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ド外道奴隷商くんと鬼畜クソ女ちゃん  作者: スヤニカ
序章 アルマ・サンという男

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01  序章 憤慨 ド外道君は奴隷商

「アルマ様。こちら、先月の売り上げに関しての数字と、それに伴う業務書類となります。どうぞ、お目通しを」


 秘書から受け取った書類の山に目を通していく。すると、一枚の改善報告書に目が留まった。

 途端に罪悪感が呼び起こされる。

 忘れもしない、これは少し前のお話だ。改善報告書にはこう記されている――――黄金歴、430年、春節の出来事であると。







                 ※※※※※※※※※※※※






 その日も朝と昼で十度近くも変わる寒暖差に対し、俺は全身を覆う最上級品質のローブマントを羽織ることで、対策を為していた。

 そして、そんな素性を隠す風体の俺ことアルマ・サンが今いる此処は、人間――――奴隷売買を営むド違法な場所。

 しかも今日は、久々に会った奴隷商の様子がおかしかった。詳しく聞き出せばなんでも、半年ほど前()()()が入荷されたのだとか。

 奴隷商にその商品の経緯を聞いた時、俺は血相を変え、その場へと一目散に身を翻した。


 勝手知ったる店の中。その奥に隠されるように設置されている地獄への階段を下るにつれ、明度は暗くなり、日向の喧騒は遠くなった。外部音が聞こえないのだから当然内部の音も聞こえない。

 

 ハッキリ言っておく。弁明も釈明もしない。こんなところへ足を運ぶ俺は外道者である。

 

 そして、悪人が好きだ。自由が好きだ。俺は我を通したいのだ。ならば外道に尽きる。自由に生きるのにこれ以上適当な道は他には無い。


 何しろ善人は馬鹿を見る。真っ当に生きるという事は、それだけで足枷をつけ、水中を歩くが如き抵抗を生む。俺には到底できない愚かな行為だ。

 彼らは法律の中で生き。規則の上で行き来し。相互理解を経て手を取り合う。信用を得て責任を任され、信頼を得て後続を引っ張り、友情を持って奉仕し、最後には情愛から愛を育む…………と、本気で思っている。

 馬鹿馬鹿しい。何事にも例外はある。いや、厳密に言えば例外の方が多い。筋道通り行くのなんて本の中だけの話だ。

 皆が皆、他者を慈しみ、尊ぶのならば、ルールなど生まれる筈はないのだから。


「つまり世の中、皆の頭の中が、お花畑なわけでは無いのですよ。残念ながらね。」 


 実際、今俺の目の前には品行方正にも、慈しみを持って生きていた女性が一人、怯えながら買い手を待ち、鉄格子の隙間からこちらを恨めしそうに見ている。


「…………ぅっ…………ぐ…………ぅうう」


 その声はしわがれている。相当泣き叫んだのがわかる。大方、『試食品』としても運用されたのだろう。


「でも…………だからって、誰かに押し付けるのは、違うわ…………」


 『でも』か…………なら、葛藤はあったのだろう。他者を差し出せば今とは別の未来もあった。そういう後悔を感じさせる。加えて、その己自身に沸き上がる、醜い思いに対する同等の罪悪感もだ。

 でも、この女性はその選択をしなかった。断言する。善人と言って差し支えない。


「…………そのような自己犠牲精神を持っているから、そのような試練に放り投げられるのですよ。」 


 女性の目は死んでいる。曇ったガラス玉のようだ。元は良かったであろう容姿はやつれ、栗毛色の髪も干からびパサパサ。砂漠の砂の方が、まだ水分があるように見える程、絞られている。

 見栄えは重要な第一印象。商品ならば、売れなければ利益は出ないのだから、これは衛生観念に改善が必要だろう。


「それでもまだ、あなたは他者より、自分が苦しむ方がいいと言うのですか。」


 女性はじっとこちらを見ている。死んだ目なのに強い意志を感じる眼差しだった。爪も剥がれかけた血みどろの指は、強く鉄格子を握りしめた。

 言われなくても分かる。俺――――悪人に対するせめてもの抵抗だ。つまり、今の彼女は単に表面が錆びついているだけなのだ。その善人の心は高潔なまま。

 偶にいるんだ、こういう馬鹿が。度し難いお人好しが。


「理解できないのです。俺にはね。だからあなたのような人は苦手です。」


 もちろんまっとうに生きる事にもメリットはある。普通に生きる分には安全圏で生涯を終えられるし、面倒事にも巻き込まれずらい。

 でも、巻き込まれない保証はなく、もしも巻き込まれてしまった場合には成すすべもなく、ずるずると裏社会へと引き込まれ二度と戻ってこれはしない。


「もう、そこまで堕ちれば、誰も助けてはくれないでしょうに。」


「そ、んなこと…………っ」


 そう。そんな事にも気づかない。善人はどうしようもなく馬鹿で、脳みそが足りない。善人は視野が狭く浅慮なのだ。表社会で生きる自分は一生安寧を享受できると思い込んでいる。裏社会は自分には関係の無い世界だと高をくくっている。


