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Hookah and cigarettes 1

ライターの位置が止まった。

地下奥深く、放水路の放水路たる所以の場所に今彼はいる、と思う。

目の前に巨体、足の隙間を通り抜ける。

通り抜けた瞬間に真上から拳。

霧散し背後に抜ける。

私の蒔いた煙草の種に反応があった事から4人は抜け出せていると見て良いだろう。

つまり、後はシス君を連れ戻せば勝ちだ。

目の前から3本の舌。

鉄煙を吹きかけ一纏めに。

鉄が地面にぶつかる良い音が鳴り響く。

足止め以外にも使いたいからできるだけ減らしたく無いが、このちんまいのは油煙を落とした私と同じくらいのスピードで追いかけてくる。

彼女1人だけでも面倒なのに、少なくとも数十体、いや、百体は居そうなコイツらをマトモに相手するのは馬鹿らしい。

とは言っても残りは少なくなっているかもしれない。

チェルシーを欠いた彼等も割と善戦し、かなりの量を蹴散らしてくれていた。

仮に百体近くいたとしても、残りは10体かそこらだろう。


…しかし、慮外の方向にこんなにもアリアナが異能を成長していたのは恐れ入った。

本来なら、今までの魔女の成長傾向を見るに、水量の増加や、水質の変更、水分の凝固やら気化辺りが成長としては妥当なところだった筈なのに、血液を水に変えることで無理やり自分の造った肉体を操る方向ばかりが強化されている。

一体どんな世界を歩んでいたのだろうか。


恐らく姉が去ってからの41年間でとてつもない地獄を味わったのは間違いない。

人の悪意に触れ、人の澱みに触れ、人を信用できなくなり、それでもなお、いない筈の姉の影を追い続けてきた。

そこで、何を見たのか、何を聞いたのか、何をされたのか、わたしはおろか姉にも分からないだろう。

高さ5メートル程ある階段を飛び降り地下4階に降りる。

目の前には暴虐の跡と、切断、刺殺された遺骸の死体が転がっている。

変な言い方だが、そうとしか言えない。

遺骸を繋ぎ合わせて造られた物の死体、だから遺骸の死体。

天井から、飛びかかってくる小型の遺骸。

死角を取ったつもりだろうが、残念ながら見えている。

右に半歩ずれて、思いっきり蹴りを入れる。

壁に叩きつけられ、こちらを見る為に上げた頭を鉄煙をくっつけた足で思い切り踏み潰して、また遺骸を死体に変える。

潰れた首先から出てくる水。

これでまた、使えない煙が増えた。

ここを元に戻す分も考えたいが、正直厳しいかもしれない。

だが、この場所で起こった全てを何事もなかったようにしておきたい。


この街は異質だ、それ故に彼女の言っていた「この街を壊す」なんてことを許してはいけない。


 40年前、ここに来た。

その時はこの周辺には特段魔女の話がないだけだと思った。

わたし的には好都合な話だった、誰にも知られずに準備が出来る、誰の記憶からも消えることが出来る。

魔女を名乗っても気狂いか好きものとして処理される。

わたしの目的には非常に好条件である、としか言いようのない土地で盲目になっていた。

19年前、シスくんの一件があった。

あからさまに異質な状況だった、鉄で囲まれた孤児院、中にいた子供と運営者達の損壊では済まない程に陵辱された死体。

この一件で、ここの人たちも魔女を知り、わたしを疑い出すのでは無いかと微妙な思考が働いた。

だが19年の間、特に何も無かった。

私に嫌疑がかかる事も、何時ぞやの時代のように魔女狩りに会う事も。

いつもと同じように、煙草を売り、納品していた。


それにも関わらずこの間シス君から聞いた、他の人間がかの一件を忘れていると言う言葉。

何故か、本当におかしな事にこの街……いや、この島からは一部を除いて魔女の存在が消されている。

それも一度や二度では無いのだろう、テストケースのような形で何かの技術が流用されているかもしれないと思い、この間その懸念を呼び出した彼方に伝えた。

が、彼からは「今追っている内容と被ってるかもしれんなぁ……キヒッ、面白いのぅ」というクソみたいな言葉だけが返ってきた。

当事者であったシス君すら、その意識が枯れ消える程に、自身の記憶を怪しまざるを得ない程度にこの記憶の管理は徹底されている。

ここ数日の間、それなりに探ってはみたものの、何一つ情報は出てこなかった。

ロークタウン歴史館や中央図書館、イーストサイド図書分館、ノースパーク歴史分館にも立ち寄り本を読み漁り、書庫内も禁書庫内にも入り探ってみたものの、魔女が関与したと思わしき事件、事故に関しては綺麗に別の事件に置き換えられていた。

