52. 第3章その16 訓練開始
訓練所に行くと、そこはやはり王都のギルドだけあってかなり広い。
外周は、外から見えない様に高い壁に囲われているが、基本は屋外訓練場になっている。
屋内にある受付で、今日の担当ナシームさんがラッキーな事に予約がなかったので午前の2コマをお願いした、金額は予約で3シュケルス/コマ、当日は4シュケルス/コマだった。
訓練場には、すでに何人かの冒険者が来ており撃ち合いや、指導を受けている人などがいた。
その中に、女性にしては長身な人が柔軟体操をしていた。
エミリアが声をかける。
「あのー、ナシームさんでしょうか?」
「ええ、そうですよ。
今日、予約はいなかったと思うけど、訓練希望かしら?」
「はい、当日で申込みしました。
エミリアと言います。」
「そうなの。
じゃあ、時間がもったいないから早速始めましょうか。
ところで、後ろの2人も一緒に訓練受けるの?」
「ええっと、見学させてもらう事もできますか?」
「もちろん、彼女がOKなら問題ないわ。」
アゴでエミリアの方を指す。
「はい、パーティの仲間でギルドの訓練がどういう感じかをしりたいのでお願いします。」
「了解。
で、エミリアは、どの武器の訓練を希望なの?
私の得意武器は確認済みよね。」
「はい、棍がお得意と書かれていたのですが、私は杖を使っています。
もし可能であれば杖術を習いたいです。」
「そう、確かに棍と杖は長さや用途、地方で呼び方が違うだけで木の棒を武器として扱う技として大きな違いはないわ。
あなたの武器を見せて。」
エミリアが杖を見せる。
「うん。
なかなか良い杖ね、ただ魔法の発動体に使う事を主体としているから、軽くて打撃にはあまり向かないわね。
もし、武器として考えるのであれば、もう少し長くて重めの物でないと意味がないと思うのだけど。」
「確かに、この杖は打撃に使った事はほとんどないです。」
「そうでしょうね。
例えば、普段は今みたいに杖を腰に差して、別にそれなりに威力のある棍を持っていて必要に応じて持ち替えてはどう?
あなた後衛よね、だとすれば距離を持って戦える弓か槍、棍でないとバランスが悪くなると思うの。」
訓練の前のブリーフィングとして、とても的確なアドバイスだ。
エミリアは良く納得できたのか勢いよく頷いて。
「はい、そうします。
棍の扱い方を教えてください。」
「素直でいいねぇ、教えがいがありそうだ。
安心して、杖術を習っていたなら、棍の扱いを覚えるのは時間がかからないわ。」
「はい、よろしくお願いします。」
「じゃあ、今日はこの棍を使ってね。」
置いてあった中では、少し短めの棒をナシームさんはエミリアに渡した。
「まず、その棒でこの動きがスムーズに出来る様に練習して。」
ナシームは自分の棍をグルグルと手首を中心として淀みなく回した。
「この動きは、基本的な防御とその後の攻撃を出来る様な型になっているの。
棍の扱いは円を描いて切れ目なく淀みなく動く事が大事なの。
さあ、どうぞ。」
エミリアが根を振り回し、頑張って回しているのだが、動きが若干ぎごちなく、スピードが一定にならない。
ナシームがエミリアの動作を止めさせて、足の位置、手首の使い方、ひじや肩の動きなど細かく指導する。
そんな様子を見てシルフィが将に提案した。
「どうやら、彼女はエミリーと相性が良さそうだな。
私達は素材の売却にでも行かないか?」
「ああ、そうだな。
エミリー、俺たちは用事を済ませてくるから、夕食時に宿で待ち合わせな。」
将が声をかけると、頷いた。
それを見て2人は訓練所を後にした。
「なあ、シルフィはどの教官にするか決めたのか?」
「いや、ただなるべく強い教官に習いたい。
さっきの口の軽そうな受付の女に、将から聞いておいてくれないか?」
なにげに毒舌なシルフィのコメントに。
「なぜ俺が聞かないといけないんだ?」
「いや、さっきの買い取りの話など聞いていると将と相性が良さそうだったから。」
「そうかぁ?」
「そうみえた。」
言っている間に受付の部屋にくると、相変わらず報告窓口は空いていたので、早速将が聞いてみた。
「あのー、先ほどはありがとうございました。」
「あら、お礼なんていいのに、どういたしまして。」
「ついでに、もしよろしければ教えて頂きたいんですが。」
「なに?私の名前はムニラよ。」
「えっ、ああ私はショウです。
って名前ではなくてですね。
先ほど教えて頂いた5人の教官の内、一番剣の腕が良い教官は誰なのでしょうか?」
「ああ、そういう事。
うーん、みなさん腕がたつので優劣つけるのは難しいです。
ただ、アジーズさんは現役時代の二つ名は『剣匠』でしたからすごかったのだと思いますよ、今は、70歳のおじいさんですが。
あ、あとエルフのエルサリオンさんも凄腕って話を聞きますが、自由な人なので…。」
「すいません。
ありがとうございます、参考にさせてもらいます。」
「いいのよ、ショウさん。
また来てね。」
将はお辞儀をしてその場を立ち去る。
「という事だ。」
「さすが、女から情報を取るのが上手いな。」
「人聞きの悪い事言うな。
お前が頼むから聞いてやったんだろうに。」
「ああ、そういえば。
参考になるな、確かアジーズという名前は明日のシフトに有ったと思う、ちょっと予約してくるから待っててくれ。」
そう言うと訓練の受付までシルフィは戻って行った。




