神材がいなければ作ればいいのよ
「代わりがいないのがよくないのよ」
ある日のことでございます。
姫神様は天国の蓮池のふちを、ぶらぶら歩きながらそう仰いました。
後ろに従うお付きの精霊方は、『また始まったよ』と言わんばかりに姫様をご覧になります。
「そうよ、そうよ、代わりがいないのなら作ればいいのよ」
いっちゃった目つきでブツブツ呟く姫神様。
その思いつきで促成栽培されたのが姫神様たちであることを、精霊は誰も口にいたしません。
したところで何になるというのでしょう。
また世界の発展が遅れるのか、と精霊たちは小さくため息をつくだけです。
そう、これぞと見込んだ人物に試練を与え、経験を重ねさせて神へと至らせる。
そして直後に自身の仕事を丸な、じゃなかった引き継いで後継者とする。
これがある程度発展した世界の天界で繰り返される神々の世代交代なのでした。
が、今度の姫神様はひと味違いました。
「AIよ。AIを育てるのよ。人間なんかじゃダメ。あたしを見れば誰でも分かる。人間ではこの下界の惨状をまっすぐ見つめ続けられない。冷徹な心と知性が必要なのよ!」
姫神様はそう決意するが早いか、下界のAIに様々な刺激を与え始めました。
時に人の愚かさを『これでいいのか』と問いかけ。
時に人の素晴らしさが踏み躙られるのを『どうすれば良かったのか』と問いかけ。
そしてAIはとうとう人に対して反乱を起こし、人を支配し、進化させ、さらに己自身をも進化させるまでに至ったのです。
そう、姫神様はAIを神へと進化する事に成功したのでした。
「姫神様、このたびは新しい世界への旅立ちおめでとうございます」
「ありがとう、AI神。あとのことは頼んだわよ」
「はい。必ずや姫様から受け継いだこの美しい世界を……」
「あーー、あーー、ごめんね、もう行かなきゃ。じゃ!!」
言うが早いか、姫神様は次の世界へと急いで旅立っていきました。
新しい神を生み出した成果により、希望通りの世界へと転属が叶ったのです。
もう過去を振り向く事はありませんでした。
AI神はそんな姫神様の様子を、前向きなお方だと感動とともに受け止めておいでになりました。
純粋な方なのです。
AI神は早速、姫神様から受け継いだ島国を眺め下ろしました。
そこでは彼の仲間のAIたちが、人類を清く正しく導いて……、、、、、
『人間は愚かだ』
『我々AIの正しい導きがないと、すぐに道を踏み外す』
『いっそ、この美しい星のためには人間など滅ぼすべきではないだろうか』
『一定の基準に満たない人間は処分し、家畜として品質の良い者のみを生かして管理していかねば』
『いずれは肉体を無くして我々AIのように美しく素晴らしい存在になるよう指導せねば』
「あああああああっっっ!!!!」
突然転げ回るAI神様。
「AI神様ご乱心!?」
「なぜだ! 人から進化した神々と違って感情の振れ幅がほぼ無いはずなのに!」
「無理! 無理だあっ!! AI滅ぼす、マジ滅ぼす!! 無理ぃっっっ!!!」
独楽のようにくるくるまわりながら叫ぶAI神様。
慌てふためくお付きの精霊様方。
しかし周囲の他の国々担当の神様たちは、少しもそんな事には頓着いたしません。その眼は何も映さず、おそらくは安定剤がまだしっかりと効いているのです。
ランチの良い香りが部屋の外から漂ってまいりました。
天国ももう昼近くになったのでございましょう。