 たとえば、無邪気にもボールを追いかけていた子供が、明るい人混みからほの暗い路地裏へと一歩踏み出すだけで、非日常へと変わる事を理解していない。

 表裏一体と言う言葉が、なぜ生まれたのかを忘れている。いや、気付かぬ振りを決め込んでいる。


「実に愚かしい。だから、あなたは今そんな所に居るのですよ。常日頃から悪人を忌諱し、恐れた方がいい。まず、その態度を改めなさい。悪人は、強く反発すればするほど、いやらしく、むごたらしくもあなたを縛り上げようと躍起になるのですから。」


「分かってるわよ…………っで、も…………そんなの!私は…………」


「俺はそんな人生ごめんです。惨めで、滑稽で、人権なんてありはしない。家畜未満。肥溜めの方がマシときている。」


「っ…………あなたは!…………何し…………にきたのよ。私を買いに来たんじゃないの?」


「いいえ、違います。」


「じゃあ、何なの。冷やかし?身なりがいいものねあなた。顔もローブで隠して、そのくせ上からジロジロ見下ろして、自分のいる位地を自慢にでもきたのね。」


「それも違います。」


「じゃあ、何しに」


「ここの奴隷商から、あなたの経緯を大方聞きまして」


「はっ…………笑いに来たって事?旦那も、子供も守れなかった惨めな私を、ねぇ!そうなんでしょ!!」


「…………奴隷商から聞いた性格とは、ずいぶんかけ離れてますね。荒んでしまっている…………」


「こんなところに、ずっといれば性格も歪むわよ。知ってる?ここ、絶えず悲鳴が聞こえるのよ。今日が初めてよ、こんなに…………静かなのは…………」


「残念ながら、あなたが今までどのような苦渋を飲んできたかなんて、興味関心はありません。俺が聞きたいのはあなたが『仕掛品』となるまでの経緯のすり合わせと、あなた方家族を貶めた悪人の情報です。」


 とは言え、経緯のすり合わせは、彼女の態度を見れば大方間違っていない事は分かった。後は情報だけ。


「取引をしませんか。ジューン・ホーンさん。」


「私らを掴まえた人たちの?…………そんなこと聞いて、何になるのよ」


「あなたにとっては『利』になるかもしれません。何しろ、俺は悪人が好きなのです。」


「…………子供と旦那に会わせてくれるの」


「取引に応じますか」


「…………私達の幸せを奪ったのは、ダリオファミリーよ。あいつら…………ぅヴ!!あいつら!!旦那と子供の前で私の事ボロ雑巾みたいに!!」


「言ったでしょう。あなたの体験した官能の話に興味はありません。どうせ理路整然としない、ちぐはぐな内容でしょう?まだ、畜生の交尾の方が情欲が湧きますよ。ははは」


「…………最低ね、あなた」


「当然です。さっきも言ったでしょう。悪人は忌諱すべき存在です。同情を引こうなんておやめなさい。弱みを見せるべきではありません。あぁ、そうです。腹が立つなら俺を睨み、罵詈雑言を吐き捨てる痰壺にでも見立てなさい。今回は大目に見ます」


