表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/19

吉兆

 私たちは指宿枕崎線の列車が発着する一番線ホームにやってきました。




「さすがは南国鹿児島やな。太陽光線が凶器のように目に刺さるで」




 あずさはカバンにぶら下げていたタイガースのキャップを被りました。セーラー服に野球帽、完全に野球部の女子マネージャースタイルです。うーむ、実に似合ってるなあ。


 このボーイッシュな美少女、毎年のバレンタインデーには彼女の元に学校中の女子から大量のチョコレートが送り届けられるのです。本人は「何でやねん……」と毎度困惑していますが、私にとってはコバンザメのようにチョコのおこぼれにありつける嬉しい日であります。




 さて、一番線の線路はホームの付け根で行き止まりになっており、ここに指宿枕崎線の0キロポストが立てられていました。




「わっ、これですねっ」


「確かに『0』と書かれているわね」


「よーし、撮ったよ!」




 後は明日、門司港駅の0キロポストを撮影すればミッションコンプリートですね。




□鹿児島中央13:10 → 普通列車 → 喜入(きいれ)13:49




 では、指宿枕崎線で更に南を目指しましょう。


 私たちは『なのはな色』に塗装された、キハ200形気動車に乗り込みました。




「南国っぽい鮮やかな色合いやな」


「わたくし好みのいい色ですっ」




【遥香の車両解説・キハ200系】

挿絵(By みてみん)

 JR九州の一般型気動車キハ200系は、老朽化した国鉄型気動車の後継車両として一九九一年に初期型が登場しました。その後も細かい仕様変更を重ねながら増備され、九州の非電化路線の新しい顔としてすっかりお馴染みの車両になりました。運転台が片側一方にある車両が200形、単行運転が可能な両運転台の車両が220形と形式が分けられています。

 デビュー当初は福岡県の筑豊地区で運用されていましたが、現在では長崎、熊本、大分、鹿児島の各地区で快速・普通列車として活躍しています。

 また、所属地区によって異なる塗装が施されており、熊本及び大分所属車両は基本塗装の赤、長崎はシーサイドライナー色の青、鹿児島はなのはな色の黄色と、地区ごとに様々な色彩のキハ200系を見ることができます。




 さて、鹿児島中央駅を出発した黄色い気動車は、錦江湾の対岸に大隅半島を望む海沿いの線路を軽快に走って行きます。瀬々串駅を出てしばらくすると、車窓には巨大な建造物群が見えてきました。




「あれは何でしょう?」


「でっかいタンクが並んどるな」


「喜入の石油基地だね。世界最大級の規模らしいよ」


「世界中からここに石油が集まり、またここから日本各地へ運ばれていくのね」




 資料によると、日本で消費される約二週間分の石油備蓄能力があるそうです。一体どれくらいなのか見当も付かない量ですね。




「怪獣さんに襲われたら大変です」


「海から上陸した怪獣が、手始めに石油タンクを破壊するのは定番やからね」




 石油は大切な資源ですので、怪獣さんにはそこんとこを配慮していただきたいですね。




 やがて線路は海から少し離れ、列車はメダル駅の喜入に到着しました。




☆駅メダル獲得!

喜入

50ポイント




 喜入駅は『喜びが入る』という語呂の良い駅名で、この駅の入場券は縁起物として人気があるそうです。駅舎にもその旨が告知されていますね。


 どうか私たちにも喜びが入りますように……。




「駅前の植え込みにおったで~」


「石油タンク型のモンスターね」


「何だか太鼓みたいなオバケさんです」




◎鉄道クイズ・喜入

問題 JR九州のキハ220形の中で、唯一片側二枚ドアの車両は?


A キハ220 1

B キハ220 204

C キハ220 1102

D キハ220 1503




 ぬおおっ、これは難問です……!


 220形の中で、『快速なのはなDX』用の二枚ドアに改造した車両が、たった一両だけ存在するのは知っているのです! しかし、その車両番号までは……。




「天王寺さん、難しそうだけど大丈夫!?」


「時間がありませんっ」




 ううっ、こうなったら彼女の直感に賭けるしかない!




「あずさ! BかCのどっちだと思う!?」


「よっしゃ! これがあたしのジャスティスや!」




 あずさは力強くCをタップ!




