序章
俺は彼女の井ノ原妃を車に乗せて山道を走っていた。兄の荻野智が勝手に買った別荘に呼ばれていたのだ。
兄には一人で来てくれと言われていた。しかし、このことを妃に言ったら行きたいと言って、手が付けられなくなってしまったのだ。
住所は兄から聞いており、カーナビを使い向かっている。テレビも見れるが電波が悪く仕方なくナビゲーションの画面にしていた。
妃は退屈そうに欠伸をしながら窓の外を見ていた。そんな妃に話しかけようとしたとき、妃が突如、窓の外を指だし言った。
「人が歩いてる。こんな山奥なのに」
俺は、妃が指を指しているほうを見た。しかし、人影らしいものは見つからなかった。
「いないけど。見間違いじゃないのか」
「確かにいた。私この目で見たもん」
妃が頬を膨らませて言った。俺は笑いながら、そうかそうかと言ってからかった。妃はふんと鼻を鳴らしそっぽを向いてしまった。
それからも人がいた、いなかったの口論は、兄の別荘につくまで続いた。兄の別荘はこじんまりとしていて、古ぼけたものだった。
俺は、なぜこんな家を買うのだろうと、不思議でたまらなかった。俺がついたということに気づいていたのか、玄関の鍵は開いていた。
「兄さん、来たよ」
俺が言うと、二階から兄の声が聞こえてきた。
「上がってくれ。すぐ、二階に来てくれないか。一階は見られたくないんだ」
俺らは、家に入り二階に向かった。妃は、埃臭いとか、虫が出てきそうなどと、顔をしかめながら言っていた。
二階にはいくつかの部屋があった。その一つに、少し隙間があいているものがあった。俺は、兄さん入るぞ、と言って部屋に入った。
兄さんは、読んでいた小説から目を俺へと移し、俺の横にいた妃に目を移し止まった。
「一人で来いといったはずだぞ。彼女かそいつは」
「すみませんお義兄さん。勝手に来ちゃって。義人の兄だっていうもんだから気になっちゃって」
「いや、大丈夫だ。ただ、俺は今から義人と話がしたい。すこしの間だけ、隣の部屋でくつろいでいてくれないか。漫画も小説も結構ある」
「へぇ、お義兄さんって読書家なんですね」
妃が感心したようにいった。兄は、それほどでもないよと答えていた。
妃が隣の部屋に行ったことを確認すると、兄は切り出した。
「話なんだけどさ、最近あることにはまっちゃってな。それにはさ相手がいないとだめなんだ」
「だから俺を呼んだということか」俺は口を挟んだ。
「そうだ。そこで、これを飲んで欲しいんだ」そう言って兄が出したのは、市販の睡眠薬だった。
「え? なんでこんなものを?」おれはわけが分からなかった。
「まあ、人にいうのも恥ずかしんだが、それは、人の寝顔の写真をとることなんだ」
俺が、兄に理由を聞こうとしたとき、下から妃の悲鳴が聞こえてきた。俺は、急いで駆け下りて妃のところへ行った。
「大丈夫か」
返事のかわりに妃の腕が動いた。そして指をさした。その方向には赤い血溜りができていた。




