Episode:泥棒猫20
原案:クズハ 見守り:蒼風 雨静 文;碧 銀魚
翌日はちょうど三人とも都合が悪く、お茶会をできないとのことで、クロは西の貧民街へ出向くことにした。
面倒な仕事は、さっさと終わらせるに越したことはない。
「確か、街の端っこだったな。」
問題の武器屋は、貧民街の最奥にある古びた屋敷だ。
その昔は、どこかの金持ちが住んでいたらしいが、この貧民街が形成されると同時期に、その金持ちが死んで、そのまま放置されているそうだ。
名目上は空き家だが、そこでコソコソと武器を売り捌いている連中がいるというのは、貧民街では有名な話だ。
直接的にはクロは関わっていないので、放っておいたのだが、それがこんな形で災いするとは思っていなかった。
「あれだな。」
クロは物陰から屋敷を覗いた。
荒れ放題になった、大きな屋敷が見える。
パッと見したところ、人の気配はないが、屋敷の敷地内には、不自然な木箱が大小色々と置いてある。
「武器の売買をやってるのは、間違いなさそうだな。」
クロは屋敷に忍び寄ると、あえて入口を避けて、屋敷の裏側の塀をよじ登った。
そのまま、屋根に飛び移り、二階の割れた窓から中に侵入する。
「……マジかよ。」
侵入したのは空っぽの部屋だったが、中はまったく荒れていなかった。
むしろ、下手な屋敷より、よく掃除がされている。
だが、家具の類が一切置かれていない。
「思ったより、大掛かりにやってるのかもな。」
そうなると、王族の暗殺などという、大それたことに利用されたという説にも、真実味が出てくる。
「誰もいないよな……?」
クロは扉に耳を当ててみる。
とりあえず、廊下から物音などはしない。
慎重にドアを開けると、隙間から廊下を見回す。
「うん、誰もいねぇ。」
そのまま廊下に出ると、屋敷の中央に向かって進んでいった。その廊下も綺麗に掃除されており、やはりただの廃墟ではない。
そのまま、エントランス付近まで来たが、クロはそこで足を止めた。
一階のほうから、人の気配がしたのだ。
「……やっぱり、誰かいるのか。」
クロは物陰に身を隠し、一階の様子を窺った。
「当たりだな。」
エントランスには、ずらりと木箱が並べられている。
いくつかは蓋が開いており、剣や盾のようなものが見える。
だが、遠目なので、中身の詳細は判然としない。
そして、その箱の合間合間に、何人か見張りと思われる男が立っている。
「こりゃ、箱の中身を確かめるのはムリだな。まぁ、ここまでわかれば十分だろ。」
クロはそう判断して、元来た道を戻ろうとした。
だが。
「おーい、誰か二階の部屋の窓を触ったか?」
不意にエントランスにそんな男の声が響いた。
見張りの男達が一斉に振り向く。
見れば、クロが侵入した部屋のほうから、男が一人やってきていた。
廊下の物陰に隠れていたクロには気付いていないようだが、そのまま駆け足でエントランスのほうへ向かっている。
「今日は誰も入ってないと思うぞ。」
見張りの一人が答えた。
「二階の西の部屋のガラスが、わずかに割れて落ちていた。誰かが触ったかと思ったが。」
クロはしまったと思った。
確かに、窓を通る時、割れたガラスの破片を少量床に落とした。だが、本当にわずかな量だったので、気にせず来てしまったのだ。
「その為に、使ってない部屋まで綺麗にしてあったのか……!」
クロは歯噛みした。
「誰も触ってないとすると、まさか侵入者か?」
「わからんが、念の為に探してみるか。」
クロの背筋に冷たいものが走る。
これは非常にまずい。
「くそっ!警備がガチ過ぎるだろ!」
幸い、クロの侵入に勘付いた男は、エントランスへ降りていってしまっている。
逃げるなら、今がチャンスだ。
クロは物陰から飛び出すと、あえて先程の部屋に戻った。
そのまま、窓に飛びつき、今度は割れたガラスに触れないようにして、外へ飛び出した。
屋敷の中のバタバタとした音が聞こえてきたが、クロは構わず全力で屋敷から離れた。
「ったく、リアの頼み事に関わると、碌なことがねぇ!」
クロは走りながら、一人毒づいた。