○正解!

ボーナス獲得!

20ポイント




「やったで!」


「諏訪さん、凄いわ!」


「あずささんは英明果敢ですっ」


「ふう、何とか凌いだぞ……!」




 みんなとハイタッチで喜びを分かち合いました!


 それにしても難しい問題でした。


 220形には存在しない『1』と、大分地区で走っているロングシートの『1503』を除外して、何とか二択にまでは絞りましたが、最後はあずさの野生の勘に託したのです。




「あずさ、何でCだと思ったの?」


「そらCが光って見えたからやんか」




 直感力を極めると、そんな不思議な能力が身に付くのでしょうか……?


 ともあれ、あずさ大明神のお陰で何とかクイズの連続正解記録を伸ばしました。このまま最後まで突っ走ってやるのです。




挿絵(By みてみん)




 喜入からは折り返しで、また鹿児島中央に戻ります。




□喜入14:02 → 普通列車 → 鹿児島中央14:46




「さっきのクイズも、天王寺さんは二択まで絞り込んでいたのよね? それだけでも凄いわ」


「えへへ、最後はあずさに丸投げしたけどね」


「怖いわあこの子……。もしあたしが外してたら、罰として指の爪を二、三枚剥がされてたんやろな……」


「人を鬼畜みたいに言わないでよ。私は心からあずさを信じてたよ!」


「はるか……。あたしもあんたを信じてるからね!」


「美しい友情ですっ」




 こっそりラスクを用意していたのは秘密です。




「それにしても天王寺さんの鉄道知識には感服するわ。鉄道は昔から好きだったの?」


「うん、幼稚園の頃には近所にあった車両センターの常連だったよ」


「金網にへばりついて見てたら、センターの人がお菓子くれたりしたやんな」


「二人組の女の子がやたら頻繁に見学に来てるって、センターで噂になってたらしいね」


「あたしはお菓子目当てやったけどな」




 車両センターで列車の入出庫や車両の入れ換え作業を見ていると、運転士さんが手を振ってくれたり、軽く汽笛を鳴らしてくれたりしました。私たちはそれが嬉しくて無邪気にはしゃいでいたものです。私にとって列車の運転士さんは、誰よりも格好いいヒーローなのでした。




「やっぱり好きなものに熱中すると、それだけ知識も深くなるのね」


「そうかもねえ。嫌々ながら学校の勉強しても、全く身に付かないもん……」


「好きこそ物の上手なれ、とはよく言ったもんやな」


「わたくしは食べることが大好きなので、沢山食べられるようになったのだと思いますっ」


「鹿島さんは世界一を目指せると思うわ」


「うん、間違いないね!」




 人は誰でも、何かひとつは好きなもの、得意なものがあるはずです。それに夢中になって一心不乱に打ち込めば、やがて新しい道が開けるかもしれませんね。


 私も大好きな鉄道を極めるために頑張ります!




挿絵(By みてみん)




