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撃破

斧が振り上げられ振り下ろされる瞬間、小さな静寂が戦場に訪れた。


そこにいる皆の視線がカルキオ一人に集まったためだ。


姫と騎士達は仲間の死を恐怖し、敵たちは第一の犠牲者に対して笑みを浮かべ、獣に命令を下した男は勝ち誇った顔を浮かべた。


そんな中を、一つの影が走った。


その影は包囲する兵たちの間をすり抜けカルキオの真後ろに突然現れ・・・


ドシュ!!


カルキオを蹴り飛ばした。


カルキオを見ていたものたちにはまるでカルキオが急に飛びのいたように映ったがカルキオは突然の衝撃とわき腹の痛みに耐えながら宙を舞った。


獣が振りかざした斧は当然、カルキオには当たらず、先ほどまでカルキオがいた地面に突き刺さった。


それとほぼ同時に、獣の右腕の肘から先が切断された。


先ほどカルキオを蹴り飛ばした影が振り下ろされる斧と交差するように剣を振ったのだ。

その剣は斧には当たらず、斧を持っていた右腕を切断した。


ドゴォォン! バシュ!! ブシャァァアア!!!


斧が地面に突き刺さる音が鳴ると続いて切断時の肉や骨が切れる音が続き、最後には血の吹き出す音が静寂を包みこむ。


そこにいた誰もが何が起こったのか理解できない様子だった。


ただ、ラグロスの部隊の四人は勝利の笑みを浮かべていた。(彼が来た・・・)そう思ったのだ。


先ほど蹴り飛ばされたカルキオは起き上がった直後でまだ状況がうまく理解できないでいた。


一瞬もたらされた静寂。


「グオオォォ!!!」


その静寂を破る声を真っ先に上げたのは右腕を切断された獣だった。


獣は咆哮を上げながらも自分の腕を切断した影を見る。


影はじっと立ち止まり獣を見上げていた。


「まだ、残っていたのか・・・」


影は誰にも聞こえない声でそうつぶやいた。


影が立ち止まったためにそこにいた全員が月明かりに照らされて影の正体が少年兵だと気付く。


「ビラン!」

ビランの姿を見るとレイチェルは真っ先に声を上げた。


無論、影の正体はビラン=ドルキスだ。


ビランは声を上げたレイチェルのほうを見る左手を軽く上げて小さく振った。


腕を切られた獣はビランの視線が自分から離れるのを見ると残っている左腕で斧を振り上げた


「! ・・・危ない!!」


レイチェルはビランの真後ろで斧を振り上げる獣を見てそう声を上げるがビランは獣を見向きもしない。


ブオン!


風を切る音と共にビランの頭上に振り下ろされる斧。


ドゴン!


振り下ろされた刃は大きな音を立てると同時に砂煙を巻き上げる。


ビランは斧が振り下ろされるその瞬間までレイチェルを見ていた。


そのことから今の一撃で・・・


皆がそう思ったその瞬間。


砂煙の中から上空に浮き出てくるようにビランが現れた。


ビランは獣よりも高く飛び上がりその高さが最大に達すると同時に下降を始める。


獣は自分より高い位置を取ったビランを見上げる。


獣が上を向くと同時に重力により下降するからだと同時にビランは剣を振るう。


シュバッ! ザシュリ!!


ビランの振るった剣は獣の頭上に深々と突き刺さり顔の半分以上を切り裂いたところで止まった。


脳天を切り裂かれた獣の体が力を失い前のめりに崩れたのだ。


ビランは地面に足がつくと獣の頭から剣を抜く。


剣が抜かれると獣の脳天から大量の血とその血に押されて脳味噌が吹き出した。


ビランはそれに直に当たることになるのだがそんなことを気にも留めず獣の後ろにいて先ほどから命令を出していた男に歩み寄ろうと歩を進める。


「ひっ・・・」


ビランが歩み寄ろうと歩を進めると男は情けない声を上げて一歩下がった。


その姿を見て赤い甲冑の兵士たちもまたビランから離れるように一歩下がった。


レイチェルと騎士達はその光景に一歩も動くことができない。


ただ息を呑んで次の動きがどうなるのかを見守った。


一歩、また一歩と近づいてくるビランを目にして男は何か無いかとあたりを見渡す。


すると、先ほどの獣の咆哮を聞き、動きを止めていたもう一体の獣が視界に入る。


男は獣を見て安堵して笑みを浮かべる。


(さっきは不意をつかれたが正面から普通に戦えばタウラスの方が強いはずだ・・・!)


男はそう思い剣をビランに向けて声を上げる。


「タウラス!この男を殺せ!!」


男がそう命じるとタウラスは同種の死体から目を離しビランに目を向ける。


ビランもタウラスと呼ばれたであろう獣に向けて視線を向ける。


(あれ・・・ タウラスって名前なのか・・・)


固体の名前なのか種類の名前なのかはともかくとしてビランは名前と姿形を見て記憶すると獣から視線をしてまた男へと歩み始める。


「グゥオォォォオオ!!」


タウラスと呼ばれた獣はビランの視線が自分から外れると同時に雄叫びを上げ走り出す。


だが、ビランはそんなことを気にも留めず男に向かって歩み続ける。


やがてタウラスは斧の間合いにビランが入ると斧を振り上げ振り下ろした。


ドゴン!