ロークタウンの孤児院で起こったあの事件もこの間のウェストサイド廃棄区画の一件に関しても、数年前に起こっていた自称魔女の詐欺事件すらも。

…まぁこの前の一件に関してはイースタンの小僧が気を利かしたと言う可能性も無くはない。


 だが、それ以外の内容に関してはそう言うレベルを超えている。

19年前の事件は未だ彼が軍属だった頃の話だ。

それに、彼との親交はかなり深い。

が、それだけでは心配だったので彼の邸宅にもう一度寄り話は聞いてみた。

19年前の事件を覚えているのか、魔女と言う存在を知っているのか。

答えは「イエス」だった。

何故彼は忘れていないのかも聞いた。

彼は「答えられない」と言った。

理由を聞いた。

彼は「時が来たら答えるから待っててください、貴女に不義を働いているわけではないんです。」と答えた。

詰まるところ、貴族であり警察署長であり救国の英雄である彼はさらに上の何かからその件に関して話してはいけないと言われているのだろう。

恐ろしいまでに強力な『誓約』を突きつけられているのかもしれない。

壁に耳あり障子に目あり、その言葉の通り誰かに聞かれている可能性があるのかもしれない。

兎も角、彼には話せない理由があるのだろう。


だから逆にそれが答えになっている。

彼の武力を持ってしても抑えきれない存在が、恩を感じてるわたしの質問に答えられない程の人質を取っている。

つまりは国か、世界か。

彼の言論を封じることができる程の勢力がいるということだ。

そしてその存在は記憶を操る術に長けている可能性がある。


だからこそ、彼女の、水の魔女であるアリアナ・クローネ・トリアイナの破壊の痕をこの場に残すわけにはいかない。

この間、クラリスの死体を持ち去った二人組のこともある。

死体を持ち帰る理由はいくつか考えられる。

単に魔女の存在を隠しておきたい。

だが、それだけなのであれば死体はただの人間と変わらないから放っておいても問題ない。

だからまずこれはあり得ない。

逆に魔女の存在を公表したい?

否、これもイースタンの小僧を止める力を持つものに握り潰される可能性がある。

シス君が言っていた蘇生の魔女とやらがもし本当にいるとして、死体を集めて軍隊でも作ろうとーー……いや、そんな甘い考えではいけないかもしれない。

最悪の可能性を考えるのであればーー。


……人間側が、魔女の死体を兵器に転換する方法をすでに確立している。

記録の魔女、レコーディア・アーカシーという存在もいた。

例えば彼女の異能を使えば、人々の記録を切り替えることもできる可能性はある。

吐き気を催すほどの奸悪かんあくがいる可能性がある、などとできれば考えたくはないけれど、それこそが人間であるとも言える。

私としては人を愛しているから居て欲しくはない、それでもあり得ないとは言い切れない。

なんせ人間は同族を殺すためだけにどんどんと兵器を生産していく、同族殺しに特化した存在なのだから。

1人を殺す剣から、遠間から自分は死なず相手を殺すために生まれた槍、更に遠くから射掛けて殺すための弓、大量に殺すために生まれた投石器、大砲。

安全圏からそれなりの至近距離で殺すために用意された戦車に、未来を乗せるために造られた飛行機械に爆薬をのせて落とす悪辣な爆撃機、戦争が終わっても残り続け四肢を奪い続ける地雷、指一本で大量虐殺を行える核なんて云う物まで作って、漸く人は兵器の作成に一息ついた。

だからこそ、自身の慮外の存在である魔女なんてものが露見したその日から、魔女狩りを彼等は行い、最終的に行き着く果てが魔女の死体を扱いその異能を使う術だったとしても何らおかしくは無い。

こんな考え、できれば当たっていてほしくはない。

ほしくはないけれど、あり得ないともやはり言い切れない。


だから、出来ればこの場所を何もなかったかのような状況に戻し、彼女を奪われずにこの一件を終わらせたい。

…そう考えている内に特に襲撃もなく気づけ六角形の巨大なハンドル付きの扉の前。

足形に凹んでいるが、やけになった小型の遺骸が蹴ったといったあたりだろう。

シス君の死体も転がっていないことから逃げおおせているのだと信じたい。


ふぅ、と一息つき赤いハンドルに手をかけ、グルリと回して、中で惨状が起きていない事を祈りながら重厚な扉を開ける。


ギィィィィイイイイイィィィッ。

ガコンッ。

あまり耳にしたく無い音。


…中には特に何も無い。

強いて言うなら逆側の扉が開き、この中よりも明るい光が点っている程度。

シス君はこの先だろうか…?

ライターの場所的には合っている筈だけど……?


扉の向こうから微かに聞こえるコレは……鼻歌?

高い、女の。

まさかーー!


開いている扉に駆け込み階段から下を見る。

12本の直径10mはある柱の中心。

どうやって、ここにわたしより先に来た?


「姉さん。」


今まで見てきた巨体よりさらに巨大な遺骸の上に座る彼女と、その隣で直立不動のままでいるシャツにスラックスの男。

こちらを視認し立ち上がる少女。


「待ってたよ。」


その言葉と共に水を尖らせ、男に突き刺す。

払い飛ばされて、男が柱の裏に消える。

ライター自体は柱の裏から感じる。


「さぁ、私を殺して?」


そこまでか。

そこまでするのか、アリアナ・クローネ・トリアイナ。

今、貴女はわたしの逆鱗を踏んだ。

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