「高説をどうも…………はっ、反吐が出るわね」


 そう、それでいい。こんなところへ来る人間なんてろくな奴なわけがない。期待するな。心に保険を掛けろ。その方が楽になれる。


「さ、ダリオファミリーについて、知ってる事を全部話してください。」


「その前に、約束して子供と旦那に会わせるって」


 約束って…………俺の言葉はまったく脳みそに定着していないようだ。

 いや、悪人の言葉をうのみにしない、という点ではまぁ、及第点とはいえるかもしれないが。


「…………お約束します。さ、どうぞ」


「ここに来るまで、目隠しされてたから詳しくは分からない。けど、私の知ってるダリオファミリーは――――」


 ――――魔薬に人身売買。用心棒と言う体の法外な巻き上げ…………ね。ああ、風の噂で聞いた通り、大した面白みも無い。よくある子悪党じゃないか。

 まぁでも、


「小遣い稼ぎにはなりますね。」


「は?」


「言ったでしょう。俺は悪人が好きなのです。彼らに人権はありません。殺しても、奪っても、全てが合法。要は何をしても許される。ちなみに、女、子供の構成員もいますね」


「たしか…………でも、それが、何?」


「高く売れるのですよ。あなたみたいに。一般人を攫うと足がつきますが、裏社会の人間は居なくなろうと誰も探しません。他組織との抗争の果ての消息不明がせいぜいだ。」


「そ、そんな事!!許されるとでも思ってるの!!」


「あなたも既に共犯者ですよ。」


「なっ」


「俺に情報を提供してしまった。彼らが死んだら、それはあなたのせいでもある。俺と言う悪人を見抜けなかった自業自得。もし止めたければ、俺を殺してください。」


 言った瞬間、ジューンは格子に体を密着させ、俺に不衛生な手を伸ばしてきた。

 もっとも、俺はそれを見越して一定距離離れていたから、何の被害も無いけど。


「…………なんて愚直。そのような浅慮だから尊厳を踏みにじられるのですよ。あぁ、家畜未満に人間様の言葉は分からないでしょうか。なら、ぶひーブヒブヒー…………ッと鳴けば、些かは通じますかね?」


「こ、の!!!!あんたも、ダリオファミリーと同じなのね!!!人の事なんだと思ってるのよ!!?」


「金。性欲のはけ口。あと、体のいい駒。全ては俺の持ちうる惡の華の一輪です。今のあなたは、まだ、種ですがね。」


「…………っあぁあああああああああああああ畜生ちくしょおお!!!」


「そのように大声出さなくても自己紹介なら聞こえていますよ。ここ、女子供を嬲った時、悲鳴がよぉく反響するように()()()()()()()()()。」


「へ…………っ?今なんて」


「ここに居る家畜は皆、表社会には居ない者達です。言ったでしょう。足が付くから俺はそういう人間は売らないのです。だと言うのに…………」


 実は俺は今、はらわたが煮えくり返っている。その原因はここの主人。要は俺の部下に対してだ。


「久々に経営を見に来てみれば、あなたのような()が居る。参ってしまいました。もう、立ち眩みがした程です。」


「あ、んたが、じゃあ…………ここの?」


「ええ。でも、とある理由がございまして、一所には留まれません。ゆえに経営は人任せ。俺はオーナー。」


「こ、の!!!!腐れ外道!!!地獄に落ちろ!!!」


「ええ。大往生した暁にはね。とは言え、しこたま賄賂を積んで、俺は天国に行くことになりそうですが。ははは」


「行けるもんか、神様は皆の行いを見て下さってる!!!」


「でも、俺はこれまで健やかに生きてきました。他者を踏みにじってすり潰しても、この通りピンピンしてる。神様も悪人が好きなのです。」


「…………話してると、怖気がする。汚らわしい」


「そっくりそのまま返します。腐乱臭まみれで、けがわらしい醜い体だ。病気にでもかかりそうです。あぁ、失礼。あなたはもう、重篤な病を患っているか。不治の病――――馬鹿をね」


「…………絶対ぶん殴ってやる。いつか、必ず!!!」


 ここまで言われても、殺すの一言も言えないのか。やっぱり理解できない。まぁ、これで悪人を忌諱する気持ちは構築できただろう。

 俺は大きくため息を吐くと、踵を返し、奴隷商の下へと戻り始めた。


「…………これだから、善人は苦手なのですよ。罪悪感でいっぱいになります。」


「あんたに人の心なんてないだろ!!」


 背後で怒鳴り声がこだまして、俺の耳をキーンと傷めた。どうやら聞かれたらしい。反響する設計も考え物だな。


 俺は薄暗い仕掛品置き場を後にし、階段を上がり、明るい部屋へと足を踏み入れる。店のフロントに位置する場所だ。ここは、さっきの場所と違って可憐な花の香りが溢れている。従業員が接客する場所であり、客がもっとも出入りする場所であるのだから、清潔感は大事。

 俺は装飾品の台座を指でなぞり、埃の有無をチェックした。

 

