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王子の夢4

 結界魔法を解いて、洞窟から夜の世界に出ていく。雨が上がったばかりの森の香りがした。湿り気のある冷たい空気。

 その心地よさを感じながら、美青のことを考えた。


(夢みたいだったな……)


 可愛い女子高生が現れたなんて。

 一体なんの妄想だよ。17歳男子のあられもない願望が具現化されたんじゃないんか?


 だって可愛い。めちゃくちゃ可愛い。

 天使みたいな笑顔を向けてくれていたけど、そうじゃなくたって、死ぬほど好みだ。いつどこで会っても好きになってしまいそうなくらい、可愛い。


 だけどあの子は本当に天使みたいで、傷だらけで目つきも悪い、まるで殺人鬼みたいな見た目になってる俺と触れ合うことも躊躇しなかった。


(俺、ほんとに死んでるんじゃないのかな……)


 こんなの、どう考えてもおかしいだろ。

 あの日死んでしまって、あとは妄想の世界だって考えた方がしっくりくる。生きてたら高校生だったから。彼女作って青春謳歌したかったから。死後に見てる夢じゃないかって。


(美青……)


 彼女は、俺にとっての唯一の日本との接点だ。

 謎の女子高生。フェイラル国物語の作者の孫。とにかく可愛い。


(賢者の情報を調べるか……)


 また会えるのかどうかも不確かだし、俺も頑張るつもりだけど、正直なところいつまで生きていられるか分からなくて。

 彼女がこの世界と繋がっているというなら、調べておけば、いつか彼女の為になるよな。

 こんな危険な世界と繋がっている、賢者の孫。


(俺も、何か役に立ちたい)


 生きる希望をくれた彼女のために、少しでも何か出来ることがあるというなら、それはまた俺の生きる希望にもなるなって。


 出来るなら、ずっと、彼女と同じ歳を取っていけたらいいのにな――






 追手の気配はどこにもなかった。飛ばしてしまったらしい彼らはどこに消えたのだろう。まさか殺してないよね?勇者が不在になるとか冗談じゃないんだけど。


 いや、というか、勇者ライアンに接触したい。

 勇者の元には、この世界の叡智を持つ者どもが終結しているはずだ。


 この場所に現れたのは、古代生物が復活している情報をどこかで手に入れて来たんだろうから、間違いなくある程度状況を把握しているはずだ。それを俺が倒してしまった今、ここに戻ってくることもないのかもしれない。


(王都を目指すか……)


 うん、当初の予定通りだな、と思う。

 結局諦めたり挫折したりを繰り返したけれど、最初に考えた道筋通りに行くしかないんだろう。

 全うに、神獣フラーバを倒して、この世界を滅亡から救うために。








 山を抜け、麓の街に入ったときにはもう明け方近い時間になっていた。

 朝になると動けなくなるので、夜のうちに出来ることがあるかな、と歓楽街に顔を出す。

 この国ではもう子供ではない年頃になっているので、こういったところで情報収集が出来るようになってずいぶんやりやすくなった。


「ぼうや、休んでく?」


 派手な外見の女性に声を掛けられて、俺はフードの下でにっこりと笑った。


「おねえさん、ちょっといいかな」


 そう言って手に金を握らせる。女は受け取ってからふと俺のフードの下を覗き込んで言った。


「あらぼうや可愛い顔してない?」

「ありがと。最近、この辺に、金髪の美形な男来なかった?背が高くて、筋骨隆々な感じの」

「ふぅん。なぁに、それって勇者様のことでしょう?」


 女はにやにやと笑う。ちょっと意外だった。そんな簡単に勇者バレしながら歩いてるのか?あいつ。


「そそ。最近見た?」

「三日前に旅立って、それっきりよ」

「ふぅん……」


 それじゃきっと、この街には戻ってないんだよな。どこまで飛ばされたんだ。


「私たちなんて相手してくれなかったわよ。横柄な取り巻き達には無理やり連れて行かれそうになったけれど」

「何それひでーな」

「そうじゃなかったら、ペラペラしゃべらないわよ」


 女は俺の手首を掴んで言った。


「ぼうやなら、相手してあげるわよ。いらっしゃい」

「……ありがと」


 俺は笑って、その手を放す。


「もう行かないとなんだ。またよろしくね」

「あら、残念ね」

「あ、そうだ。そのおねえさんの髪飾りみたいなのってどこで売ってるの?」

「……なぁに、恋人への贈り物を私に聞くの?」

「ちがうちがう。俺が付けるの」

「ぷ、あなたが?そこの門の店、商売人相手の店だから、まだやってるわよ」

「ありがと!」


 教えられたその店は、アクセサリーの店というわけではなく、雑貨屋のようだった。軽い食料から、日用品まで並べてある。こんな店もあるのか便利だな、と思いながら見ていると、髪飾りを見つけた。失くしそうだから、三つほど買った。


 そうして買ってから気が付いた。美青は、この世界の物を持ち帰れるのか?

 きっと持ち帰れるはずだ。俺自身は連れて行けなかったけれど、彼女が賢者から譲り受けただろう持ち物は、もともとこちらの世界のものなのだろうから。


 ついでにリボンも買った。綺麗な青い色のリボン。

 次に会ったときに、これを美青に渡そう。買うときに「指輪ってある?」って聞いたら奥から出してくれた。それも買う。ちょっと試したいことがある。


 もう朝が近い。

 急いで街を出て、結界を張って俺は休むことにした。


 明日は、指輪に魔法を込めてみよう。

 美青の世界と俺の魔法を繋げれることが出来るのか、試して見たい――





(アーサーが夜の歓楽街を歩いていたので驚いてしまった。やっぱりモテるんだなぁ……)

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