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街の本屋の泥棒猫  作者: 蒼碧
Side:人

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30/146

Side:人27

原案:クズハ  見守り:蒼風 雨静  文;碧 銀魚

 引っ越し作業の後、莉愛は家具や物の設置まで手伝ってくれて、ちゃっかり夕飯までご馳走になってから帰っていった。

 その後、二人は一緒にテレビを見たり、クロの写真を撮ったり、それぞれ風呂に入ったりして過ごしていたが、だんだんと夜は更けていった。

「じゃあ、そろそろ寝ようか。」

 風呂に入ったあと、パジャマ姿になった結花が、おもむろに言った。

「あの、俺、やっぱりリビングで寝ようか?」

 修一は恐る恐る言ったが、結花はハハハと笑ってみせた。

「大丈夫だって。」

 結花はまったく意識していないのか、普段通りだ。

 それが逆に修一の不安を煽る。

「じゃ、じゃあ、それなら……」

 リビングを出ると、修一は結花の後について、おずおずと寝室に入った。

 途端に結花立ち止まった。

「あれ、これ……」

「どうかし……あっ!」

 修一は思わず叫んだ。

 ベッドが二つ、くっつけて置いてあったのだ。確か、離して部屋の両端に置いてあったはずなのだが。

「莉愛の仕業だな、あいつ!」

 修一は大慌てで、ベッドを離した。

「あの、これはあくまで、莉愛の悪戯なんで!決して、そういうことではないので!」

 せっかく風呂に入ったのに、汗だくになりながら、修一は必死に説明した。

 だが。

「河瀬さん、私と近くで寝るのは嫌?」

 突然、結花がとんでもないことを言った。

「えっ?」

「なーんて。」

「えっ?」

「別に気を悪くしてないよ。」

「えっ?」

「みゃーーーーーーーーーーーー」

 不意に結花と修一の間に、クロが割って入ってきた。

 普段はリビングで修一と一緒に寝ていることが多いのだが、今日は寝室についてきたらしい。ドアを開けっ放しで喋っていたので、その間に忍び込んでいたようだ。

 一瞬、結花とクロが見つめ合ったが、すぐに結花が笑顔に戻った。

「クロちゃん、河瀬さんと寝る?」

「みゃ」

「じゃあ、初日だし、譲ってあげる。」

「みゃ」

 一鳴きして、クロは修一のベッドに飛び乗った。そのまま修一を見つめ、早く来いと促してくる。

「じゃあ、電気消すよ。お休みなさい。」

「あっ、はい、おやすみ……」

 結花が電気を消したので、修一は自分のベッドに慌てて潜り込んだ。その後、クロが布団の中に潜り込み、ゴロゴロと喉を鳴らし始めた。

「眠れるかな……」

 修一はクロを撫でながら、結花に聞こえないようにつぶやいた。


「結花ちゃんは、ちょっといい子過ぎ。」

 結花にズバリと言ったのは、莉愛だった。

 実は今日の昼間、引っ越し作業の合間に、莉愛は結花のほうにも説教をしていっていたのだ。

「えっと、私はそんなにいい子なのでしょうか……?」

 結花は戸惑いながら、尋ねた。

「正確に言うと、修一君の前で優等生を演じ過ぎ。確かに、下心丸出しの人間はどうかと思うけど、ただ真面目なだけの聖人君子は、付き合ってて面白くないよ。せっかくここまでお膳立てしたんだから、小悪魔になってみてよ。」

 莉愛の言っていることは正論なのだが、最後が結花にとっては無理難題過ぎる。

「小悪魔って、どういう……?」

「ん~、例えば、ベッドを同じ部屋にしたから、一緒に寝てもいいよとか?いや、それだとストレート過ぎて、修一君が引くか。あいつ、女慣れしてないからなぁ。」

 莉愛は腕を組んで考え始める。

「多分、超絶恥ずかしがるだろうから、『そんなに恥ずかしがるなんて、あたしのこと嫌いなの?』とか言ってみるとかかな。」

「それは、引かれたりしないんでしょうか?」

「多分、ライン的にはちょうどいいと思うけど?」

 それが正解なのかどうかが、結花には判別がつかない。

「嫌われたり、はしたないって思われないでしょうか……?」

「大丈夫、それは絶対にないから。万が一があれば、あたしが責任を持って、何とかするし。」

 莉愛は平然と言ってのけた。

 まぁ、確かに莉愛なら、話がこじれても何とかしてしまいそうな気はする。

「でも、小悪魔っていうのは……」

「在庫五倍、二人だけで処理できそう?」

 思わぬことが、人質ならぬ物質になった。

「……えっと、がんばって、みます。」

 とりあえず、この手の話での莉愛の信頼度は高いので、信じてみることにした。

 というか、結花に拒否権はなかった。


「正解ではあったみたいだけど、クロちゃんが見事に邪魔したなぁ……」

 結花は布団の中で一人つぶやいた。

 暗闇に目が慣れてきたので、修一のベッドのほうを覗き見たが、クロは修一の脇に入り込んだ体勢で、じっとこちらを見張っている。

 どうやら、莉愛仕込みの結花の魔の手から、修一を死守するつもりらしい。

「私が小悪魔なら、クロちゃんは小さな天使だね。」

 結花はそうつぶやいて、今日は大人なしく寝ることにした。


 ちなみに、修一は一睡もできず。

 翌日の日曜日は御船書房の二階で、一日ぐったりして過ごすこととなり、その夜は結花のことを意識する余裕もなく寝落ちした。

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