Hookah and cigarettes 2
階段の上の煙草の魔女が文字通り煙になって掻き消える。
次の瞬間、水が弾け飛ぶ音、そして地面に罅がいく音が響く。
水の魔女の真後ろに現れた煙草の魔女がただの煙管を振り下ろしただけだ。
だが、ただそれだけが恐ろしい威力を発揮している。
赤く、紅く、光る瞳。
怒りに身を任せた一撃。
それは振り向いた水の魔女の鼻を掠め、そのまま風圧で吹き飛ばした。
太い柱に大きな音を立ててぶつかる水の魔女の進退すら気にせず、煙草の魔女はシス警部の元に走り寄る。
「シス君ッ……シスくっ……!?」
駆け寄った先にいたのはシャツとスラックスを履いた腹に穴を開けた小型のジャヴァウォッキー。
タバコの魔女の脳裏にさまざまな言葉が交錯する。
偽者、囮、自分を殺させる為だけの。
なら、本物のシス君は一体どこにーー
「本当に私より、その男の方が大切なんだ。」
鼻血を垂れ流し、立ち上がる水の魔女。
煙草の魔女は紅い瞳を燃やし、敵意を持って水の魔女を睨め付けた。
「彼を何処にやった。」
「教えても良いけど、その前に質問に応えて。」
あからさまにイラついた表情を煙草の魔女がする。
「何?」
「貴女が私の姉さんよね?」
煙草の魔女の眉間に皺が寄る。
「何度もいった、わたしは違う。」
「まだ、嘘をつくの?」
「嘘じゃない、わたしは貴女の姉とは違う。」
いつもの口調と打って変わり苛つきを全面に押し出しながら煙草の魔女が言葉を吐き出す。
「…うん、そうだよね、多分貴女は違う。
でも、でもね? 私の体が、心が!
貴女が姉さんである事を小屋で会った時から否定させてくれないのよ!」
煙草の魔女が舌を打つ。
「……もう良い、これ以上わたしの邪魔をするのならーー」
「殺す? 殺してくれる?」
水の魔女から口から出るのは上擦るような声。
嬌声とでも言っても構わない艶のある声。
「まさか、貴女の望みなんて叶わせない。
殺さず煉獄にぶち込んでやる。」
水の魔女が嬉しそうに歪む。
「確認よ、シス君を何処にやった?」
水の魔女は答えない。
黒く細い帯を巻いただけの素足に近いその足が地面を強かに打ち付ける音が広い空間に反響する。
と同時にシガレットの体が白煙に変わり爆発する。
「またそれ?」
水の魔女の余裕綽々のその言葉を無視するように、白煙は濃さを保ったままに、広大すぎる空間の7割を飲み込み、その後3割程まで凝縮され形を確定させる。
固定化されたソレ、としか言いようのない真っ白な存在が姿を表す。
ソレは直径10メートルはある巨大な頭の形をしている。
だが、顔があるべき場所には大きな横線が2本あるだけであり、髪が生えているように頭部についているのは全て、巨体のジャヴァウォッキーよりもなお巨大な腕であり、その先に付いている指の一本一本がそれぞれ腕になっている。
頭だけの異形と呼ぶのも烏滸がましい、冒涜的な何かがそこに顕現していた。
「起きろ。」
煙草の魔女の言葉と共に縦に並んだ横線が、文字通り、開く。
目が二つ。
ギョロギョロと瞳を動かし、ソレは眼前にいる水の魔女を見据えた。
煙草の魔女が取り出したのは黒い煙草。
本来鉄の粉を煙草の葉の代わりに詰めただけのそれは、魔女が鉄を整形する為だけに吸われる筈のそれを人差し指でソレにズブズブと埋め込む。
次いで赤の煙草と茶色の煙草が頭の中に放り込まれる。
水の魔女の喉がなる。
「荒らせ。」
煙草の魔女の冷たいその言葉と共に、ソレの無数の腕つきの腕が伸び動き始める。
ソレこそ雨のように、腕が水の魔女の上から降り注ぐ。
腕を握り込んだ拳が100は上から降るが、それを辛うじて水の魔女が避ける。
各それぞれの拳が広げられ、掌らしき場所についていた拳が捻り曲がりながら地面を這いつつ水の魔女に襲いかかる。
ソレに一本ずつ、紡錘状の水を操り地面に丁寧に水の魔女が打ち込んでいく。
笑う、笑う、とても楽しそうに。
瞳を歪めながら、口を歪めながら。
「ねぇ、姉さん? まだ、まだでしょ?
もっともっともっともっと、私のために殺意を向けて!」
ソレの上でアリアナの様子を見下していた煙草の魔女が、今度は膨れ上がる。
白煙で身を包みながら、自ら巨体へと変わっていく。
「はっ、あはっ、あっはははははははぁっ!」
満面の笑みを浮かべながら、絶望的な巨体に水の魔女は突撃を敢行した。




