた。

「おい……あっちはまさか!」

 クロはすぐさま、炎が上がった方へ駆け出した。

 あの位置は、北の貧民街がある辺りだ。

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