3.「ぼくのサイコーの友だち」
金よう日は五時間目まで。にが手な算数もなんだか気分はワクワクだ。終わりの会のあと、ぼくは家に帰って、お母さんに「ミホコおばあちゃんの家でお手つだいをする」とつたえた。
「小川さんのおばあちゃんね、朝、うちにいらっしゃったわ」
とお母さんから聞いた。ミホコおばあちゃんがわざわざ、「マナブくんが、リフォームのお手つだいに来るかも」とことわりを入れてくれたようだった。
ミホコおばあちゃんの家につくと、チャメは頭にハチマキをまいて、くさったエンガワの板を外しおわっていた。
「おぉ、マナブ、来たか。だいぶとススんだぜ」
「ぼくが学校に行っている間に、コレひとりでやったの?」
チャメはカナヅチをおいて言った。
「そりゃぁ、ムリだ。ナカマに手つだってもらったんだ」
「ナカマ? チャメって友だちいたの?」
ぼくがおどろいた顔でたずねると
「あぁ、ギンとテツとテンに声かけてな」
ミホコおばあちゃんがお茶を持ってきてくれた。
「マナブくん、いらっしゃい。チャメちゃんも休けいして、お茶でもどうぞ」
ぼくとチャメはしばふの上にすわった。サラサラとして気持ちいい。
ギンとテツとテンというのは、チャメの友だちらしい。ぼくだけが友だちだと思っていたのに。ぼくにはチャメしかいないのに、と思うとなんだかさみしくなった。
「そうだ、アイツら、こんどしょうかいするよ」
「でも、ぼく……」
「みんな、イイやつなんだぜ。さいしょは、ケンカもしたけど」
「でもさ、ぼくのこと、みんなスキになってくれないかもしれないし……」
チャメはぴょんとぼくの太ももの上にとびのった。みょうに、ネコらしいくゴロゴロとのどをならした。
「さいしょから、スキスキどうしなんてムリなんだぞ。きゅうに、こんな風になれなれしく、ゴロゴロされたらとまどうだろ? ちょうどいいキョリってのをさがすんだ。友だちってのは、自分とソイツとで作っていくカンケイなんだ」
そう言うと、チャメはぼくの太ももからピョンととびおりて、つめたいお茶をのんだ。
「ミホコおばあちゃん、この麦茶、おいしいね」
チャメはいつもごきげんだ。ミホコおばあちゃんも、ニッコニコでほほえんでいた。
「さぁて、外した板のかわりに、新しい板を作らないとな」
チャメはそう言うと、ぼくにブラシを手わたした。ブラシは使いこまれている。ぼくの手のひらサイズぐらいで、チャメと名まえがほられていた。
「なに、このブラシでどうするの?」
「オレの背中を、コレでブラシしてくれよ」
ぼくは言われるまま、チャメの背中をブラシでといた。ふっかふかの毛がふわりふわりと、ぬけて空中をおよぐ。「ブラシをかして」と言われて、毛がたっぷり取れたブラシをチャメにわたした。
チャメはブラシから毛をゴッソリとりのぞいた。キラキラとかがやく毛を集めて、肉きゅうでコロコロと丸めはじめた。
「コロコロりん、コロりん、クルクルりん、クルりん」
チャメの楽しそうな歌声に、毛がおどりながらまとまっていく。たっきゅうのたまぐらいのサイズだったのに、どんどん大きくなって、ドッジボールぐらいになっていた。
「わぁ、これ、チャメの毛でできたボールだ。でもこれ、どうするの?」
チャメは、自分の毛でできた大きなボールをおいて、カナヅチでトントンとたたきはじめた。
「ペッタタんこ、ペッタんこ、ペラんこ、ペラペラんこ」
チャメの歌声に、毛のボールは平べったくのびた。しばふの上いっぱいにのびて、それは大きな「木の板」になった。
「これ、チャメの毛でできた木の板だ」
「そうだよ、公えんの時けいとうも、ぼくの毛で作ったんだよ」
ネコの毛ってどんな材りょうにでもなるらしい。ミホコおばあちゃんもはじめて見たとおどろいていた。
チャメは毛でつくった木の板を、ろうか用のサイズにノコギリでじょうずに切った。ぼくは、木くずを片づけたり、木の板をはこんだりといそがしかった。