 鹿児島中央駅に戻ってきたら、次は鹿児島本線の南端区間の乗りつぶしに掛かります。




□鹿児島中央14:49 → 普通列車 → 川内15:38




 上り普通列車は木場茶屋こばんちゃや駅に着きました。ここは山合の小さな駅、ホームで待っているお客さんは誰もいないように見えたのですが……。




「わっ、猫さんが乗ってきましたっ」


「ホンマや、カワイイなあ~」




 一匹の三毛猫が開いたドアから車内に入り、慣れた感じで私たちの向かい側のシートに座ったのです。




「まあ、こんなこともあるのね」


「無賃乗車だね。悪い奴め」




 猫は私たちのことなど素知らぬ顔で毛繕いをしています。大胆不敵なドラ猫です。




「あら、この三毛猫は雄だわ。珍しいわね」


「雄の三毛猫さんは珍しいのですか?」


「うん。何かの本で読んだことがあるんだけど、毛色因子の組み合わせの関係上、三毛の雄は突然変異でしか生まれないらしいのね。確か数万分の一くらいの確率だったかな」


「へえ~、かなり稀少な存在なんやね」


「そう聞くと、何だか高貴な猫に見えてきたよ」




 自身が実に稀有な存在であることを知ってか知らずか、三毛猫君はシートの上で呑気に寝そべっています。




「大航海時代、猫は船の守り神として、どの船にも必ず乗せられていたそうよ。ネズミ狩りという実務も兼ねてだけどね」


「猫さんもお仕事をしていたのですね」


「中でも雄の三毛猫は『幸運の使者』として、船乗りの間でとても人気があったらしいの」


「そうなんだあ。じゃあ、この子も私たちにとって幸運の使者かもしれないね!」


「ふふ、そうかもね」




 列車が次の隈之城駅に着くと、幸運の御猫様は一言「にゃーん」と仰って列車を降り、どこかへ去って行きました。心なしかその後ろ姿は神々しくさえ見えました。




挿絵(By みてみん)




 さて、普通列車は終点の川内駅に到着です。昨日訪れたのは夜だったので駅周辺のお店はほとんど閉まっていましたが、今日は駅に隣接しているお店で鹿児島名物の薩摩揚げを買うことができました。




「んまーい! やっぱ本場の薩摩揚げは一味ちゃうな!」


「甘味が凄く効いているわね」


「おやつ感覚でどんどん食べられるね。これはもうスイーツに分類してもいいね!」


「爆発的な美味しさですっ」




 私たちが普段食べている薩摩揚げより、かなり甘い味付けなことに驚きました!


 この一旦食べ始めたらやめられない止まらない薩摩揚げ、地元では『つけ揚げ』と呼ばれているそうです。


 色々な野菜やエビ、イカなどがつけ揚げの具として練りこまれていますが、私の一番のお気に入りは枝豆入りです。枝豆のきゅっ、ぷりっ、もちっ、とした食感がたまりません。ふわふわのすり身とコリコリの枝豆が、口の中で極上のハーモニーを織り成すエクスタシーなのです!




 そんな感じで新幹線ホームのベンチに座ってご当地グルメを堪能していると、どこからともなく一羽の大きなインコが私たちの前にふわりと舞い降りてきました。




「まあ、綺麗なインコね」


「どっかから逃げ出して来たんやろか?」


「原色の青い羽が素敵ですねっ」




 今日は何かと動物に縁のある日なのでしょうか。とても美しいブルーのインコです。




「枝豆、食べるかなあ?」




 私は口に含んでいた枝豆を一粒、指につまんでインコの前に差し出したところ、インコはトットットッと寄ってきて、そのまま手渡しでパクッと食べました。とても人に慣れているようです。




「めっちゃカワイイなあ~。何か喋ったりするんかな?」


「インコさん、あなたのお名前は何ですか?」




 あやめちゃんがインコに問い掛けると




『ミズシマ!』




 インコは確かにそう答えました。




「みずしま? 水島さんという人に飼われてるのかな?」


「たぶんそういうことやろ。はて、どっかで聞いたような名前やけど……?」




 その時、不意にどこからか琴の音色のような音が聞こえてきました。するとインコはパタパタと飛び立ち、駅の外へ出て行きました。ホームの柵越しにインコが飛んで行ったほうを見ると、オレンジ色の僧服のようなものを纏った男性が立っており、その肩に先程のインコが留まっています。




「あの人が水島さんなのかしら?」


「お坊さんでしょうか」




 水島さん? は、私たちに手を合わせてお辞儀をしたので、私たちも同様に手を合わせてお辞儀を返しました。


 そして水島さんはインコと共に去って行きました。




「何か神秘的やなあ……」


「うーむ、これは何かの啓示かも……? そうだ! あのインコはきっと、幸せの青い鳥なんだよ!」


「なるほど、わたくしたちを応援に来てくれたのですねっ」


「うふふ、そういうことにしておきましょう」




 さて、ホームに到着した新幹線に乗って、またまた鹿児島中央駅へと戻ります。これで九州新幹線の未走破区間は博多~新鳥栖間を残すのみとなりました。




□川内15:51 → さくら555号 → 鹿児島中央16:03




 さくら555号とは、これまた縁起の良さそうな列車ですね。


 なぜか次々と訪れた吉兆に心も弾み、私たちは優勝目指して着実に歩を進めていくのです!




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