大罪人は言った
一月以上空いてこの字数……まぁ、物語は続きます。
「―――――ッ!!」
電撃が走るような痛みが全身を襲った。
異物が流れ込み、血を逆流して肉体そのものを組み換えようとするチカラは、止めどなく注ぎ込まれる。
「ああそうだ、安心してくれていいよ。まだそのチカラは馴染まないし、擬似的に魔力の補填をしているんだ。代わりに身体が張り裂けるような痛みを感じるだけで問題ないからね」
アレスは軽い口調で励ますように言う大罪人の言葉の殆どを聞き取れずにいた。
思考は全て痛みに割かれて、その苦痛を耐える事しか頭にない。そもそも身に起きた異変が、耐性のない身体の内ということもあり、拒もうという意思が強く、結果として何もかもを拒んでしまおうとしていたのだ。
「いやいや、意識は手放さないでくれよ。生憎、僕には時間がなくてね。さっさとお話したいから、これで最後、我慢してね」
「――――ッ、ガアアアアアアァァア!!!」
「あっ、やば」
先程から大罪人の手から発していた紫炎の光は、より激しさを増して、一気にアレスへ流れ込む。明らかな過剰供給だ。
アレスはついに痛みに耐えきれず、腹の底から吠えた。
その声に釣られてだろう。
森の奥から野生の影が現れる。月光の下に現したのは、先程、アレスとフェイを逃してしまった黒毛の大狼だ。
その血走った目は怒りを示し、まるで敵意しかない唸り声を聞いて、大罪人は間の抜けた顔で呟いた。
「……魔獣に顔を覚えられるとか、君はつくづくそういう星の元に生まれたらしいね」
£
――夢を見ていた。
年不相応に濃密な経験を経たアレスにとって、今は遠い過去の記憶。
『凄いわアレス! 貴方には魔法の才能がある! これからお母さんが一から十まで持てる限りの全部の知識を教えれば、大賢者だって夢じゃないわ!』
『いいや、アレスには剣の才能の方がある! 相手の動きを捉える洞察力に、瞬時に頭を働かせてそれを実行し得る繊細な動き、なによりも俺の剣速について来られる瞬発力は明らかに剣士寄りだ! というかお前は研究者なだけで実践的なことは教えれないだろ!』
はじめての父との模擬戦は一分と持たずに敗北した。しかし、終わってみれば父と母は興奮したようにアレスに詰め掛け、言葉では争うようにアレスの未来を語っているが、その実態はアレスの頭を強く撫でたり、しゃがみこんで強く抱きしめたりと、笑顔に溢れた幸せな光景だった。
それはアレスの原点となっている。
かけがえのない幸せの記憶は、アレスが正義を志すキッカケとなった。期待された時の喜びは、もう一度褒められたいという承認欲求となって、より強くなろうと決心させられた。
しかし、その記憶は今は遠い、古いものだ。
父と母は死んだ。後ろ盾をなくしたアレスは大人たちの卑劣な欲望により底辺に落とされ、遠く遠くへと逃げ延びているうちに掃き溜めと呼ばれるスラムでの生活にたどり着いた。
町を歩けばそこの住人たちに「ゴミ」と罵られ、警備兵たちに追われる日々。
自らが志した正義はそこになく、寧ろ、その正義によって自らを貶めた人間たちを守ることに疑問を持った。せめてもと自分の正義に従って、同じ境遇の子供達を守ることを誓い、町の外へ出て狩をするその日暮らしで生きてきた。金は触れることすら叶わなく、下手に持っていれば取り上げようとする人間が後を絶たない。
そんな糞ったれな生き方をしているうちに、初めに笑顔を忘れた。次に優しさを忘れて、恐怖に震えることすらなくなった。
そうやって失っていくうちに、優しい記憶すら無くしてしまいそうで、それが一番の恐怖だった。
だから宝物のように大切にしまい込んだ記憶を毎日のように思い出し、正義を忘れることはなかった。
決して悪に手を染めない。その意思を貫き通して、およそ三年。
「凄いな少年。僕が断言しよう。君はいつか世界を滅ぼし得る悪になれる!」
自分を認めてくれた正義の対極にある人間に、はじめて気を許してしまった。
それはアレスが志した道に、大きなひび割れを残すことになる。
この世界の常識
○魔力譲渡について……魔力は基本、固有の特性を持っている。それは血の違いと密接で、兄弟であれば多少の苦痛はあっても魔力譲渡をすることが可能とされている。しかし、赤の他人に譲渡することは実質不可能と言われており、死にも等しい痛みを受けると言われている。死亡事故例多数。禁忌指定技術。
次回で幼少期終了かな……?
ブクマありがとう!
2018/11/03 アレスが痛みに耐えきれず叫ぶ場面、先の展開のため大罪人にドジっ子属性を追加しました。
大罪人が当初の構想より愉快な人になってて作者的に面白い発見です。既にプロットと別ルートを進んでますが、プロローグの終着は見えてますのでご安心を。あとは妄想を具現化させる文章力の問題です




