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街の本屋の泥棒猫  作者: 蒼碧
Side:人

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29/141

Side:人26

原案:クズハ  見守り:蒼風 雨静  文;碧 銀魚

 莉愛と丸山による大量発注から3日後の土曜日。

 修一のマンションから、私物の運び出しが行われることになった。

「この前も思ったけど、物すっくなー」

 部屋を見回してぼやいたのは莉愛だった。

 結花は店の営業がある為、莉愛が代わりに手伝いにきたのだ。

「男の一人暮らしはこんなもんだよ。物集める系の趣味があったら、話は別だけどな。」

 修一は憮然としながら答えた。

 ここからの引っ越しを、莉愛に勝手に決められたので、若干機嫌が悪い。

「そう不機嫌のならないでよー。悪いと思ってるから、手伝いに来てあげたんじゃない。」

 莉愛は普段とは違い、地味な色のジャージ姿だ。髪もポニーテールにしてまとめ、アクセサリー類も一切つけていないので、見た目はスポーティーな少女に見える。

「あれ?爪まで普通にしたの?」

 爪からは、いつものデコレーションが消え、短く切り揃えられている。

「あれは付け爪。こういう活動してると、意外と指使う作業が多いし、デコってたら、食品系の案件とか受けられないこともあるから、取り外し可能なやつにしてるの。」

「へぇ……そういうもんか。」

 やはり、影響力のあるインフルエンサーともなると、ただ遊びの延長でやっているわけではないらしい。その意識は、修一達が仕事に向けているものと、何ら変わらない。

 真剣に“華やかで楽しい”を作り出しているのだ。

「じゃあ、始めよっか。」

「そうだな。」


 修一のマンションから御船書房までは、近いといっても300メートルほど距離があるので、今日はレンタカーを借りている。

 ちなみに、免許を持っているのは修一。

 前職で営業車を使うこともあったので、車の運転自体は慣れている。

「といっても、数か月ぶりだから、緊張するなぁ。」

 レンタルした軽トラを運転しながら、修一はつぶやいた。

「頼むから、事故らないでよね。」

 隣に座る莉愛が釘を刺した。

「わかってるって。気が散るから、話しかけないでくれ。」

 運転している修一は、過去一真剣な表情で、それが却って莉愛の不安を煽るのだった。


 元々の荷物が少なく、しかも完全な引っ越しではなかったので、軽トラ2往復で全て運び終えてしまった。

 それを裏口から、御船家二階へ運び込んでいく。

 作業自体は、書店業務で鍛えられて、そこそこ動きがいい修一と、元々超絶要領がいい莉愛の活躍で、昼過ぎにはほぼ終わってしまった。

 だが、一番最後になって、懸案事項が発生した。

「ベッド、どうしよう……」

 それはベッドの置き場所だった。

 ベッドを持ってきたはいいが、リビングに入れてみると、思ったよりスペースを食ったのだ。

 御船家の部屋は、いつも修一が寝泊まりしているリビングキッチンと、結花が自室にしている寝室の二つだけである。だが、リビングにベッドを置いてしまうと、食卓やクロの用品を置くスペースがなくなってしまう。

「寝室に置かせてもらえばいいじゃん。」

 頭を抱える修一に、莉愛は事も無げに言った。

「いやいやいや!じゃあ、御船さんはどうするんだよ。」

「おんなじ部屋で寝ればいいじゃん。」

「いやいやいや!」

 確かに結花の寝室は、古くは彼女の両親と彼女自身の三人が使っていたものなので、修一のベッドを置くスペースはある。

 だが、年頃の男女が同じ部屋で……というのは問題がある。というか、主に男側が問題視されてしまう。

「毎日同じ部屋とか、御船さんが嫌に決まってるだろ!」

「修一君は?」

 急に莉愛が切り返してきた。

「えっ?」

「だから、修一君は、結花ちゃんと同じ部屋は嫌なの?」

「いや、じゃ、ないけど……」

「じゃあ、結花ちゃんに訊いてくるわ。」

 そう言うや否や、莉愛は一階に降りていった。

 3分後。

「いいってさ。」

「マジで!?」

 莉愛はさらっと言ったが、修一は驚愕するしかなかった。

「じゃあ、さっさと運びこもっか。」

 莉愛はさっさと作業を始めようとしたが、修一は慌てて止めた。

「待て待て待て!本当にいいって言ったのか?毎晩、同じ部屋で寝ることになるっていうことも、説明した?」

「したってば。もう1時過ぎてるから、早く終わらせてお昼ご飯にしたいんだけどー」

 莉愛にとっては、ただベッドを部屋に運び込む作業に過ぎないかもしれないが、修一としては、人生初の一大事だ。

「ちょっと、俺も確認してくる!」

 修一は莉愛の冷たい視線を無視して、一階に駆け降りた。

「御船さん、ベッドの件、本当にいいの?」

 急に降りてきた修一に、少々驚きながらも、結花は頷いた。

「ええ、ウチは狭くて、他に場所はないし、私は別に構わないので。」

「でも、その、毎晩、一緒に……」

「河瀬さんなら、別に大丈夫。」

 結花はにこっと笑った。

 その笑顔を前に、修一はそれ以上何も言えなかった。

「そういうことなら……お邪魔します。」

「はい。」

 結花に可愛く返され、なぜかドキドキしながら、二階へ戻った。

 一連の様子を、クロが呆れたような顔で見ていたが、修一は気付く余裕がなかった。

「ベッド、寝室に入れておいたよー」

 二階に戻ると、莉愛がもう作業を終えていた。

「……」

 本当に、さっさと昼ご飯を食べたかったらしい。


 修一と莉愛は、そのまま御船家の二階で遅めの昼食を食べ始めた。

 結花が気を利かせて、二人分の昼食を用意しておいてくれたので、それをレンジ温めて食卓に広げる。

「いやー、作り置きでも結花ちゃんの料理っておいしいわー!」

 莉愛は大喜びだ。

「これから、毎日これが食べれるんでしょー?羨ましいわー」

「いやまぁ、忙しい時とかは、俺も食事の用意くらいはするよ。書店の経営の負担は御船さんのほうが重いわけだし、本格的にお世話になるからには、もうちょっと支えるようにするよ。」

