Side:人27
原案:クズハ 見守り:蒼風 雨静 文;碧 銀魚
引っ越し作業の後、莉愛は家具や物の設置まで手伝ってくれて、ちゃっかり夕飯までご馳走になってから帰っていった。
その後、二人は一緒にテレビを見たり、クロの写真を撮ったり、それぞれ風呂に入ったりして過ごしていたが、だんだんと夜は更けていった。
「じゃあ、そろそろ寝ようか。」
風呂に入ったあと、パジャマ姿になった結花が、おもむろに言った。
「あの、俺、やっぱりリビングで寝ようか?」
修一は恐る恐る言ったが、結花はハハハと笑ってみせた。
「大丈夫だって。」
結花はまったく意識していないのか、普段通りだ。
それが逆に修一の不安を煽る。
「じゃ、じゃあ、それなら……」
リビングを出ると、修一は結花の後について、おずおずと寝室に入った。
途端に結花立ち止まった。
「あれ、これ……」
「どうかし……あっ!」
修一は思わず叫んだ。
ベッドが二つ、くっつけて置いてあったのだ。確か、離して部屋の両端に置いてあったはずなのだが。
「莉愛の仕業だな、あいつ!」
修一は大慌てで、ベッドを離した。
「あの、これはあくまで、莉愛の悪戯なんで!決して、そういうことではないので!」
せっかく風呂に入ったのに、汗だくになりながら、修一は必死に説明した。
だが。
「河瀬さん、私と近くで寝るのは嫌?」
突然、結花がとんでもないことを言った。
「えっ?」
「なーんて。」
「えっ?」
「別に気を悪くしてないよ。」
「えっ?」
「みゃーーーーーーーーーーーー」
不意に結花と修一の間に、クロが割って入ってきた。
普段はリビングで修一と一緒に寝ていることが多いのだが、今日は寝室についてきたらしい。ドアを開けっ放しで喋っていたので、その間に忍び込んでいたようだ。
一瞬、結花とクロが見つめ合ったが、すぐに結花が笑顔に戻った。
「クロちゃん、河瀬さんと寝る?」
「みゃ」
「じゃあ、初日だし、譲ってあげる。」
「みゃ」
一鳴きして、クロは修一のベッドに飛び乗った。そのまま修一を見つめ、早く来いと促してくる。
「じゃあ、電気消すよ。お休みなさい。」
「あっ、はい、おやすみ……」
結花が電気を消したので、修一は自分のベッドに慌てて潜り込んだ。その後、クロが布団の中に潜り込み、ゴロゴロと喉を鳴らし始めた。
「眠れるかな……」
修一はクロを撫でながら、結花に聞こえないようにつぶやいた。
「結花ちゃんは、ちょっといい子過ぎ。」
結花にズバリと言ったのは、莉愛だった。
実は今日の昼間、引っ越し作業の合間に、莉愛は結花のほうにも説教をしていっていたのだ。
「えっと、私はそんなにいい子なのでしょうか……?」
結花は戸惑いながら、尋ねた。
「正確に言うと、修一君の前で優等生を演じ過ぎ。確かに、下心丸出しの人間はどうかと思うけど、ただ真面目なだけの聖人君子は、付き合ってて面白くないよ。せっかくここまでお膳立てしたんだから、小悪魔になってみてよ。」
莉愛の言っていることは正論なのだが、最後が結花にとっては無理難題過ぎる。
「小悪魔って、どういう……?」
「ん~、例えば、ベッドを同じ部屋にしたから、一緒に寝てもいいよとか?いや、それだとストレート過ぎて、修一君が引くか。あいつ、女慣れしてないからなぁ。」
莉愛は腕を組んで考え始める。
「多分、超絶恥ずかしがるだろうから、『そんなに恥ずかしがるなんて、あたしのこと嫌いなの?』とか言ってみるとかかな。」
「それは、引かれたりしないんでしょうか?」
「多分、ライン的にはちょうどいいと思うけど?」
それが正解なのかどうかが、結花には判別がつかない。
「嫌われたり、はしたないって思われないでしょうか……?」
「大丈夫、それは絶対にないから。万が一があれば、あたしが責任を持って、何とかするし。」
莉愛は平然と言ってのけた。
まぁ、確かに莉愛なら、話がこじれても何とかしてしまいそうな気はする。
「でも、小悪魔っていうのは……」
「在庫五倍、二人だけで処理できそう?」
思わぬことが、人質ならぬ物質になった。
「……えっと、がんばって、みます。」
とりあえず、この手の話での莉愛の信頼度は高いので、信じてみることにした。
というか、結花に拒否権はなかった。
「正解ではあったみたいだけど、クロちゃんが見事に邪魔したなぁ……」
結花は布団の中で一人つぶやいた。
暗闇に目が慣れてきたので、修一のベッドのほうを覗き見たが、クロは修一の脇に入り込んだ体勢で、じっとこちらを見張っている。
どうやら、莉愛仕込みの結花の魔の手から、修一を死守するつもりらしい。
「私が小悪魔なら、クロちゃんは小さな天使だね。」
結花はそうつぶやいて、今日は大人なしく寝ることにした。
ちなみに、修一は一睡もできず。
翌日の日曜日は御船書房の二階で、一日ぐったりして過ごすこととなり、その夜は結花のことを意識する余裕もなく寝落ちした。