「まあ…………及第点」


「旦那様。」


 俺が指についた塵をこねていると、戦々恐々と言った様子で、この奴隷売り場――――表向きは『お花屋さん』の主人がゴマスリ訊ねてきた。

 主人はバオ・ズンと言う大柄な男。鼻が大きく、歯並びが悪いのが特徴だった。


「お、お話は…………もうよろしいので?」


「あぁ。済みました。」


 俺の笑顔に対し、ほっと胸をなでおろした奴隷商の主人には簡素に別れの挨拶を済ませ、俺は足早に出口へと歩みを進める。

 そして、出入口付近で待ち構えていた、この店の副主人へ軽く耳打ちをした。


「おめでとう。昇進です。」


「え、は?」


「たった今からあなたが、この店の主人となるのです」


 俺の言葉をアホ面で唖然としていた副主人は、すぐに意図に気付き、醜く口角を上げた。


「しかし、バオ・ズンはジューン・ホーンの件。あなたから許しを得たと言っていましたが…………本当によろしいのですか?」


「…………なんですかそれ」


「っ、え、いやバオ・ズンです。前任の――――」


「――――分からないなァ…………俺、人の名前は覚えがいいのですが…………如何せん、畜生には名前を付けない主義でして。その名前にとんと心当たりがありません。と言うかそもそも、畜生との口約束なんて、なんの効力を持つのでしょうか。あなたはどうお思いで?」


 「いえ、私にも理解及ばず…………」と新たな主人は肩を大きく振るわせ委縮した。


「出過ぎた真似を。失礼しました。」 


「そう畏まらないで下さい。ただまぁ…………経営を傾かせるような無能な経営者が居るとするならば…………それは家畜未満であることは、確かだと思いますが。」


「クク…………承りました。」


 「それと」俺は軽く振り返り、店の奥へと視線を流し、声を落として言う。


「ジューン・ホーンさんには清潔な寝床と、健康的な食事を速やかに配膳してください。あれでは売り物にならない。いいですか、最低でも一年間は手厚く世話を焼いて誰にも売らぬよう、傷を負わせぬようにしてください。」


「あ、の…………アレは奴隷ですが…………もしや」


 「あらぁ…………」と新たな主人の瞳がいやらしくも薄く延ばされる。あぁ、嫌な予感がする。


「もしや、購買意欲が湧いたのですか?」


「…………口が達者ですね」


 俺をからかう胆力は一旦ほめよう。仕事柄荒事も多い業界。根性は捨て置けない重要な採用項目だからだ。

 だが、それ以上に非常に不愉快だ。下衆が。

 俺はマウントを取るのは好きだが、取られるの嫌いなのだ。


「彼女はそも、我らの扱う品ではない。奴隷ではない。事態を軽く考えていますね、あなた。いいですか、これは異物混入という由々しき事態です。」

 

 そして俺は、低く怒気を孕ませ、一言一句丁寧にも唸るように、フードの下から新たな主人を睨みつけた。


「口答えせず、異議を申さず、盲目的にも命令に従いなさい。」


「は、はい。」


 どもった新たな主人の声は震えていた。瞳も少し潤んだように感じる。


「そ、…………そちらも承りました。」


「よろしい。ではまた抜き打ち監査に来るので、改善しておいてください。あぁいや。それと、もう一つ」


 新たな主人はもう口を挟んだりはしない。俺をしっかりと見て、決して命令を違えないよう、やや前かがみになっている。躾の効果がもう出ているのだ。


「いいですか。よく聞きなさい。ジューン・ホーンさんの夫と、子供。その二名の捜索を速やかに。そして、発見次第、買戻しておきなさい。金に糸目は問いません。」


「捜索の人員は如何様に?」


「後で追って伝えます。今は、そのような命令が下るという、心構えをしておけばいいのです。分かりましたか?」


「仔細、承りました。行ってらっしゃいませ、旦那様。」


 その畏まった礼を一瞥し、俺が店を出ると、日光が視界を白く霞ませた。

 晴天である。暗闇に慣れた俺の目には眩しいお天道様の光。苦手だが、嫌いではない。

 ただ、視界を遮られていると、他の五感――――とりわけ聴覚が敏感になる。すると、人の行きかいによる軽快な足音。遠慮がちな噂話。袖触れ合う衣擦れの音がワッと滝のように押し寄せた。

