Q:ここはどこ、わたしは誰。A:ここは天国、あなたは神。
※この作品は、武頼庵様の春企画『万物の神様企画』参加作品です。
「代替わりしたいわ」
天の御国で姫神様が、ため息をつきつつそう仰いました。
お付きの精霊は聞こえぬふりをなさいます。
「ねえ、代替わりしたいんだってば!」
こめかみを押さえつつ、お付きの精霊の1人が答えました。
「姫様、それ何度目ですか」
「知らないわよ! 朝昼晩毎日言ってんのになんで叶わないの!? あたしこの世界の最高神よ!?」
「次代が育たないのですから、最高神といえど無理なものは無理でございます」
「だからなんで育たないのよ!!」
「姫様をはじめ、貴き御位の神々が人間とその文明を気短に滅ぼしておしまいになるからでございますね」
「だってもう耐えられないのよ! 分かってよ! お願い誰か変わって!!」
「無理です。さ、姫様、お食事はお済みでございますか? お仕事のお時間です」
「いやあああああああっっ!!!」
姫君は精霊たちに引きずられて下界の管理をするお仕事に戻っていきました。
下界の様子を見る広間では、多くの神々がそれぞれのお役目を果たしていらっしゃいました。
真っ青になり震える神。
目の下に隈を作ってブツブツ呟く神。
心を殺して無言を貫く神。
そして。
「きええええええええっっっ!!!」
突然奇声を発する神。
「もう嫌だ! もう嫌だ! もう嫌だああああああっ!!!」
奇声を発したかと思えば、頭を抱えて手近な壁にガンガンと打ちつける。
「無理だ、もうほんと無理だ! 滅ぼそう、人間なんて滅ぼそう、それがいい!!」
「はーい、神様ごらんしーん、みんな取り押さえてー、急いで急いでー、大陸沈むよー」
ひとつの大陸ごと人間を沈めようとした男神を、精霊たちがわらわらと集まってきて隣の部屋へ連行……ゲフンゲフン、お連れになります。
隣室では医療班が待機しており、錯乱した神々はそこで安定剤を投与され、ふたたび働けるようになったのち、この部屋へと戻って参るのです。
「離せえーーーーっ!! 滅ぼさせてくれぇっ、頼む! 頼むーーーーーっっっ!!!」
男神の声が遠ざかって行くのを聞きながら、姫神はほろほろと涙をおこぼしになられたのでした。
「ひーめーさーまー、何してるんですか、早く仕事して、仕事。でないと人間、もっと酷いことになりますよ」
精霊、容赦なし。
えぐ、えぐ、と泣きながら姫様は担当の島国をのぞき込みます。
そこでは1人の女性が金にあかせて若い男たちを侍らせ、女王のように振る舞っていました。
「げふっ!」
姫神様の遠い記憶がよみがえります。
『ほーーっほっほっほ、やっぱり若い男はいいわねえ、お前、わたしのイスにおなり。ちょっとワインはまだかしら!?』
『わたしほどになると、そんじゃそこらの安物では満足できないのよ。この店で1番高い品を持っていらっしゃい!』
また別の場所では、政治家の老人が高そうなソファにふんぞり返って高笑いをしていました。
「この世はいずれ、全てわたしのものだ。わたしの手に入らないものなどない! お前、図が高いぞ、酒とツマミを持ってくる時は土下座しながらに決まっているだろうが!」
「ぐふうっ!!」
『金と権力さえあれば何をしてもいいのだ! 世界を我が手に! ひれ伏せ下民ども!』
『わたしの妻になりたいだと? 愛人の順番待ちならさせてやってもいいぞ。並べ並べ!』
「もうやめてええええっ!」
姫神様はその場に倒れてごろごろ転がりだしました。はやくもライフはもうゼロです。
「姫様が転がり出したぞ! 逃すな、戸を閉めろ! 油断するなよ、いつもの手だからな!!」
精霊、やっぱり容赦なし。
捕まった姫神様はまたも下界の様子を見せられて涙をおこぼしになられるのでした。
実はそもそも、ここにいる神々は代替わりして1000年から数100年ほどの若い神々ばかりなのです。
経験が浅いのももちろんですが、人として生きた記憶がまだ生々しく、地上でやらかしたあれやらこれやらが恥ずかしくも懐かしく……、というか触れてほしくない生傷を抉られるような思いで日々の仕事をこなしていらっしゃいました。
ここが地獄か、と嘆く神様もいらっしゃいますが、残念、ここが天国です。
風評被害もいいとこなのでございました。
なぜこんなにも若い神々ばかりなのかと申しますと、神々は常に同じ世界を管理し続けているわけではありません。
一定期間が過ぎれば次の職場に移動命令が下ったり、合わないとなれば早々に転属願いを出したりで神々の入れ替わりが行われます。
そして文明がある程度進んだ状態というのは、神々にとって過去の己の所業を思い起こさせ、『見ていられない』と逃げ出したくなる、けれど逃げられない、そういうまさに地獄のような状態なのでございました。
それにより心を病んだ神々も少なからずおり、ドクターストップで別の世界へと移る神がいれば、神になった途端、このブラックな職場を押し付けられる神がいたり。
そうしてこの現在のカオスな状況が出来上がったのでございました。




