キレイ・ハーデン
「綺礼、なんてこんな事をした!」
俺に向いて咆哮しているのは、トワイライトレイヴンの指揮官、藤原杏だ。
彼女の存在もまた、俺が反乱を起きた理由の一つだ。
どう見てもただの女子高生のくせに、俺らレイヴンの指揮を取るのはさすがに冗談にもほどがある。
ビラード、ゲキリン、そしてコーバーキミル。彼らも俺と同じ考えであった。
何かあったのは知らないが、あのシンとの連絡は繋げられない。どこかに消えただろう。
これはいいチャンスだ。残り二人、広一と顕衛は俺の相手に足りない。むしろ最初から気に入らないところだ。
俺らの存在は、主の敵を全て排除すべきだ。その中には個人の意志は要らない。なのにあの三人は自己意志が持つ過ぎた。これは邪魔しかなれないことを知ったはずだ!
まあ、もうどうでもいいところだ。
「あの二人は逃げたぞ、指揮官さまよ」
俺はこの元指揮官に無情の話を吐いた。
「キレイ、ちょっと遊んでもいいじゃねえ?女がこんなに多いのに、遊ばないと損になるぞ」
「この外道!逆鱗、見損なったぞ!」
ぱ!!
綺麗な叩き声だ。
「まだ状況をわからないのか?指揮官さまよ。今のお前もただの弱女子にしかねえだろ!」
逆鱗は彼のコードネムに相応しい挙動をしたが、これ以上やったら、まずいことになる気がするから、俺はあいつを阻止した。
その頬にある赤っている掌紋は痛そうだが、俺とは無関係だから無視した。
リンリンリンリンリンリン
室内電話が響いている。
「はい、どなたですか?」
「綺礼、やろうか」
まさかあのシンの声だ。しかしいきなり挑発するのはさすがに上策ではないと思う。
「いやだと言ったら?」
そうだ、主導権はこちらにある。だから向こうからの提議も無視したいところが、そうやって聞いた瞬間、俺が持っている受話器は誰かの射撃によって粉砕した。
正確無比な狙撃だ。そうか、これは俺宛の挑戦状か。ここまでの実力者なら、受け入れるしかない。
デンディンデンディン
今度は俺の携帯か。誰かからのは考える必要はない。
「シン、さっきのはヒロイチじゃないよな」
「正々堂々にやろうぜ、一方がやられたまでに人質に手を出すなよ」
「これは面白い」
逆鱗は「どうする」の目で俺に聞かれたが、今の俺は「勝手な事をするな」しか答えられない。さっきの狙撃は威嚇でなければ、今の俺らは既に死体になったはずだ。
電話が切ったから俺は考え始めた。
そいつは何者だ!この辺の狙撃に使える場所は全て監視しているはずだ。まさかあいつは俺以上の狙撃者なのか?しかし俺は生まれたから才能を持つ、そして改造された化け物。三千メートルは普通のスナイパーにとってはほぼ不可能の距離だが、俺には楽だ。それに監視範囲は半径四キロメートル内全ての場所、これ以上は狙撃不可能だから。
念のため監視員たちに連絡を取ったが、誰も消えていない。
つまり相手は監視範囲外からの狙撃。
弾道を調べたら相手の位置を確認できるが、今は窓に接近するのは愚策だ。
「報告!アーチャー、バーサーカー、キャスターを確認した。正門外一百メートルです」
連絡システムから監視員の報告、いつの間にかこんなに近くなっている?
相手の狙撃のせいで、俺は先手を失った。
でもこれも面白い!
「コーバーキミルとビラードを呼んで、戦争だ」
「あいつらを解決したら、女との遊びはいいだよな」
本来であれば、それは構わないが、今はお前はその時まで生きられることだな。まあ、最初からこいつの理解能力を期待してない。所詮は脳みそまで筋肉化したバカに過ぎない。
正直、広一と顕衛の方がより正しく作戦に合わせるから、今以上の心強いんだが、あの二人はシンと同様、人性を保有しているから、俺がやりたいことを許さないんだろ。
「運がいいな、指揮官さまよ」
「いきなり弱気になって、お前らしくない」
正直、年を無視したら、杏はいい指揮官の部類に入れる。この正確な状況判断もそれを証明している。
「確かに。でもさっきの狙撃はご覧になったはずだ。俺たちの偵察範囲外からの狙撃だ」
「なのに今お前はワクワクしているじゃない?」
「さすが指揮官、よくわかっているな」
「しかしお前以上の狙撃者は存在しているはずは…」
「実は昔から、上から聞いたことがあった。世界最強の狙撃者の事」
そうだ。その噂は既に耳に入っていた。だからワクワクしてのも当然だろ。
「ほう?」
「どっちにしろ、これもいよいよこの短いリベリオンと言う茶番の幕を下がろう」
「綺礼、君は一体…?」
おそらくこの瞬間で、杏は俺が考えている事を見抜いただろ。
「じゃな、指揮官殿」
俺は愛用のスナイパーライフルを持つ、射撃ポイントへ向いた。
よろしくお願いします