 修一がそう言うと、莉愛が珍しい動物でも見るような目を向けてきた。

「うわ、立派なこと言ってる。立派過ぎて、嘘っぽい……」

「なんでだよ。」

 修一が思わずツッコミを入れた。この辺りの気安さは、従妹同士ならではだ。

「そういえばさっき、ベッド入れるのをやけに拒んでたけど、実際のとこ結花ちゃんのこと、どー思ってるの?」

 不意に莉愛が、変なところを切り込んできた。

「えっ、どうって、何が……」

「好きじゃないの?」

 ズバリ言われて、修一は言葉に詰まった。

「それは、その……好きじゃないって、言ったら、嘘になるけど……」

「ふぅ~ん、なんで?」

 莉愛の追及は、意外と容赦がない。

「いや、その……多分、俺のことを必要だって言ってくれた、初めての人だから、かな。」

 対して、修一の言葉はたどたどしい。

「でも、あたしも修一君のところの伯父さん伯母さんも、いなくなっていいとは思ってないけど?」

「それは、家族とか親族はそうなんだけど……家族以外の人に必要とされるのは、また違うっていうか……」

「それ、中学生とか高校生とかで理解することじゃないの?」

 莉愛の指摘は手厳しい。

「そうかもな。俺は多分、こういう性格だから、そういうのをスルーしてきちゃったんだよな。そんな俺を始めて必要としてくれた存在がクロで、更に初めて必要としてくれたのが、御船さんだったんだ。」

「じゃあ、そのクロ公とも、結花ちゃんとも今日から一緒に暮らすんだったら、ラッキーハッピーじゃん。何を躊躇ってるの?」

 修一は目を伏せた。

「だからこそ、嫌われたくないんだよ。もし、御船さんに嫌われて、ここを追い出されたら、もう立ち直れる気がしない。」

 次の瞬間だった。

 修一の頭を莉愛がぶっ叩いた。

「いてっ!何すんだよ?」

「それ、謙遜してるつもりか、自己嫌悪か知らないけど、結花ちゃんに失礼なこと言ってるって、わかってる?」

 珍しく、莉愛の顔が笑っていない。

「えっ……」

「結花ちゃんって、修一君が多少失敗したり、変なことしたりしたら、即追い出すような、冷たい人だと思ってんの?」

「いや、そんなわけないだろ。」

「でも、修一君は今、そう言ったよ。」

 莉愛に指摘されて、修一はハッとした。

 言葉尻を捉えれば、確かにそうだ。

「えっと、そんなつもりは、なくて……」

「わかってる、修一君がそんなこと思う人じゃないことはね。でも、それはあたしが子供の時から知ってるからわかるのであって、出逢ってまだ一年経ってない結花ちゃんは、わからずに傷つくかもしれないよ。」

 莉愛の指摘は鋭かった。

 それだけに、修一の不安が一気に掻き立てられた。

「えっと、どうすれば……」

「修一君、めちゃくちゃ気を遣って、ここにいると思うけど、遣い方をもうちょっと考えな。あと、下手な謙遜をやめる、自信を持つ、以上。」

 莉愛はあっさり改善点を断定した。

「気の遣い方って……」

「今みたいに、気を遣いすぎると、変な方向に曲がることがあるの。気遣いって、相手あってものなんだから、その相手が本当にそういう風に気を遣ってほしいかを、常に念頭に置いておきなさい。その基本を常に忘れないこと!」

「下手な謙遜とは……」

「謙遜は美徳とされるけど、何でもかんでも謙遜しとけばオールオッケーになるほど、人間関係は甘くないってこと。過ぎた謙遜は、修一君を評価してくれてる人に対して、その評価は間違ってるって言ってることになるんだから、そこまで考えてその謙遜が必要かどうか、考えな。」

「自信は……」

「以上二つは、修一君の自信がない故に発生してるから、今回、任された通販で本を売りまくって、ちゃんと自信をつけなさい。ただし、慢心はしちゃダメ!自信と慢心は似て非なるものだから、ちゃんと区別はつけること。」

「それって、どう違うんだ?」

「自分が出来る範囲をちゃんと把握せずに出来ないって思ってるのが、自信のない人。自分の出来る範囲をしっかり把握して、その出来ることを精一杯やったり、更に出来ることを広げていこうっていうのが、自信がある人。出来もしないことを、努力もしないで出来る、もしくはいつかは出来ると思ってるのが、慢心してる人。」

 修一が自覚すらしていなかった人生の問題点や疑問を、莉愛はさも当然のように答えていく。2歳も年下の女の子に、理路整然と言われている姿は、滑稽ですらあった。

「ほかに質問は?」

 修一の言葉が途切れると、莉愛が訊いてきた。

「いや、とりあえずは、ないです……」

 なぜか敬語で修一は返した。

「そう。じゃあ、同棲生活がんばってね。いざとなったら、クロ公も助けてくれるとだろうし、あたしも相談に乗るから、大丈夫だよ。」

 莉愛はそれだけ言って、いつものように、にこりと笑った。

 どうやら、お説教はこれで終わったようだ。

「みー……」

 以上の様子を、ご飯を食べに来たクロが、どこか呆れたような表情で見ていた。

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