第084話 おっさん、新たな任務と日出づる国
ヨシダ達がトロイド砦の事件を解決してから一月が経った。
ご禁制の品の流通を裏で握っていた貴族一派を一網打尽にし、未曾有の危機を未然に防いだ功績は王都にも届いた。王家より褒賞の下賜があったものの、王城に召されたのはギルドのグランドマスターとパーティリーダーのみで、ヨシダに登城の命が下ることは結局なかった。
幸いにも、砦にいた騎士たちが目にしたヨシダの活躍は、アンデッドドラゴン戦で指揮を執った場面だけだった。そのため報告書には、彼は『若く有能な指揮官』として簡潔に記されるに留まっている。
むしろ大事になったのは、ヨシダのスキルで召喚された龍に跨り、多大な戦果を上げたフレアの方だった。アレスタ伯爵軍の将兵に目撃され、彼女は『聖龍姫騎士』の異名で語られるようになり、パーティの代表として(元々リーダーだが)王に謁見する羽目になった。あの場がどれほど針の筵であったかは、想像に難くない。
伯爵の証言とともに王城にも報告は上がったが、書面を読んだ王城側の結論は簡潔だった。
――奇跡を起こす戦乙女に手出し無用。
その一言とともに、王が自ら箝口令を敷いたとか、敷かなかったとか……。
それはさて置き、罪を犯した貴族たちの尋問はいまだ終わりを見せないが、事件の輪郭は明らかになりつつあった。
余燼の光の騎士団の一行は、元々ソルバルドの街で起こったスタンピードとその顛末を、王都の冒険者ギルドへ報告し、それが終わり次第帰還する予定であったが、アンデットドラゴンの事件後も王都が活動拠点となっていた。
そろそろ王都での生活が当たり前で有ると勘違いし始めた頃、またしても呼び出しを受ける。
「さて、おぬしらを呼び出したのは他でも無い、新たな任務に就いてもらう為じゃ」
歯に衣着せぬというか、もはや自分の専属のパーティの様に日夜任務を押し付けるタリシアに、自分が王都バキュラス所属の冒険者と勘違いをし始めたヨシダ達はさしたる疑問も持たず、またかと集まる。
「今回の任務は、先のトロイド砦の件に関係する」
タリシアの一言でフレアを筆頭に余燼の光の騎士団の空気が引き締まる。
先のトロイド砦での事件、今回の調査で明らかになったのは、まず竜の遺骸は15年前の事件の物ではなく、成竜になりたての若い竜、それが数年前に狩られた個体だと報告されている。
更に調査結果は、極東の竜を狩る一族の存在にまで及び、そのはみ出し者によって、国外――すなわち、王国の法が及ば無い場所で狩った竜であったと結論づけられた。
そして、その調査報告は15年前のあの日、魔導具で眠らせたとは言え、馬鹿な冒険者如きが竜を狩る事が何故出来たのか、その答え合わせでも有った。
勿論、どこで狩ろうが、どこから持ち込もうが、御禁制の品に違いはなく、王家のお墨付きが無ければ犯罪である。
そして、どこの国であろうと竜に手出しをするという事は、竜災の夜と同じ破滅のリスクを負う事でもある。
次に、三人の魔女たちとの繋がりだが、こちらの調査は難航している。タリシア達も借り出され魔術的な鑑定を行った結果、なんらかの洗脳の痕跡が認められ、彼らの意思ではなく、操られた結果では無いかとの見方も有る。
「詰まる所、奴らは操り人形でしかなかった。真の黒幕は、あの魔女共と、その背後にいる『彼の方』という訳じゃ」
タリシアは吐き捨てるように言った。
「しかし、魔女共の行方はようとして知れん。あれほどの騒ぎを起こしておきながら、煙のように消えおったわ」
プライデッツァ、ルスタフィナ、スロウネラ。あの三人の魔女は、アンデッドドラゴンという最悪の置き土産を残し、忽然と姿をくらました。 捕らえた貴族たちも、魔女に関しては「気づいたら側にいた」「魅了されていたようだ」と要領を得ない証言ばかりで、捜査は難航していた。
「そこでじゃ、別方面からの手がかりが掴めておる」
そこでタリシアは、鋭い視線をヨシダに向けた。
「例の用心棒……マサクニとムエイじゃ」
その名前にヨシダは思わず背筋が伸びる。トロイド砦で別れたあの二人のことだ。
「ヨシダ。おぬしがあの場で取り逃した二人組じゃ」
「……はい」
「その後の調査で、あの二人が――少なくともサムライの方は極東の『大蛇狩り衆』のはぐれ者である事が、貴族どもの証言でほぼ確定した。竜の遺骸を卸したのも奴らの一党じゃろう。少なくとも王国外ならば犯罪では無いからの」
マサクニがアンデッドドラゴン相手に放った『大蛇狩り流』の剣技。 あれが決定的な証拠となったらしい。
「……おぬしの詰めの甘さが、皮肉にも唯一の手がかりとなったわけじゃな」
「……面目次第もありません」
ヨシダが頭を掻くと、タリシアはニヤリと笑い、本題を切り出した。
「そこで、おぬしら『余燼の光の騎士団』への新たな任務じゃ」
その言葉に、フレア、鬼灯、瑠奈、キャトリーヌの四人も居住まいを正す。
「王都東部の国境地帯へ向かえ。あの二人組――マサクニとムエイの足取りを追い、この密輸ルートの全容を解明するのじゃ」
タリシアの言葉に、室内の空気が一気に張り詰めた。特に八紡ノ国の出身である瑠奈と鬼灯には、なにかとしがらみのある場所、その表情があからさまに変わる。
「あの二人が、東部国境に?」
「うむ。東の関所を越えようとした、という目撃情報が上がっておる。ただの雇われ用心棒じゃ、魔女共との関連は薄いやもしれん。しかし、15年前に冒険者と共に竜の巣を荒らした大馬鹿者に繋がるかも知れん。先ずはそこからじゃな」
15年前の竜を狩った者達。その単語に、フレアが強く反応した。
それとは対照的に、瑠奈は俯き加減で、鬼灯は腕を組み目を瞑ったままだった。
「承知した、グランドマスター。我々が必ず、連中の尻尾を掴んでみせる」
アンデッドドラゴンを討ち果たし、過去のトラウマを乗り越えた彼女の瞳には、もう迷いはない。有るのは事件の真相を解明すると言う固い意志のみだった。
「うむ。詳細は資料にまとめてある」
タリシアは机の上の分厚い書類の束をヨシダに押し付けた。
「準備を整え、三日後に出立せよ。わしの勘ではおぬしの行く先に魔女達は現れる……今度こそ、しくじるでないぞ、ヨシダ」
(やっぱり俺に振るのかよ……)
こうして、王都での束の間の休息は終わりを告げ、『余燼の光の騎士団』は、次なる戦いの舞台、東部国境へと向かうことになったのだ……




