1.「オレの名まえは、チャメ。キミは?」
小学校入学とどうじに、この町にひっこししてきた。友だちがなかなかできないのは、ぼくにげんいんがある。ちょっとビビりなのだ。クラスのみんなはやさしい。けれど、話しかけられても、うまくへんじができない。きんちょうするから。
下校もほんとうは、帰りみちが同じ人どうしでかえらないといけないけれど、ぼくはいつも一人で帰っている。前を歩いてるクラスメイトが楽しそうにしていると、歩くはやさをちょうせつして、きょりができるようにしている。
「マナブくんもいっしょに帰ろうよ」
そうやって、声をかけてくれるのはうれしいんだけど、体がかたまってしまう。すると、
「こんなやつ、ほっとこうぜ」と言い出すヤツが出てくるのだ。ヨシオカくんだ。
引っこしてきた家はきらいだ。あたりいちめん、田んぼだらけで、森が取りかこんでいる。さいしょは、クワガタやカブトムシをつかまえてあそんでいたけど、どこへ行ってもつかまえられるので、あきてしまった。
東京にいた方が、よかったけれど、お父さんのしごとだからがまんしてねとお母さんには言われている。妹のユミちゃんが生まれてから、いや、生まれる前からぼくはがまんばかりしていると思う。
お母さんはおなかが大きくなってから、つらそうだったし、ユミちゃんが朝も昼も夜もずっとないているから、ねられなくてしんどそうだ。ぼくだって、なきたいけれど、ユミちゃんを見ているとお兄ちゃんだし、しっかりしないととむりに、がんばろうとしちゃう。
それで、どうしてもがまんできないぐらいに、大きな声でなきたい時は、公えんのすべり台下のトンネルにもぐりこんで、なく。わんわんと大きなこえでないている。たっぷりないて、スッキリしたら、家に帰るんだ。
ある日、学校から帰っていつものようにトンネルに行くと、大きなネコがゴロンと気持ちよさそうにねていた。夕方のオレンジ色の太ようの光がふさふさの毛にあたって、キラキラとかがやいて見えた。なんだか強そう。
大きなネコは「ブシャン、ブシャン」とくしゃみをれんぱつして、はな水をたらした。
「ねぇ、ティッシュもってない?」
大きなネコは、人みたいにどしんとすわりなおして、ピンク色の肉きゅうをぼくの方にむけた。
「あ、あるよ。どうぞ」
大きなネコは、いきおいよく、ブシャシャシャッとはなをかんだ。お父さんみたいだ。茶色い毛はこさがところどころちがって、シマシマのもようがうっすらと見える。白目のところがキュウリみたいにミドリ色で、真ん丸の黒目がビー玉みたいにギョロリとぼくを見た。
「ありがとう。オレの名まえは、チャメ。キミは?」
ネコがしゃべっている。おどろくタイミングをうしなった。
「ぼ、ぼくは……」
ダメだいつもみたいに、きんちょうしてきた。ネコにきんちょうしてどうするんだよ。
「オオモリ マナブ だね」
チャメがぼくの名まえをいいあてた。
「どうして、ぼくの名まえしってるの?」
チャメは前足をペロペロとなめだし、毛づくろいをはじめた。
「だってほら、くつのかかとにかいてあるから」
学校でくつをまちがわないようにと、お母さんが右に【オオモリ】左に【マナブ】と書いてくれたんだった。
「え? チャメって字が読めるの?」
「少しはね、これでも六さいなんだぜ」
「じゃぁ、ぼくと同い年だ。ぼくはこんど七さいになるけどね」
ちょっととくい気に言ってみた。
「でもさぁ、ネコの六さいは人間だと四十さいぐらいなんだぞ」
ネコは人間よりも時間がたつのがはやいってことみたい。だから、人間よりもじゅみょうが短いってことか。
「四十さいってことは、お母さんとかお父さんとかよりすこし年上だ」
チャメはうれしかったのか、エッヘンといばったポーズして、はなをフガッとならした。ついでにクシャミが、三回ブシャッと出た。
「ところでさぁ、なんでいつもここでないてるんだ?」
チャメのしつもんは、もっともだ。お気に入りのばしょで、しらない子どもがメソメソ毎日のようにないていたら、めいわくだ。
「ごめんね、もうここにはこないから」
ぼくは立ち上がって、トンネルから出ようとした。
「まてよ! そうじゃないんだ。出ていけってことじゃない。ないているリユウをきいてるんだよ」
ぼくは立ち止まって、毛づくろいをしてピシッとととのったチャメの顔をじっと見た。
「ぼく、てんこうしてきたんだ。東京から。ともだちができなくて。話しかけられてもうまくへんじできないから、ぼくがわるいんだけど。それと、妹のユミちゃんが生まれて、お父さんもお母さんもクタクタでぼくのこと、あまりかまってくれなくて」
チャメはボリボリと後ろ足で右耳のあたりを、じょうずにかいた。
「つまりだ、どこにもいばしょがないって、ことか?」
「そこまでは言ってないけど」
「じゃぁさ、オレといっしょに、いばしょ作ろうぜ」
ネコといばしょを作るってどういうことだ? それよりもさっきからネコと話をしている。もうなれたけど。
「どういうこと?」
チャメはトンネルから少し顔をだして、公えんを見わたした。
「このトンネル付きすべり台さぁ、こん度とりこわしになるんだよ。もう古くてさ。でな、近くに古い家があってさぁ、そこのおばあちゃんから、リフォームをしてほしいって、たのまれてさ」
「リフォーム?」
「あぁ、家を新しくかいぞうするって感じかな」
「チャメに? ネコにたのんだの? そのおばあちゃん」
「オレはもともと、うでのいい大工だったんだぜ」
ネコの世界にも大工ってしごとがあるみたいだ。チャメはつづけた。
「それでさぁ、リフォームしてくれたら、いっしょに住んでいいって、言ってくれてるんだ。マナブも手つだってくれたら、ほら、あそびに来やすいだろ?」
チャメのていあんは、みりょくてきだった。ぼくは「やるよ!」と大きな声でへんじをして、チャメの手をやさしくにぎった。チャメは、のびたツメをスッと引っこめて、ぼくがケガしないように気づかってくれた。ピンク色の肉きゅうは、ちょっとかたいグミみたいでずっとさわっていたかった。