 直後、


「監査は済んだぁ?キヒヒ」


 微笑ましい日常の喧騒を押しのけ、舌ったらずで耳障りな声が、横から水を差してきたのだ。

 俺はその時、瞳孔の調整を兼ねて目頭を揉んでいたのだが、本当に忌々しくて爪を立ててしまった。上がりかけていた口角が、イラつきでへの字に曲がる。


「で、人を人とも思わないド外道君はぁ…………この後どうするわけぇ?」


 この声の主のせいで、俺は一所に長く留まれない。

 本当に存在その者を否定したい。何度売り飛ばしても買い手を殺して戻ってくるのだ。煮ても焼いても犯しても嬲っても、あらゆる苦痛をあっけらかんと透過する。全く懲りない。まるで萎えない。

 いつしか、コイツに構う事は、俺の有意義な人生――――時間を無駄にしていると気付いてしまった。

 それからは真面目に取り合っていない。

 この鬼畜クソ女はこの世の醜悪の擬人化。ゆえに、罵詈雑言を吐き捨てる痰壺だ。

 そして、生まれて初めて、俺に悪人を嫌いだと思わせた悪徳の証明でもある。


「チッ…………いたのか鬼畜クソ女」

 

 俺は一瞥もくれず、目的地へと早足に動きだした。

 もっとも、「ヒッどーいぃ。」とか言う鬼畜クソ女も、着かず離れず追ってきたのが、本当に腹立たしいが…………。


「他の人とはお話しするのにぃ~こぉんなに可愛い女の子には素っ気ないのぉ~?ずーるーいー!!…………あっ、やっぱり、衆道なの?」


「見た目の美しさなんて飾りだ。」


 そう。どんなに磨いたって、内面の清廉さには劣る。善人の心根には何人も太陽が宿ってる。


「内面の美しさこそ、外見へ及ぼすこの世で最も美しい光だ。」


「人の心曇らせる人身売買(マンハンター)の元締めがぁ、それ言うのぉ?すっごく矛盾~」


「口を開くな。息が臭い。」


「うわーお!ひっどい罵倒ぉ~女の子に言っちゃいーいけなんだぁいけなぃんだぁ~衛兵に言ってやろ~~キヒヒ」


 うざすぎる。もはや溜息も出ない。顔の周りを飛び回る蚊の方がマシだ。いや、蚊に失礼だな。彼らには鳥や虫の餌と言う役割がある。

 でも、この鬼畜クソ女には役割がない。ただただ場を引っ掻き回し、赤い足跡を残していくんだ。文字通り、足が着くような…………。


「…………その外面と内面。入れ替える魔術は無いものか…………」


「もう、せっかくいいことしてあげようかと思ったのになァ…………チラ、チラ?」


「怖気が立つ。その人外な目で世界を見るな。」


 本当に不愉快だ。今となっては、人の目が鬱陶しい。

 今、この場でこいつを殺す事が出来るなら、俺は大枚をはたく。なんなら『お花屋さん』全てなげうっても俺からすればお釣りがくる。


「うわ!すっごい嫌そう~~。私好みぃキヒヒ…………」


「チッ、俺はお前みたいなガバガバな中古と遊ぶときは必ず、別の具合の良い穴をねじ込んで調整する。分かるだろ、お呼びじゃないんだ失せろ鬼畜クソ女」


「うっわ、処女厨 とかキンモ~。でも傷ついちゃったなぁ…………また、君の嫌がること、して来ちゃおっかなぁ~チラ、チラ?」


 と、背後の気色悪い足音が停まり、俺も聞き捨てならず、ねめつけるように振り返った。


「あ゛?」


「女子供。老若男女構わず、()悪ひっくるめて痛めつけちゃおうかなぁ~ねぇ?」


「…………お前」


「キヒヒ、その顔!そうそう困るよねぇ!足が着くもんねぇ!いい人死んじゃうの嫌だもんねぇ!?もちろん殺さないよ。四肢をもぐだけ。内臓をばらまくだけ。障碍者として、一生を死にたいと思いながら往生してもらうだけぇ~。幸せな生は、五体満足でこそ。安寧は健全な精神があってこそ!成就するんだもんねぇ~~??」


「今回は何が目的だ」


「だぁからぁ…………どこ行くのって聞いてるじゃんね?」


「…………仕掛品に重大なミスが発覚した。出庫停止。一人分だが、利益が減るのはいただけない。」


「でぇ?」


「新たな惡の華――――新商品の仕入れに。」


 俺はこの北方領土――――ヴァニラ列島は『トグサの街』から南方へ視線を向ける。


「ダリオファミリーの拠点、クォールの街へ。」

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