第二十四話 日向の決断
「……だめ」
全てを思い出した日向はそう言った。
その表情は、ずっと、大人びていた。
「……日向」
「司、わたし、まだ戦う」
その言葉に、司は、ひざからくずれ落ちた。
日向の手をにぎり、涙をながした。
「日向、日向、もう苦しまないでくれ。もう、やめていい」
日向は、ゆっくりと手を上げて、司の頭をなでた。
「まだ、やることがのこってる」
司は、白い薬の蓋を閉めた。
そして、懐から、赤い薬をだした。
「日向は知っていたんだね。この赤い薬が、帝様の”血”だって」
小さくうなずく日向。
「思い出した」
「そっか」
「東北で、帝様は、きみのことをとても気にかけていたよ」
そこで、帝のみが行える力を借りた。
「この薬をのめば、日向、きみは助かる。完全に”器”として完成する。帝様のつけた菊の模様も消えたきみは、”阿修羅”をおさえなければならないけれど、その力を全て使うことができる」
「帝様は、きみに選択肢を与えた」
司の声は、震えていた。
「人間になるか、阿修羅になるか……きみは、阿修羅を選ぶんだね」
日向は、その頬に手をあてて。
陽だまりのように、ほほ笑んだ。
「うん」
その表情に、司は一筋のなみだをこぼして。
日向の口に、薬を流し込んだ。
ゆっくりと飲み下し、目を閉じた日向は。
そのまま眠りに落ちた。
「日向は、これで一命をとりとめ、完全に阿修羅を制御できるようになった」
こぶしをにぎって、司はひとり言のようにつぶやく。
「人間になれたのに」
なみだをぬぐって。
そして、跪いた。
「これからも、死ぬまで、あなたを守ります」
日向、生還。
数日後。
「日向!」
目覚めた日向が、一番最初に見たのは、約1年ぶりに見る、司の顔だった。
「司……名隊の1番隊隊長になって会うはずだったのに…ごめんね」
へらっと笑う日向に、司の瞳から、涙がこぼれ落ちる。
「大出世には変わらないよ」
「あっははは、だって、ぼく、現人神だったもんね」
そう言って笑う日向の顔は、もう明るかった。
「特上のひつまぶしを、ごちそうしてあげるよ」
灰色の渦巻きが描かれた帯留めをつけた、黒い帯紐をつけた司を見上げて。
日向は、笑った。
「司、戻ってきてくれてありがとう。おかえり」
「日向、生きててくれてありがとう。ただいま」
ぎゅっと抱きしめ合って、そして。
日向は、まっすぐに司を見つめた。
「やらなければならないことをするよ」
全てを思い出した日向の目は、どこまでも鋭かった。
「大阪のあっきを倒す」
そう、宣言した。