振り下ろされた斧はまたも大きな音を立てると同時に砂煙を起こした。


またもビランは斧が振り下ろされる最中、一切タウラスを見ることはなかった。


今度こそ仕留めた。


タウラスに命令を出した男と赤い甲冑の兵士達はそう思い顔に笑みを作る。


レイチェルと騎士達は(大丈夫なのか・・・)と不安な表情を浮かべる。


今度は先ほどと違い砂埃の中から何かが出てくる気配がまったく無い。


「やった・・・」


命令を出した男がそう呟いたときタウラスの巨体が大きく揺らいだ。


何事かと周囲のものがその姿を凝視すると大きく揺らいだ後、タウラスはバランスを崩して右方向に倒れこんだ。


ドシン!


3m近い巨体が地面に倒れるとまたもや砂煙が立ちこめる。


周りにいるものたちにはなぜタウラスが倒れたのかわからないままただ静寂が訪れる。


ザシュ!ザシュリ・・・!


その静寂はどこからとも無く聞こえてきた鈍く重い音によって支配される。


まるで何かの肉を、骨を切ったかのような音が砂埃の中から聞こえたような気がした。


そのため、そこにいる誰一人として舞い上がった砂埃から目が離せないでいた。


皆が息を呑み砂埃がはれるのはまだかまだかと待ち焦がれていたそのとき。


砂煙の中からレイチェルたちのいる方にころころと何かが転がってきた。

砂埃から出てきたそれはタウラスの首だった。


「・・・!」


その事実に赤い甲冑の兵たちは言葉を失い、レイチェルと騎士達は安堵した。


やがて、砂埃がはれると倒れ伏し首をなくしたタウラスの死体と命令を出していた男の方へと歩を進めるビランが姿を現した。


ビランがかすり傷一つ作らずに歩いてくるのを見て男はまた一歩二歩と後ろに下がると何かを思い出したかのように首元から笛を取り出した。


「ははは!まだだ!!まだ我々は負けてはいない!」


男は首元から出した笛を手にそう叫んだ。


ビランはそれを見て警戒したのか、歩みを止めた。


「ハハ・・・ ハハハ・・・」


男は笛を左で持ち、それを見つめながら薄気味悪く笑う。


まるで、起死回生の一手を思い出したかのように・・・


レイチェルや騎士達はその不気味さに怯え、甲冑の兵士達は何が起こるのか理解できずただ男の行動を見守った。


やがて男は薄気味悪い笑いをやめると右手に持つ剣をビランに向けて振りかざした


「すごいな!君は!我が方の精鋭100人を撃破し!なおかつ、二体のタウラスを倒したその腕は認めよう!だがな!こちらにはまだ70人近い兵と18体のタウラスがあるのだよ!」


男がそう叫ぶとレイチェルや騎士達の表情が凍りついた。


逆に甲冑の兵士達は笑みを浮かべて自分たちの優位を思い出した。

もともと、攻め込んできた敵の数は200人の甲冑の兵士と20体のタウラスと呼ばれる生物兵器。


100人近くの兵士と二体のタウラスがすでにビランが撃破済みでも、まだそれでもここにいる以外の兵士70名余りとタウラスが残り18体いる計算なのだ。


「まだここにいない残りの兵士とタウラスはそれぞれの持ち場にいるだろうが、この笛を鳴らせばすぐに集まってくる!そうすれば、一気に形勢は逆転する!」


男がそういうと、ジンカ、ラグロス、カルキオは銃を抜き構えようとするが・・・


ガキン! バキン!


ジンカ、ラグロスの銃は近くにいた甲冑の兵士たちによってはじかれてしまう。


カルキオは銃を構えるものの引き金を引くことができなかった。


いや、一度は引いたのだが弾が出なかったのだ。


ここに来るまでの戦闘でカルキオは弾薬を使い果たしていたのだ。


「ビラン!! その男の笛を奪え! 破壊しろ!」


拳銃を切り捨てられ傷を負いながらも、ジンカはビランに向けて言葉を放つが、ビランは微動だにしない。


レイチェルや騎士達も笛を吹かせまいと一歩男に向けて歩を進めるも、甲冑の兵たちにはばまれ、近づくこともできない。


最も男に近い位置にいるビランは動く気すらない。


(あの間抜けは何をやっているのだ・・・)微動だにしないビランを見てジンカはした唇をかむ。


男はビランが何ゆえ動かないのか気にしながらもビランとの距離をとった。


(この男の速さは尋常ではない。動かないのはこの距離からでも笛を吹かせるよりも早く私を斬る自身があるからか?・・・それとも戦力差にあきらめたか?)