「木の板が思ったより、多いなぁ。公えんにひとっ走り行って、友だちに手つだってもらえないか、おねがいしてくれないか」
ギンもテツもテンは、あしたにならないと来ないらしい。夜から雨がふるらしいので、にわのおくにあるそうこに木の板をはこばないといけない。
「でも……ぼく、友だちいないから」
「でも、このままじゃ、木の板がダメになっちゃう」
チャメはかなしそうな顔をしている。こまった友だちの顔だ。ぼくの心がぎゅっといたくなった。チャメの気もちを思うと、自分のことみたいに感じる。
ぼくはミホコおばあちゃんの家を出て、公えんに向かった。にがてなヨシオカくんがいた。「こんなやつ、ほっとこうぜ」と言っていたのを思い出す。
でも、ヨシオカくんにたのんでも、ことわられるだろうなぁ、と思うと体が動かない。きんちょうする。ヨシオカくんが公えんの入口でじっと立ったままのぼくに気づいた。
「オオモリか、さいきん、すべり台のトンネルの中にいないんだな」
ヨシオカくんの方から話しかけてきた。
「あの、その……」
やっぱり言葉が出ない。
「なんだよ、言いたいことがあるなら、言えよ」
「そ、その、すべり台のトンネル、こんどとりこわしになるんだって」
ぜんぜんかんけいのないことを言ってしまった。
ヨシオカくんはさけんだ
「えー、マジかよー。あそこ、ひみつきちみたいで楽しかったのに」
「ほんとだよ、チャメが教えてくれたんだ」
「チャメ?」
「人の言葉が話せるネコで、いっしょにミホコおばあちゃんのエンガワをリフォームしてるんだ。でも人手がたりなくて」
ヨシオカくんはきょうみしんしんだった。ヨシオカくんが言うには、公えんでは、人の言葉が話せるネコがいるとうわさになっているけど、だれも見たことがないそうだ。
「おれでよければ、手つだってやるよ」
チャメはブラシにのこった毛に、フンッとはないきをふきかけていた。
毛はぐねぐねとまがり、生き物みたいにうごいていると思ったら、こんどはピッとまっすぐにのびた。しだいに先がとがった。はんたいがわは、たいらになった。
クギだ。チャメの抜けた毛はクギにかわった。そのようすを見ていたヨシオカくんは、「すっげー」と目をまるくしておどろいた。
「あ、マナブ、友だちをつれてきてくれたんだね」
「ネコがしゃべった!」
ヨシオカくんは、ひととおりおどろきつくしたあと、チャメとミホコおばあちゃんにあいさつをすませて、そうこに木の板をはこぶ手つだいをしてくれた。
空がだんだんとオレンジ色におおわれるころには、半分ほどリフォームができていた。さすが、うでのいい大工だ。
「あした、学校がおわるころには、かんせいしていると思うよ」
チャメがそう言うともうおそいので、今日はかいさんとなった。
帰り道、ヨシオカくんととちゅうまでいっしょに歩いた。
「すきなゲームなに?」と話しかけられたので
「ボンボンレースだよ、おもしろいよ」とこたえた。
「やったことがないから、こんどあそばせて」とおねがいされた。
「いいよ、うちにきてあそぼう」と言った。
ふしぎときんちょうせずに、話せた!
つぎの日、学校が終わって、ぼくとヨシオカくんはミホコおばあちゃんの家に行くと、エンガワがかんせいしていた。チャメはつかれたのか、エンガワで丸くなってねていた。
ぼくは、そぉっとチャメのアゴをなでた。チャメは気持ちよさそうにゴロゴロとのどをならした。ミホコおばあちゃんが出してくれた甘いクッキーをたべ麦茶をのんで、ぼくとヨシオカくんは公えんにあそびに行った。
それから友だちもふえて、きんちょうせずに話せるようになった。チャメのおかげだ。おれいを言いたいけど、チャメはあれから、すっかり言葉を話さなくなった。言葉はわかるみたいで、エンガワで話しかけるとときどき首をよこにふったり、うなずいたりしてくれる。
「ありがとう、チャメ。ぼくのサイコーの友だち」




