二話 死
ここはどこ? 私は、周りを見回した。ドアがあるがドアノブがなく、開けることができない。そして自分以外誰もいない。義人は、どこへ行ったのだろうか。隠し扉から続いていた階段を駆け下りているとき、義人が言った。
「智が追いかけてくる気配がない。おかしくないか。もしかしたら先回りしているかもしれない」
そう言われて、隠し扉のほうを見ても、ドアが小さく見えるだけだった。私は不安になり、戻ろうか、戻らないか迷って立ち止まっているときだった。
天井の一部分が開き、そこから黒い服をまとった男が降りてきて、意識を奪われたのだった。義人は無事だろうか。もし、義人に何かあったら……。そう思うと、自然に涙が出てきてしまった。出会って三年の付き合い、プロポーズされ、来週には籍を入れると約束した相手。こんなところで別れたくない。
「義人……」
私はそう呟き流れる涙を止めるため天井に目を向けた。
黒い服をまとった男が妃を入れた箱を運ぶ。その光景が目に焼き付いてはなれない。俺は、かろうじて男につかまらず、なんとかして自分が入ってきたドアに戻ってきた。俺は、あけたら智がいるかもしれないという恐怖を感じながら、ドアをあけた。
ゆっくり、キイと音をたててドアはあいた。俺は目の前の光景に目を背けてしまった。それは、全く予想のしていないことだった。
ビュービューと音をたてる風が、全身を襲う。踏ん張っていなければ吹き飛ばされてしまうかもしれない。高所恐怖症の俺にとっては足がすくむほどの高さだった。
俺がいる場所は、足を踏み外せば、断崖絶壁へ真っ逆さまという場所だった。
「義人の死体、コレクションできなくなっちゃうけど、恋人がいるからいっか」
いきなり後ろから声が聞こえた。智のものだった。俺は振り返ろうとした瞬間、体を押され宙に浮いていた。最期にみた智の顔は、笑みで埋め尽くされていた。
いや、いや、死なないで。お願い。義人!
「井ノ原妃さん」
そう私を呼んだ医者は静かに首を振った。私はその場にしゃがみ込み、大声をあげ涙が枯れるまで泣き続けた。
自分の叫び声で私は、飛び起きた。夢か。こんな悪夢をみたのはいつぶりだろう。最後にみたのは、中二のころだろうか。
殺人鬼に襲われて、逃げる私。恋人を目の前で殺され、しゃがみ込んだところを後ろからグサッと。そこで目が覚めた。
自分のみた夢をこんなに覚えていることは少ないが、酷い悪夢だったので覚えていた。この夢についてあれこれ考えていると、あることに気が付いた。
今の状況に似ている。義人の兄に追われ、夢の中では義人が崖の上から突き落とされ、病院に運ばれたのち死亡。現実でも義人が死んでいるのなら私も逃げることができない。もう、死にたい。
そう思った私は改めて部屋の中を見渡した。すると、首を吊ることができそうなロープが落ちていることに気付いた。さらに、先ほど天井を見たとき、突起物を発見している。
これなら死ねるかも。そう思い立ちあがったとき、ガチャとドアが開いた。そこには、黒い服の男が立っていた。手には水の入ったコップが入っていた。
「これを使えばこの部屋に隠してあるドアノブが見つかるはずだ。それを取り付けてこの部屋から出ろ。俺もドアノブがどこにあるかはわからない。幸運を祈る」
そう言って男は部屋を後にした。水を使ってドアノブを見つける? そんなことができるのだろうか。喉の乾いていた私は、コップの中の水を飲みほした。