逡巡の末、男はビランに一つの提案を持ちかけることにした。


「君は強いな。その若さでその強さ。我が国は優秀な人間は大歓迎だ。どうだね?私の仲間になるのならそこの王女の首を差し出せば、君を私の部下にしてやってもいい・・・」


男の提案に騎士達の表情が一段と険しくなった。


今現在の戦力にすらかなわないのに、ビランに寝返られたら最早勝ち目は無い。


騎士達の険しくなった表情を見てレイチェルは笑みを浮かべながら小さくつぶやいた。


「大丈夫、心配しないでビランは裏切ったりしないわ。」


騎士達にギリギリ聞こえるように言ったその言葉にはレイチェルのそんなことはありえないという自信が漲っていた。


しかし、レイチェルの言葉を聞いても騎士達の表情は険しいままだ。何せ彼らはビランノことをよく知らない。レイチェル自身はビランのことをよく知っているが、彼らは今日初めてビランに会ったのだ。それで、信用しろという方が難しいだろう。


おまけに、未だに戦力差の余りの大きさにどうすればいいのかわからなかった。


なにせ、こちらの戦力は今ここに結集しているが向こうの戦力はまだ半分以上のこっているのだ。


男の言葉を聞いた後、護衛の騎士たちがどうすれば現状が好転するのかに施行を巡らそうとしたその時、ビランはゆっくりと口を開き返答した。


「くだらない話は好きじゃない。さっさとその後自慢の笛を吹いたらどうだ?」


ビランは男に剣を向け、挑発するようにそういった。


「な・・・ この私が温情を与えてやろうというのに・・・ この愚か者が!!」

男はそう叫んだ後、大きく息を吸って笛を吹いた。


レイチェルや騎士達は身動き一つとれず、ただそれを見ることしかできなかった。


「ピ――――――――!!!」


男が笛を吹くと甲高い音があたりに響いた。


男が笛を吹き終わると騎士達は回りを警戒した。


どこからどれだけの敵が来るのかを確かめるためだ。


しかし、笛が鳴り響いた後


どれだけ待っても誰も来る気配が無かった。


やがてそのことに、甲冑の兵士たちも動揺しだした。


男はどういうことかわからず、もう一度笛を吹こうとしたそのときビランが口を開き、そこにいる全員に聞こえるように言った。


「正門、裏門、正面玄関、裏口、ここ以外の東西南北の内の三箇所に10人ずつの兵士と二体ずつのタウラス。さらにタウラスは四体が一体ずつ監獄内の東西南北の四箇所に侵入。計、兵士70名、タウラス18体で何か間違いはあるか?」


男は驚愕した。


今、ビランが言ったことが何を意味するのかを瞬時に理解したからだ。


それはこの施設を取り囲む自分たちの配置と人数だったのだ。


なぜビランがそれを・・・


男がそう思ったとき、ある結論が男の中に出た。


男がそれを聞こうと口を開きかけたとき、その言葉をふさぐようにビランが先に口を開いた。


「どうやら、理解したようだな。ここに入ってきた奴らで残っているのはお前たちだけだ。」


「――――!!」


その言葉に男だけでなく甲冑の兵士達もレイチェルや騎士達ですら驚愕して言葉を失った。


「さて、戦況は理解したな? もはやお前たちに勝ち目は無い。 大人しく投降してこっちの質問に素直に答えろ。 そうすれば、命だけは助けてやる。」


簡潔にビランは男にそう述べた。


男は剣を握り締め笛を手放し地面を見つめる。


(降伏すれば我々がどこの国から来たのかが必ず聞かれる。答えなければ殺され、答えれば我が国は大変な不利益を買うことに・・・。 どうすれば・・・ どうすればいい?!)


男は全身から冷や汗を吹き出しながら必死に考える。


(自分たちの任務はあくまでも戦争を始める下準備のための諜報活動がメイン。今回はそのための拠点の確保が任務だった。つまり、今わが国には戦争をするだけの戦力も準備もできていない。ここで我々が自国の正体を明かせば、この国は大義名分を得て堂々と我が国に進行を開始するだろう。そうなれば、他の国々も追随し・・・ ・・・我が国は滅ぶかもしれない・・・)


今だ、各国はどことも盟を結ばず冷戦状態ではあるが、どこかの国同士が戦争を始めれば同盟を組むことは十分にありえる。


たとえ初戦に参加しなくとも初戦に勝利すれば他の国々も勝利国に同盟を求めるか、同盟が無くとも敗戦国に攻め込み後々の戦いに備えて国土を広げようとはするだろう。


しかし、今回は違う。


冷戦状態の現状で他国に対して諜報員を送ったとなれば、たとえ諜報員が送られていない国ですら、(自国にも・・・)という疑念が生まれる。

そうなれば、諜報員を送った国は他国からの反感と疑念から集中砲火を浴びる。


3対1ではどう考えても敗戦は必死・・・


男がこの場をどう乗り切るか逡巡していると、甲冑の兵のうちの一人が動いた。


ビランはかまわず、男を見つめる。


レイチェルや騎士達は男が何をするのかを警戒し、甲冑の兵士達は動いたものが何をしだすのかをただ見守る。


兵は後ろに立つとビランに対してゆっくり口を開いた。


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